「バーチャル渋谷」50社が連携した街づくりの物語:自分ゴト化できるチーム Vol.2

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

徐々に人出が戻りつつある渋谷。ふと、何事もなかったように楽しく例年通りの仮装イベントができれば・・そんな気持ちにもなる。しかし、なかなかそうはいかないのが2020年10月末の状況だ。

渋谷区は今年、ハロウィンによる訪問を自粛するという異例の声明を発表した。代わりに彼らが用意したのが仮想化された会場での催しだ。10月26日から約1週間、今年の渋谷・ハロウィンはバーチャル空間で開催されており、参加者は自分のアバターを用意して、このハロウィン・イベントにスマホからアクセスすることができる。

そしてこのバーチャル・ハロウィンの舞台となっているのが「第2の渋谷」、バーチャル渋谷になる。KDDIと渋谷区観光協会、渋谷未来デザインが協力して立ち上げたコンソーシアム「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」から生まれたミラーワールドがそれだ。今年5月に立ち上がった渋谷区公認のれっきとした「街」でもある。

渋谷はなぜ仮想化の道を辿ったのか。前回に引き続きプロジェクト共創の裏側をキーマンに聞いた。

仮想化が必要だった渋谷・ハロウィン

感染症拡大は人々を遠ざける必要があった。渋谷・ハロウィンほど強烈に「3密」を感じるイベントはなかなかないだろう。しかしハロウィンを仮想化させる試みはそれだけが理由ではない。KDDIでこのプロジェクトをリードした三浦(伊知郎、KDDI 5G・xRサービス戦略部 革新担当部長)氏は背景をこう語る。

話の始まりは昨年の9月です。渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトの前身になるコンソーシアムを渋谷区と一緒に立ち上げたんですね。渋谷という街は色々な課題も抱えつつ、当然可能性もたくさんあるんです。ただ、その課題解決や模索も楽しくないと実験もできないし進まないだろうということで、5G時代にあったエンターテインメントに色々トライしながら、新しい事業のタネを探してみようという試みに発展したんです。結果、30社ぐらいが参加する形でスタートし、現在は50社ほどが参加するプロジェクトになっています(KDDI 三浦氏)。

渋谷といえば人でごった返すハチ公前広場、JR渋谷駅が思いつく。1日300万人という膨大な人たちが訪問する渋谷において常に繁栄のシンボルとなる一方、「消費されない街・渋谷」という顔も見え隠れする。スクランブル交差点でパッと写真だけ撮ってそのまま別の市街地に流れていく観光客。渋谷をもっと知って、別の楽しみ方を提案したい。プロジェクトはこれら課題に対し、「回遊と滞在」をキーワードに、集まった各社と協力しながら色々な仕掛けを用意することになっていた。

街を拡張するアプローチもその一つだ。当初は「攻殻機動隊 SAC_2045」の世界観を実際の渋谷に重ねて体験するXRのプロジェクトが進行していた。MRヘッドセットやARグラスを使って現実世界とコンテンツを融合させる。コンテンツを求めることで、自然と回遊と滞在を生み出す。キャンペーンのようなスタイルから実際に人々がどのように動くのか検証するはずだった。

なのでコロナ禍があったからバーチャル空間を作った、というわけじゃないんです。“もう一つの渋谷“という考え方は以前からありました。しかし突然、行けない街になってしまった渋谷にどうアクセスするかという課題が急浮上したことで、バーチャル渋谷の実現は一気に加速して作り上げました。また、バーチャル渋谷を作り上げることができた大きな理由として、ここまで一年近くを渋谷区やステークホルダーのみなさんと議論して助走してきた経緯があるんです。

コンソーシアムを通じて、渋谷のステークホルダーとの意見交換、コミュニケーション、関係値の構築がものすごく重要でした。これがなかったら、我々だけでは絶対にできていませんでした。ステークホルダーや渋谷区とのコミュニケーションの中で浮き彫りになっていた課題として、例えばスクランブル交差点にはゴミ問題が常にあって、これって渋谷区民の税金で清掃対応しているんですね。ハロウィンも同じで、元々「集まった人たち」に対してどうするのかという課題解決が必要だったのです(KDDI 三浦氏)。

混乱が深まる中、三浦氏らチームメンバーは現実世界を離れ、完全な仮想空間での課題解決に舵を切ることになる。

自分ゴト化できるチーム

バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス

街を仮想化する、という話については開発を担当したバーチャルワールド「cluster」による開発ストーリーを前回お届けした。ステークホルダーが複雑に絡み合うなか、ミラーワールドはどのように創られたのか。KDDI側のチームワークを三浦氏はこう振り返る。

このチームがいいなと思ったのはメンバーが色々な部署から興味ある人たちが集まってる、という点です。どうしても大きな企業には縦割り的なものってあると思うんですが、それでも(このプロジェクトに)突っ込んでくる人たちが結構いたんですね。機動力があったのはそれが要因で、バーチャル渋谷って4月から5月ぐらいにかけて一気に作ったんですけど、こういったプロパーでありながら縦割りに囚われないポジティブな社員に支えられたというのが実感としてあります。

言われたからやるってスタンスではなく、どんなに大変でも楽しいから、頑張れる。好きだから、とことんやり遂げる。そんな社員に支えられています。保守的になりがちな社会的傾向からすると、KDDIの社員はチャレンジする精神が脈々と流れていることを実感しました。(私は大学卒で、NTTに勤務していた経験があります。どうしても比較してしまいます)

加えてパッションさえあれば、社内の垣根とか色んなルールは守った上でみんな前に進めて来てくれるんですよね。「自分ゴト化」って本当に大事で、好きで頑張ってやっていたらいいモノができて、それがメディアに取り上げられて自分がやってきたことを社会に評価してもらう、こういう健康的なサイクルが生まれているのが強いですよね(KDDI 三浦氏)。

実際の共創現場で発生する課題解決、意思決定の数はどこかのスーパーマン一人で処理できるものではない。そしてこのような自律したチーム作りに必要な要素、それがビジョンだ。登るべき山が見えていなければ、自律的なチームワークは生まれないし、ましてや別の企業との共創ともなればハードルは別のところにも出てくる。

どこの企業もそうですが、やりたいとなった時、上司の説得や社内稟議に時間がかかりすぎるとやはり出遅れますよね。ここは日本的企業のちょっとよくないところで、こういう企業間を超えたプロジェクトの場合、ある意味会社を超えたチームワークを作らないといけないじゃないですか。その時、ウチはこういう理屈でないとダメですとか、そういう内向きではなく「渋谷と一緒にやっていく」という大義名分の方を優先させるべきだと思うんです。共創ってこの「なぜやるのか」という部分を共有できないと難しい。

この一緒に作っていくという考え方やカルチャーって本当に大切で、例えばプロジェクトに参加してもらっているエージェンシーにしても、どっちがクライアントでどっちがスタッフで、なんていうポジションは本当にどうでもよくて、ダメなものはダメと指摘し合える関係性っていうのでしょうか、これが絶対に必要ですよね。何か出てくるのを待ってても絶対に何も生まれない(KDDI 三浦氏)。

渋谷という大きな「可能性と課題」がここに集まる企業、行政、そしてそれぞれのチームを「自分ゴト化」させ、プロジェクトを前進させることにつながった。もちろんそれぞれの思惑はあるだろうが、そこに視点を落とした瞬間、大きな共創の枠組み、チームワークからは脱落する。

街が抱える問題にオープンイノベーションはどのように作用するのか。バーチャル渋谷を取り巻くストーリーは、次回、3つ目の視点となる渋谷区に話を移す。(次につづく)

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