シリコンバレー発、長期経営をテーマとした新証券取引所「Long Term Stock Exchange」が稼働開始

Image Credit : Long Term Stock Exchange

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重要なポイント:a16zをはじめとするシリコンバレーの名だたるベンチャーキャピタルからの出資を得た、新しい証券取引所、Long Term Stock Exchangeがサンフランシスコでこの秋に稼働した。起業家であれば誰でも一度は読んだことがあるであろう、「リーン・スタートアップ」著者のEric Ries氏がアメリカのテックスタートアップの掲げる課題を解決するため、ニューヨーク証券取引所やNASDAQにはない制度やサービスの導入を10年かけて実現させたものである。2020年10月末時点で上場企業は確認されていないが、今後の動向に注目が集まっている。

詳細な情報:Eric Ries氏は、企業の規模を問わず、「リーンスタートアップ」で紹介されているイノベーションのサイクルを回していくためには、長期的な視点に立った経営が必要であると説いている。同氏は、そのような経営を後押しするためには、専門とする証券取引所の立ち上げが最も有効であると考え、LTSEを創設した。

  • LTSEに上場する企業が長期的な視点に立った経営を行うために、LTSEは(1)その考えを推奨する制度の遵守を上場会社に求めること(2)コーポレート機能の効率化を支援するツールを提供することが必要としている。
  • LTSEは、同社の定める「長期的な視点に立ったステークホルダー経営の方針(Long-Term Stakeholder Policy)」の遵守を上場企業に求めている。本方針の概要は以下の通り。
  1. ステークホルダー:上場企業はステークホルダーに配慮し、互いに成功を果たせるような経営を行うこと
  2. 戦略:上場企業は会社の数年後、数十年後の成功を予想し、長期的な意思決定を優先させること
  3. 報酬:上場企業は、役員報酬を長期的な業績に基づき決定すること
  4. 取締役会:上場企業の取締役会は、長期的な戦略に関与し、実行を監督すること
  5. 株主:上場企業は、長期的な株主との対話(エンゲージメント)を行うこと
  • さらにLTSEはスタートアップが経営管理を効率化・高度化できるよう各種ツールを提供している。本ツールはLTSEへの上場企業のみならず、非上場企業にも提供されている。Y Combinatorの選抜会社にも提供されているだけでなく現在5万ユーザーが利用しているとしている。代表的なツールは以下の通り。
  1. CAPTABLE.IO:企業のキャップテーブルや評価額、ポートフォリオ投資、エクイティプランなどの管理を助けるツール
  2. FAST409A:企業評価支援ツール。Shareworksとの協業
  3. RUNWAY:コスト把握の簡易化、資金管理及びシナリオ計算ツール
  4. HIRINGPLAN:人事報酬計画及び計算のためのツール、人材コンサル会社Conneryのデータを活用
  5. DISCLOSURE:投資家向けのツールで、投資先企業からの情報の要求、追跡、集計のプロセスを合理化

背景:Alphabet、Amazon、FacebookやAppleなど、西海岸発のテック企業がアメリカの資本市場を支え、世界に400社あると言われているユニコーン(時価総額10億ドル以上の非上場会社)の50%以上はアメリカ企業が占め、多くの新興企業が勃興している。

しかし、一方で上場会社数が減少し、IPOまでの期間が長期化する傾向も見られる。プライベートエクイティやベンチャーキャピタルへ年金や政府系ファンドなどの巨大なアセットオーナーから多額の資金が流入し、株式公開せずとも十分に資金調達することができるからだ。とはいえ、Eric Ries氏によれば、企業の規模が大きくなればなるほど、アメリカのプライベートエクイティやベンチャーキャピタルであっても下支えすることが困難になるため、投資先に対して最終的には株式の公開を望んでいるとしている。

SEC 委員長Jap Clayton氏はアメリカ経済全体の観点から「(このまま機関投資家がアメリカ企業の成長を支え続けると)この先10年で経済成長の70%を一般国民が享受できなくなることは、望ましくない。」と警鐘を鳴らしており、今後LTSEへの上場企業が増えていくのかどうか、どのような投資家が市場を活用するのか、注目に値する。

執筆:NeKomaru/編集:岩切絹代・増渕大志