ソニーがスタートアップのデザイン支援をする理由

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左からソニーデザインコンサルティング福原寛重氏とグローバル・ブレイン代表取締役の百合本安彦

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載。Universe編集部と同社の重富渚氏、木塚健太氏が共同執筆した。

テクノロジー系スタートアップにとって、ブランドやPR活動の重要性は年々高まっています。例えば日経BPコンサルティングが毎年実施している一般消費者6万人を対象にしたブランド価値調査「ブランド・ジャパン」の最新結果によると、総合でトップを取ったのは「YouTube」、次点が「LINE」(※昨年トップはAmazon)で、インターネット・サービスが消費者の脳裏に深く焼き付いていることがわかります。

ブランドに期待される効果のひとつに「第一想起」というものがあります。ある分野のサービスを使おうとした時、消費者が真っ先に思い浮かべる認知順位のことです。PRの手法では「ソートリーダーシップ」などと呼ばれ、各社の露出戦略やストーリーづくりなどに大きく影響を与えています。

グローバル・ブレインでは、先日公表させていただいたValue Up Teamと連携した形で、スタートアップのデザインやPRを支援するプロジェクトが進んでいます。今回は2回に渡り、この活動にフォーカスしてご紹介させていただきます。

デザイン視点での経営戦略

グローバル・ブレインではソニーデザインコンサルティングと協業し、デザイン視点での経営戦略の可視化からデザイン組織のマネジメント、量産に耐えられる製品デザインまで幅広い範囲を支援する体制を構築しています。内部だけでは支援が難しい場合、外部のスペシャリストや企業と連携して事業の価値向上に貢献するケースとなります。

ブランディングやクリエイティブは会社や製品の価値を正しく伝えるための重要な手段です。具体的には(1) デザインコンサルティング、(2) デザインマネジメント、(3) デザインサービスの3テーマで支援を実施します。

まず、デザインコンサルティングです。これはデザイン視点で経営戦略の可視化を行い、デザインによる事業課題の解決・価値創造を狙うアプローチになります。目的や目標を共有可能なものとして可視化し、事業効率や意思決定を効率化させるために、ブランドコミュニケーションやクリエイティブディレクションなどを支援します。

次のデザインマネジメントでは、デザイン組織のマネジメント、デザイン評価やKPIなどのツール提供やコンサルティング、クリエイティブ人材の教育といった点を手がけます。

最後のデザインサービスはより制作現場に近いプロダクトデザインやユーザーインターフェイス、コミュニケーションデザインやグラフィックデザイン、その他デザイン業務に携わります。デザイン支援と聞くと最後の「デザインサービス」をイメージされるかもしれませんが、実際はより根源的な経営課題の解決まで伴走するのが特徴です。

ソニーデザインコンサルティングのクリエイティブディレクター福原さんは、なぜソニーがスタートアップを支援する理由について下記のように語っています。

弊社がスタートアップ支援する理由は様々ですが、事業の早い段階で『デザイン』というものが事業に対して提供できる『効用』を理解いただくことが最も重要だと考えています。デザインとは単なる表現やお絵かきではありません。ある意味では事業そのものもデザインとも言えるものだと思います。そのような視点からデザインを改めて考察いただいたり、クリエイティブに関する理解、表現の整理、こだわるべき点と力を抜くポイントなどを議論することで、事業にとってデザインが有益な効果を発揮すると考えているからです。

ファーメンステーションのケース

プログラムで手掛けた除菌ウェットティッシュのパッケージ

具体的にこの支援プログラムを受けたケースをご紹介します。ファーメンステーションは独自の発酵技術を使って未利用資源からエタノールを精製し持続可能なプロダクトを企画・開発するスタートアップです。グローバル・ブレインは2018年に投資を実行し、彼らの事業成長を支援しています。

昨今、社会におけるSDGsの気運が高まり、循環型事業を手掛けるファーメンステーションの注目度も増してきました。

そのような背景も後押しし、大手企業とのコラボレーション製品(除菌ウェットティッシュ)の開発が計画として持ち上がりました。この製品には非食用米やリンゴの搾りかすといった本来であれば捨てられてしまう「未利用資源」を活用して精製したエタノールを使用していることが特徴です。

ラボでの製造の様子

また、昨今の感染症対策の流れもあり、アルコール消毒関連製品が一般消費者にも身近な存在となっている中、事業会社などがノベルティとして除菌ウェットティッシュを配布する場面も増えてきました。そこで今回の製品にはノベルティとして配布する際に、メッセージを沿えて提供できるアイデアを盛り込むことになりました。

リンゴの搾りかす

単なる「無料の配布物」ではなく、これを企業が消費者とのコミュニケーション手段として使うことで、感染症拡大への対策であると同時に、持続可能な社会を目指すというメッセージも込めることが可能になりました。

コーポレートカルチャーにまで遡る

デザイン・プロジェクトは開始から約2カ月で成果となりました。

今回、ファーメンステーションにとっては初めてのマス向け製品のためデザインにも力を入れたく、グローバル・ブレインに相談を持ち込まれたのがはじまりです。

最初に取り組んだのはメッセージの整理です。除菌ウェットティッシュのデザインを作るにあたり、コンセプトや伝えたいことなど製品が生まれるまでの経緯をソニーデザインコンサルティングチームに共有します。

製品のデザインは会社のミッションと関連するため、会社全体のミッション、ビジョン、バリューの整理と言語化から各事業を通して伝えたいことの整理・言語化までサポートを行っていただきました。ファーメンステーションではこれらの一連のサポートをコーポレートカルチャーを見直すよい機会として取り組まれました。

ファーメンステーションでプロジェクトに参加した酒井里奈さんは今回の取り組みをこう振り返ります。

「ファーメンステーションにとって初のマス向け製品でした。未利用資源から生まれた製品、という背景をどこまで積極的に伝えるパッケージにするか、何度も議論を繰り返し、デザイン案を複数いただき完成しました。こういったコンセプトの製品がこれからの時代の常識になるといいなと思っていますし、この製品が、そのきっかけになることを願っています。販売も予定しているので、是非多くの方に長く使っていただける製品にしたいと思います」。

次回はグローバル・ブレインで実施しているもうひとつのコミュニケーション戦略支援、「PR」についてお伝えします。

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