プロセスエコノミーと小さな経済の時代

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画像クレジット:「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です」より

先日、アルというソーシャル漫画サービスをやっているけんすうこと古川健介さんから突然メッセージがやってきて00:00 Studio(ふぉーぜろすたじお)というサービス始めたよ!マニアックでリリース前なんだけどクリエイターめちゃ増えてる!」というお便りをいただいたんですね。

00:00 Studioはクリエイター(漫画とかイラストの作家さんたち)が作業中を淡々とライブ配信するもので、彼が言う通り、すごくマニアックです。ちょっと覗いてみたのですが、よくあるYouTubeのかっちょいいイラストの早回し制作動画とかと違い、本当に単なる制作風景です。目の前でnoteを書いている(というか、単にテキストが打ち込まれている)様子を見るというのはなんというか悪いことをしているような感覚にも近く、ライブ配信やコンテンツを視聴するとはなんぞやということを考えてしまいました。

リアリティショーや日常のライブ配信、雑談でもなく、覗き見です。

00:00 Studio:応援コメントはニックネーム入れたら送ることができます

ということでサービスはさておき、彼がこのサービスと一緒にシェアしてくれた「プロセスエコノミー」という考え方に興味あったので共有したいと思います。

プロセスエコノミーとはその通り、何かの過程自体もビジネスにする考え方です。対局にあるのがアウトプットエコノミーで、できた商品やサービスを購入するのに対して、できている過程に課金したり、そこに共感してコミュニティに参加するといった具合です。実際、けんすうたちが運営しているアルでは「アル開発室」というコミュニティをやっていて、アルを開発する上でのプロセスを公開しながら、課金で毎月200万円ほどの収入を得ているそうです。

さて、プロセスを最終のプロダクトに反映させる事例として、私が好きなストーリーがAllbirdsのケーススタディです。同社は温室効果ガスゼロを目指して製品づくりを進めていて、サイトのメインコンセプトとして強く打ち出しています。同時にAllbirdsについてはAmazonコピー問題という別の事件がありました。

当然ですがAmazonの商品にこのような製品の物語はなく単なるコピーです。もちろん消費者がどちらを選ぶかはその方々の状況次第なのですが、ここで重要な視点に「共感できるかどうか」というものがあるんですね。けんすうが言うところのプロセスエコノミーにも通じる大切なキーワードで、製品やサービスに差がどんどんなくなる時代、人々がなぜそれを手にするか。そこには絶対的な「スキ!」という感情がなければならない、共感できるものと一緒にいたいというのはごく自然な考え方ではないでしょうか。

けんすうの言う「プロセスまで含めてサービスや製品を好きになりたい」という考え方に同意するのはそういう理由からです。

パッションエコノミーと共感

Allbirdsでは全面的に環境にやさしい製品作りを押し出して消費者に共感を与える

もうひとつ、プロセスエコノミーに興味を持った理由として、とあるトレンドがあります。それがパッションエコノミーです。

ギグワークなどの「消費される」個人の生き方と異なり、個人のスキルや情熱(パッション)を別の価値に変えようという動きで、日本でもクラウドワークス・ランサーズなどのクラウドソーシング関連、BASEやMOSHといったコマースプラットフォーム、ココナラやビザスクと言ったスキルシェア、YOUTRUSTやOffersのような副業プラットフォームなどなど、様々な形で個人をエンパワメントするサービスが拡大しています。

今、日本ではようやくというか、終身雇用だったり新卒一括採用などの昭和的動きが商習慣的にも終わりを迎えつつあり、例えば先日公表された電通の個人事業主制度などは大きな話題になりました。仕事を人生の全てではなく、一部として考えれば色々な選択肢を渡り歩くのは当然で、その中に一時期は個人や小さなチームで生きてみたい、というものが出てきても不思議ではありません。

ただ、この生き方、まだまだ環境が揃っているとは言い難い部分があるんですね。特に「どうやって自分たちを知ってもらうか」というのが難しい。企業は何か製品やサービスを出す際「プレスリリース」という手法を使ったり、広告を打ったりして認知を取るわけですが、当然この方法は資本力勝負な面があります。

では資本力にどうやって小さなチームが立ち向かうか。それが先程例に挙げたAllbirdsのような「共感」を生み出す力と方法なのです。

特にプロセスは継続的に情報を出すことができます。自分がどうやって製品を作っているのか、なぜこれが必要なのか、そういったストーリーを組み込みながら、小さく情報を出していくと、自然とその考え方に同調してくれる人々が集まってくれます。課金してくれるかどうかは設計次第ですが、それでもそういう人の輪が広がっていくと、自然と小さな活動が徐々に力を持っていくのです。ちなみにBRIDGEも小さいイベントを通じてスタートアップコミュニティで共感を重ねた結果、今の状況があります。

ソーシャルメディアの発達も後押ししてくれていて、Twitterやブログサービスなどで自分の考え方を表現しやすい時代になりました。そこに共感できるストーリーがあれば、大量の広告よりも効果的に人を巻き込むことができます。

個人や小さな経済活動が広がる時代というのは向こう数年でもっと広がると思います。今回のパンデミックを機にリモートワークが進み、遠方に引っ越した人たちの話題もよく耳にするようになりました。特殊な資金調達をしてIPOを目指すスタートアップのような方法は極めてリスキーですが、自分のスキルや経験を活かした生き方というのはライフイベントに合わせて選択できてしかるべきなのです。

パッションエコノミーという時代にいかに共感を生み出すことができるかが、今後の経済活動を占う鍵になるのではないでしょうか。

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