2020年のスタートアップたち:デジタル化したミートアップ、躍進した音声SNS(前編)

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Photo by alexandre saraiva carniato from Pexels

急激に市場が変化を見せた2020年。個人の範囲でも不可抗力的にリモートワークなどが採用され、今年をきっかけにライフスタイルを変化させた人も多かったのではないでしょうか。

COVID-19により、同時進行的にグローバルの国境が閉鎖されたことで、スタートアップ各企業の事業戦略に変化が見られ、特に旅関連は大きな影響がありました。今年4月、5月頃は絶望的な落ち込みを見せていたAirbnbが大きな期待と共に上場するなど、環境の変化にフレキシブルに対応したケースもあった一方、2019年末の時点では予想していなかった大型調達企業がシャットダウンしています。

例えばCo-Livingスタートアップとして総額1,340万ドルを調達していたHubHausはそのひとつで、2016年に創業して以降、シリーズAを2018年に迎えていましたが今年9月初旬にシャットダウンしています。また、AIを活用した自動販売機のスタートアップとして総額1,000万ドルを調達していたStockwellは今年6月の時点で、こちらはCOVID-19を理由にシャットダウンを発表しています。またSNS系で大きな注目を集め、総額17億ドルも調達していたQuibiがシャットダウンしたのは記憶に新しいところです。

注目株がサービス終了の憂き目を見る一方、ZoomやMicrosoftのTeamsなど、環境の変化により劇的に需要が高まったサービスも目立ちました。ほんの1年前までZoom・Teamsという言葉自体が共通言語ではなかったことを考えると、その市場への浸透スピードは驚くべきものです。ということで本稿では前半・後半に分けて、2020年の世の中の変化を捉えた、今後注目していきたいスタートアップをテーマ毎に10社取り上げてみました。

分断とダイバーシティーのバランス

Image Credit : Syndio

まず最初にご紹介するのは、HRテックスタートアップの「Syndio」です。2020年を振り返れば、COVID-19と同時並行でBLMやLGBTQ、多様性のあり方などが改めて世の中に問われた年でもありました。特に大統領選挙ではしばしば「分断」という言葉が米国を中心に使われました。政治思想や人種、性別間において思想が分断され、米国民が文字通り分断されるという意味合いです。

このテーマでこの数年議論されている問題の1つに職場における性別格差があります。「#MeToo」運動で顕在化しましたが、具体的には女性職の方が男性より給与が低く、収入差が生まれている問題などが挙げられます。ここに切り込んだのが「Syndio」です。Syndioは、給与分析を通じて、適正な給与体系を提案するサービスを展開しました。性別や人種、民族、年齢に結びついた差別的な給与の差を根絶し、それらの格差を是正するための施策提案までを提供しています。

Syndioは本社を筆者の住むワシントン州シアトルに置いており、まさに西海岸の特徴であるダイバーシティの積極的受け入れ、Fairenessを意識したサービス内容となっています。直近でいえば、GoogleのAI倫理研究者Timnit Gebru氏を巡る組織と個人・研究者の在り方のように「Faireness」を中心とした問題意識はあらゆる観点で生まれています。

今後、Syndioのように「Fairness」を意識したSaaSプラットフォームが世界中で登場する流れはますます加速するでしょう。シアトル発のスタートアップにはSundioのようなコンセプトを強く持った企業が多くあるものの、現状そこまで知られていない実情があると感じます。今後は、SFに加えシアトル発のスタートアップが「Faireness」のようなコンセプトを中心にブランディングされていくのではないかなとひそかに感じています。

音声のすごさ

未だサイトトップページもこのようなベータ版にも関わらず一気に注目株となったClubhouse

音声コミュニケーションの市場も注目を集めました。ネクストSNSというと、VR・ARを融合させたものが注目されがちですが、音声を中心にソーシャルネットワークを作り出せる可能性に市場期待が集まりだしています。Twitterも音声ツイート機能をリリースするなど既存SNSもサービス展開に乗り出していますし、Discordはゲームチャットプラットフォームから次世代SNSへと拡大をすべく、大型調達を重ねています。そうした市場で先頭を走っているのが「Clubhouse」です。一見すると、音声コミュニケーションは昔からあるサービスであり革新的な技術ではないように思うかもしれません。

しかし実は音声市場の熱は、ハードウェアの登場により起きています。

それがAirPodsの登場です。爆発的に広がったこのデバイスをきっかけに、ハンズフリーかつ、いつでも自由に誰とでも交流できる体験が広がりました。このハードウェアによる新たなユーザー体験が、改めて音声サービスの提供価値を掘り起こしたのです。Clubhouseの躍進に象徴される音声コミュニケーション需要が弾けたのが2020年であり、今後もハードウェアの向上やデジタル上でのコミュニケーションがライフスタイル化することでこの市場は大きく伸びることが予想されます。

“ミートアップ”のデジタル化

Image Credit : Superpeer

さて、今年は今までオフラインで開催されていたものが完全オンライン型で開催されるケースが増えました。

各企業や団体にとってはオンライン型開催のトライアルを積極的に実施できるよい機会だったのではないかなと感じます。例えば、AppleはWWDCを初めてオンラインベースで開催したり、2021年のCESは完全オンラインで実施することが決定するなどの動きがありました。市場の可能性を感じる一方、まだまだ試行錯誤中であることも事実です。例えば抜け漏れの例として個人の収益化が挙げられます。小さなカンファレンスやイベントでZoomを活用したイベントが増えていることからZoom本体もここに注目しています。 

ミートアップのデジタル化は、インフルエンサーなどの活躍でトレンドとなった「パッションエコノミー」や「個人サロン化」にとって追い風になります。しかしZoomは基本的にテレビ会議システムであり、ここに最適化されたサービスではありませんでした。あくまで、COVID-19の影響で緊急避難的に人々がここにやってきただけです。そこで登場したのが2020年創業の「Superpeer」です。Superpeerは1on1動画コミュニケーションができる場を提供しています。配信者が収益化できる機能も搭載することで、「個人向けZoom」としての市場ポジションを確立しつつあるサービスです。

Image Credit : Run The World

また、Zoomでは「交流」といった側面が非常に弱い点も挙げられます。リアルイベントで見られるような多人数交流がオンラインでは再現しづらいです。こうした痒い所に手が届く機能を実装させたバーチャルイベントプラットフォームとして、a16zが出資した「Run The World」も2020年に登場しました。こういった、Zoomを軸にした新たな動画コミュニケーションやオンラインイベントプラットフォームサービスが多く登場した1年でもあったのです。

動画の民主化

Image Credit : Playbook

Run the WorldやSuperpeerなどと並行して拡大した市場が配信サービスのインフラ提供サービスです。 在宅時間が急増し、ストリーミングサービスの利用が増えました。なかでもフィットネスに関して、ジムのような大衆の集まる施設から自宅へと場が変わり、トレーナーのコーチング動画を楽しめるアプリが増えました。「Playbook」などが代表に挙げられ、また、自宅でサイクリング体験を楽しめるZwiftの台頭なども例として挙げられます。こうした在宅需要を埋める動画アプリが増え始めると、開発需要も発生してきます。そこで登場したのが「api.video」でした。

Image Credit : api.video

Stripeが決済を、TwilioがSMSを、Agora.ioがライブ配信実装を容易にしたように、api.videoはすべての開発者に動画機能をAPI経由で提供します。これによって開発者は手軽に動画配信アプリを組めるようになりました。COVID-19による生活体験が変わり、動画インフラのポジションを獲る流れが発生しています。

前編では、企業の公平性・多様性を手助けする「Syndio」、音声・ポッドキャストの「Clubhouse」、ミートアップ主催者・参加者をエンパワーメントする「Superpeer」・「Run The World」、動画需要をAPIで手助けする「api.video」について紹介しました。後編では、COVID-19によってまさに需要が急激に伸びたECスタートアップ、余暇の誕生によって生じた投資意欲に答えるスタートアップ、またデジタル化する医療に応える目的を持つスタートアップについてまとめていきます。(次につづく)

共同執筆:「.HUMANS」代表取締役、福家隆

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