
(前回からのつづき)2020年のスタートアップを振り返るシリーズの中編。今回はECや投資、医療に関するスタートアップを振り返っていきたいと思います。
Amazon依存かそれ以外か
屋外でのショッピングがしずらくなり、EC市場が爆発的に伸び続けました。アメリカでは、この余波もあったのでしょうか、毎年ブラックフライデーの日になるとアウトレットが大行列となりますが、今年は例年に比べ極端に少人数でした。
わざわざ近くのスーパーマーケットやコンビニに出かけて購入していたものが自宅にいながらも配達される。このトレンドは不可逆的な体験となり、コロナが終息しても自ら買い物袋を持って出かけることは減るかもしれません。(国の特性によると思いますが)。

一方、今回のEC需要は新たな課題を発生させました。
特に配送については巨大なフルフィルメントを持つAmazonの一人勝ちの状態となり、ほかの事業者に明確な差となって現れたのです。そこで価値を発揮したのが「ShopRunner」です。顧客は年間79ドルを支払えば、ShopRunnerの提携ECでショッピングをする際、2日以内の配達・返品無料サービスを受けられます。
ShopRunnerはAmazon Prime会員を惹きつける高速配達の仕組みを、全米のEC事業者に提供しています。そして先日、FedexがShopRunnerを買収し、その配達技術および施設を手中にしました。これにより「Fedexキラー」とも呼ばれたAmazonをテック領域から追随することができます。このように物流面を中心とした「脱Amazon」や、「フルフィルメントの民主化」がキーワードとなったのが2020年だったように思います。
ただそうはいっても、Amazonは既に即日配達の物流は確保済みで、確かに労働環境の賛否はあるにせよ市場をリードしていることには変わりません。米国であれば、商品によっては朝注文した商品がお昼までには届くことも不思議でではなくなりました。また、AmazonはPrime会員のロイヤリティーを上手く用いて即日配達の体験を提供していることが分かります。
例えば、Amazonが運営するWhole FoodsはPrime会員であれば、一定額以上の購入で無料で自宅まで生鮮食品を配達してくれます。また、先日発表されたオンライン薬局「Amazon Pharmacy」ではPrime会員に限定して無料即日配達の体験を提供するなど、ユーザー視点で見ればまだまだAmazonに依存する必然性は続きそうだと感じます。
オンライン薬局の台頭

Amazon Pharmacyの話が出てきたので、続けてオンライン薬局市場に話題を移したいと思います。「Amazon Pharmacy」はもともと、Amazonが処方箋デリバリースタートアップ「PillPack」買収がきっかけです。電子カルテの自動解析から処方箋フルフィルメント回りの技術を固めたのが2020年の動きでした。すでに米国では薬局大手「Walgreens」「CVS」とぶつかっています。ただし、Amazonは攻勢をやめないようです。
ロイター通信によればAmazonは今月、インドのオンライン薬局スタートアップ「Apollo Pharmacy」への1億ドルの出資を検討しているそうです。インドではTata Groupが「1mg」の買収を検討しており、オンライン薬局市場のシェア拡大を図っています。
つまり、ここに待ったをかけるのがAmazonという構図です。2021年は米国とインド市場でオフライン薬局の淘汰が徐々に始まるかもしれません。また、米国においても例えばWalmartが処方箋のデリバリーサービスを展開しはじめています。
Walmart はWalmart PlusというAmazonと同等のプレミアム会員サブスクリプションプランを展開し始めており、両者の市場の取り合いは今後さらに激化することが予想されます。本屋の提供価値がAmazonによって大きく変わったように、薬局屋さんの存在価値も変わり始めるはずです。
デジタル化する医療サービス

オンライン薬局と同時並行で、医療分野のデジタルかも大きく進んだ年になりました。手術後の容態管理をSaaSで行うサービス「KangarooHealth」は診察体験のデジタル化プレーヤーです。コロナ感染(そのほかの感染症や疾患も)の疑いのある患者を遠隔モニタリングし、専門機関でのケアが必要となる急変段階の兆しを検知し、プロバイダーがタイムリーかつ安全にバーチャルトリアージを行うことを可能するサービスを提供しています。
患者が自分の容態をスマホに入力すると、容態が悪化しているかどうかをAIが判断。注意が必要な患者が出たら、医療関係者に連絡をする仕組みです。
コロナによる医療崩壊が社会問題となる中、現在の医療従事者数では対応できない患者をいかにさばくかがポイントとなっており、KangarooHealthのような大人数の患者モニタリングシステムの導入が急がれます。日本の医療業界が素直にこうしたAIサービスを受け入れるかは謎ですが、今後5〜10年で振り返ればこれは必然の流れとして思い返されることになると思います。

また、 AIを活用した簡易診察アプリ「K Health」も大きく注目を集めました。膨大な量の医学資料を解析して、チャットボットQ&A形式で上がってくるユーザーの症状から的確な診察と対処法を提示するサービスです。
K Healthがターゲットとするのはいわば「コンビニ患者」に代表される人たちです。簡易診察の後、医師から処方箋を受ける必要のある人や、診療の必要な人だけ医師に繋げられる、いわばバーチャル病院のような存在になります。コロナ禍で大量の患者を同時に診察する手間が世界的な問題となっている中、K HealthのようなAIを活用した診察手法が加速することは十分に考えられます。最終回は投資と住宅についてまとめていきます。(次につづく)
共同執筆:「.HUMANS」代表取締役、福家隆
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