スマートシティの創出に必要なもの——構想発表から10年、スペイン・マラガの経験(後編)【ゲスト寄稿】

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mark-bivens_portrait本稿は、フランス・パリを拠点に世界各地のスタートアップへの投資を行っているベンチャー・キャピタリスト Mark Bivens 氏によるものだ。Mark Bivens 氏の許諾を得て翻訳転載した。(過去の寄稿

The guest post is first appeared on Mark Bivens’ Blog. Mark is a Paris- / Tokyo-based venture capitalist.


マラガ市の風景
Image credit: Fabio Alessandro Locati
Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0

世界中のほとんどの国際都市では、都市計画家、政治家、不動産デベロッパが、大都市をスマートシティに変えることに取り組んでいる。不動産やそれに付随する業界で働いている人であれば、スマートシティという概念がホットなものであることを知っているだろう。しかし、多くの多幸感に満ちた新しいトレンドのように、スマートシティという概念はさまざまな解釈が可能だ。

そんなことから、スペインのマラガ市でスマートシティプロジェクトを展開しているデジタルアーキテクトの一人にお会いしたときには、彼の知見を拝する機会に飛びついた。Rubén Fernández Vela 氏はスペインの弁護士で、現在は東京でデータ保護とプライバシー、デジタル法とテクノロジー、スマートシティの分野で法律コンサルタントとして働いている。

<参考文献>

前編からの続き

Rude VC:

スマートシティの構成員のデータはどのように適切に保護されているのですか?

Vela 氏:

Rubén Fernández Vela 氏

スマートシティでは、政府モデルは、その中心にある哲学がオープンソース的なものであるべきです。

  • オープンなパブリックデータ +
  • 透明性と説明義務 +
  • すべての社会構成員の参加 +
  • デジタル技術との調和

データは積極的に透明なもの、すなわち、オープンソースの標準とパラメータによって、オープンにされるものの対象とならなければなリません。オープンデータは、自由かつ公共的な基準の下で、市民のためのリアルで役に立つ情報を保証するものです。だからこそ、私たちがスマートシティについて語るとき、我々はそのことをプライバシー規制(あつえられたプライバシー、元々のプライバシー概念、データ保護、透明性、公共データの再利用など)を遵守した、オープンソースのデータハブとして理解しなければならないのです。

Rude VC:

スマートシティプロジェクトを実施する際に、市の職員はどのような時間軸を考慮すべきですか?

Vela 氏:

スマートシティプロジェクトの実現に要する時間は、その都市の具体的な状況によって異なります。

いずれにしても、スマートシティを実現することは、時間と労力を要する作業です。政府、市民、企業など、プロジェクトに関わるすべての関係者に利益をもたらすリーダーシップとビジョンを必要とする長距離レースです。これは、行政、住民、企業、民間企業の官民連携によって実現され、都市に関連した成果につながる革新的なソリューションを育成することができます。

Rude VC:

スマートシティプロジェクトの実現は、常に一気に分解して構築(オーバーホール)されるものでしょうか、それとも段階的に行えるものでしょうか?

Vela 氏:

スマートシティプロジェクトを実現することは、決して根本的かつ完全なオーバーホールであるべきではありません。それは段階を経て行われなければなりません。スマートシティプロジェクトは、構造化されたプロセスと、多くの場合、パイロットプロジェクトなどからなります。

ちなみに、スマートシティの概念は、一連の要件を満たし、特定の側面だけに焦点を当てたものではないため、技術的な方法で都市を改善するという単純な事実と混同してはいけません。スマートシティとはシステムの集合体です。この新しい用語は、イノベーションに基づいたエコシステムの下での未来の都市として示されていて、そのためには官民の協力が必要となります。

スマートシティプロジェクトの実現は、都市のあらゆる側面をカバーしながら段階的に行われるべきです。

Rude VC:

スマートシティの実現は、その都市の継続的な日常生活を中断することなく達成できるのですか? あるいは、スマートシティの実現は、抑制された環境の中でより簡単に達成されるのでしょうか?

Vela 氏:

スマートシティプロジェクトの実現は、段階的かつ徐々に変化するプロセスであるため、必ずしもその都市の継続的な日常生活を中断する必要はありません。

抑制された環境でスマートシティを実現することは、行政、経済、都市の生活、社会全般、運動、環境を統合したシステムとしてのスマートシティの概念に反するように思われますが、そうとは一概には言えません。

例えば、23区からなる東京都はスマートシティの6つの柱のそれぞれの発展のための自律性と能力を備えていて、これは抑制された環境の中でスマートシティ事業を実現するための理想的なシナリオを示しています。

Rude VC:

マラガ市のスマートシティ実現に特有の特徴を教えてください。

Vela 氏:

マラガ市のスマートシティの特徴には、次のようなものがあります。

  • スマート風力発電街灯やソーラー街灯を設置、人感センサーで光の強さを調節し点灯させる。
  • ゴミや下水から得られるエネルギーを利用して、電力網に販売している。デジタルメーターで水や照明の管理をモニタする。
  • 行政は、オンラインの「市民フォルダ」を通じて、複数のシステムから収集した市民の個人情報を本人に提示する。
  • 市民が市内の問題を報告することができるように複数のアプリケーションを開発することで、公共交通機関を効率よく利用したり、駐車場の場所を確認する同時に料金を支払えたり、市のモニュメント・写真・スケジュール・意見・便利な電話番号・ビーチの情報を得られるようになる。さらには、求人情報、起業家向けのプランを見つけるためのアプリケーションなども。
  • 無限の情報や対話が得られるパネルを街に設置する。
  • 交通管制や公共交通機関は、緊急センター連携される。
  • オープンガバメント、透明性、オープンデータサイトを説明するランチ機会の設定。
  • インターネットへの無料かつ例外的なアクセスを可能にする、さまざまな公共機関の間をつなぐ光ファイバーネットワークの構築。
  • 共有用の電気自動車のネットワークとシステムの開発(車やスクーターの共有)。
  • スマートシティにおけるスタートアップの重要性を念頭に、マラガ市のスマートシティのニーズを満たすために、マラガにはさまざまなハブやビジネスアクセラレーターが作られた。
  • モバイルアプリにより、政府の意思決定に市民が直接参加するためのプラットフォームだけでなく、政府に直接提案できる可能性を提供。
  • イノベーションや技術課題を市民に啓発するためのセミナーの開催。

Rude VC:

スマートシティになるには、どのような都市が適していると思いますか? スマートシティになるには、どのような特徴を持った都市が適しているのでしょうか?

Vela 氏:

スマートシティという概念は、人口過多と面積拡大のために、それが引き起こすすべての問題の解決策を必要とする大都市に関連しています。市民が少ない都市や地域は、その反対の問題に直面しているため、特別な扱いを必要とします。見捨てられないよう、魅力的であり続ける必要があるということです。

それは、都市の種類の問題ではなく、スマートシティの実現に向けた行政の意志がどうかということです。

東京は、スマートシティモデルの実現に向けて、最もエキサイティングな舞台となっています。人口1,500万人近く(都内在住や通勤・通学したりしている人)を擁し、23区、26市、5町、8村に分かれていて、各行政単位でスマートシティ計画を策定するための材料が揃っているだけでなく、すべての自治体が一体となったプロジェクトをまとめた「メガスマートシティ」も存在しいます。過疎化の一途をたどる地方も忘れてはいけません。

Rude VC:

スマートシティはイノベーションのエコシステムの成長を促進するのでしょうか?

Vela 氏:

スマートシティには、イノベーションとサステナビリティという2つの要素が常に存在しています。

起業家やスタートアップは、スマートシティの発展に不可欠な価値を持っています。ある市をベータ段階と見ると、IT とサステナビリティを核としたスタートアップや革新的な組織が最良の取り合わせになると思われます。数多くの市場調査が、スマートシティに関連するスタートアップの成功を裏付けています。スタートアップはスケーラビリティの可能性を持っているのに加えて、世界のさまざまなスマートシティでビジネスモデルを再現できる可能性が非常に高いでしょう。

要約すると、スマートシティとは、技術、開発計画、都市計画を通じた都市であり、その住民の日常生活を向上させるためのサステナビリティを目的としています。スマートシティとは、技術が適用されたサステナブルな都市です。サステナブルな都市とは、a) 社会イノベーション、b) 交通とモビリティ、c) エネルギー、e) ガバナンス、f) 経済とビジネス、g) 環境 からなります。技術を適用することで、市民のデータを収集・整理・解釈することで、a) サービスと市民生活の質の向上、b) 新しいアプリケーションの創出、c) 公共支出の減少、d) サステナブルな発展の達成を実現することができます。

スマートシティは、インフラや都市要素が市民の生活を容易にする技術的なソリューションを備えた、環境にコミットした都市です。

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