日本のサブスクブームの立役者、「subsclife」が狙う家具ビジネスを通じた社会の変革と貢献

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subsclifeのCEO、町野健氏

本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイト掲載された記事からの転載

日本でサブスクリプションモデル、いわゆるサブスクのサービスが産声を上げ始めたのは2018年頃くらいのことだろう。企業で使われていたソフトウェアがパッケージソフトから SaaSへとシフトしていった変化がファッションや食の領域にも波及し、メーカーが商品を直接消費者に届けるD2Cモデルの台頭とともに一気に広がったのがサブスクが生まれた経緯だ。

subsclife(サブスクライフ)は2018年、家具のサブスクを他社に先駆け日本国内で最も早くスタートさせており、サイバーエージェント・キャピタル(当時、サイバーエージェント・ベンチャーズ)はサービス開始以来からのアーリーインベスターである。subsclifeのCEOである町野健氏に、同社のこれまでの軌跡、目指す方向、投資家からの資金を事業にどのように活用してきたか、などについて話を聞いた。(BRIDGE編集部注:本稿はsubsclifeのCEO、町野健氏に起業からこれまでの道のりをお聞きしたインタビュー記事の転載になります。質問はサイバーエージェント・キャピタル編集部、回答は町野氏です)

Q1. 数ある社会課題の中で、なぜ家具のサブスクを選んだのか

旧態依然としていた家具業界を元気にしたかった。アメリカの3大ピッチイベントへの参加を通じて、家具業界にもサブスクのトレンドが来ると確信した

町野:450万ダウンロードを誇ったキュレーションアプリ「Antenna(アンテナ)」を辞め、次に挑戦するテーマを探していたところ、声をかけてくれたのが、ほかならぬサイバーエージェント・キャピタルの近藤裕文代表だ。近藤氏が subsclife の前身で IoT 家具スタートアップ KAMARQ の共同創業者らに引き合わせてくれた。KAMARQ の日本法人の代表を務め、2018年に KAMARQ 内で家具のサブスク事業を立ち上げ、それを2019年にスピンアウトさせる形で subsclife が生まれた。

ーー家具のメーカー/ブランドから、家具のサブスクへと事業転換したきっかけは?

町野:事業を進めていく中で、家具業界のことを知れば知るほど旧態依然としていることがわかった。KAMARQ に参加した2015年当時、値頃感のあるいい家具を扱っているのに、売れていない家具屋は非常に多かった。目黒通り(東京では家具屋が多い通りで、インテリアストリートとも呼ばれている)とかのお店を巡ってみても、皆元気が無かった。

サブスクを始めたのは、家具業界でも SPA(製造小売業)の台頭で従来の家具メーカーと消費者の間でアンマッチが起きていると気づいたが一つのきっかけ。それから、VentureBeat に KAMARQ が取り上げられ、アメリカのテックカンファレンス「LAUNCH Festival」でのピッチ登壇に招待されたとき、他のスタートアップのピッチを聞いていて、お金の回収方法はほとんどの会社がサブスクと言っていて、家具もサブスクになるな、と考えたのがこの時。ここから半年かけて、家具のサブスクをサービスインした。

ーーKAMARQ の中でサブスク事業を続けることもできたはずだ。サブスク事業を別会社へスピンアウトしたのはなぜ?

町野:2018年3月にサブスク事業をβ版で立ち上げてから業績は好調だった。サブスク事業では先に家具を仕入れるため大きな資金が必要になり、そのため新たな資金調達に動いていた。そんなとき、サイバーエージェント・キャピタルをを含め複数の VC が手を上げてくれたのだが、サブスク事業に出資したい、と言ってくれる投資家が多かった。そこで、KAMARQ の日本法人だったカマルクジャパンの社名を subsclife に変更しサブスク事業に特化した会社として新たな船出を切ることにした。

Q2. 今までに、subsclife としてのピボットや失敗はあったか

自社製品だけを扱うのをやめることにした。自社製品にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う

町野:2018年3月にβ版をスタートした当初、KAMARQ自社製の家具のみを取り扱っていた。自社製だと家具のバリエーションにも限界がある。しかし、サブスクのお客様のニーズは多種多様で、subsclife に無い家具は別なところで購入してください、というのは使い勝手が良くない。ワンストップで揃えられないとユーザ体験的に良くないという壁にぶつかり、自社製品だけを扱うのをやめることにした。商品を家具メーカーから仕入れることにし、一気にバリエーションを増やして8月にリニューアルしたところ当たった。

ーー家具メーカーとして、自社製品のみを扱うことへのこだわりは無かったのか?

町野:最初の頃は自社製品のバリエーションを徐々に増やしていければいいと考えていたが、想定よりも早く2018年後半にはモノのサブススクブームが来てしまった。2019年にはトヨタが自動車のサブスク「KINTO」を開始して大ブーム、これがあらゆるモノのサブスクに火をつけた格好だ。自社製品のだけ取扱にこだわっていたら、ここまで大きくはならなかったと思う。

思いのほか、家具メーカーが subsclife に共感してくれた。家具メーカーにとって、彼らの商品は値段勝負にすると正直な話キツいが、いい商品をお客に長く使ってほしい、という思いは強い。家具が全然売れていない時代だったが、サブスクで新しい顧客層にもリーチできるようになり、商品がまわるようになったことで、(商品サイクルから)廃棄される量を最小限にできるのはすごくいいと、大きなメーカーがどんどん参加してくれるようになった。

ーー家具は買うモノから借りるモノになっていくのか?

町野:最近の豪雨災害も人災の色が強い。「スクラップアンドビルド」 から「ストックアンドフォロー」への流れは家具の世界にも来るだろうし、いいモノを長く使ってもらえる文化は伸びると考えている。家具 SPA の旗手である IKEA もこのままではダメだということで家具のサブスクモデル(Rent the Runway)を始めた。この文化が浸透していくには5年や10年はかかるかもしれないが、若者ほど商品を廃棄しないモデルが響くようになりつつある。

subsclife でももちろん廃棄はしていない。家具メーカーに(仕入れ時に)お金が回っていく仕組みを作る必要があるため、サブスクで貸し出している家具は全て新品だが、サブスクが終わって戻ってきた商品は、現在のところ、二次流通業者(中古買取)に売却している。subsclife のサービス開始から2年以上が経ちユーザも増えてきたので、将来はサブスクから戻ってきた家具の一定量を subsclife の中で回す、ということも可能になるかもしれない。

Q3. どんな投資家から資金調達すべきか?

厳しい局面が来たときに、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要

町野:VC から資金調達するには必ず担当者がつく。その担当者がどれくらいスタートアップに寄り添ってくれるかは重要。僕らの事業は(サブスクでお金が入っていくよりも、仕入れで先にお金が出ていく)先にお金が出ていくなので、精神的にすごく忍耐を求められるビジネスモデル。ともすれば、儲からないビジネスだと言い切られるケースも結構ある。実はそうではないのだけれども。「リスクをとってでもファーストペンギンとしてやるべき」という気概のある担当者でないと、VC 社内で(投資実行の)話を通せないはずだ。

ーーサイバーエージェント・キャピタルから資金調達したのは?

町野:しっかりサポートしてくれる、そして、スタートアップの気持ちをわかってくれる VC と付き合いたくて、今回(2020年9月に実施したラウンドで、subsclife はサイバーエージェント・キャピタルを含む10社から約30億円を調達した)もそのようにしている。そんな VC の最たる存在がサイバーエージェントキャピタルだ。厳しい局面においても、今やってることを否定しないでサポートを続けてくれる点に感謝をしている。

世の中には、事業が思い通りに進まず、辛くなったときに計画との乖離を見て、「あーしろこーしろ」という投資家がいることも事実。もっとも、投資家はお金を出してくれている存在だから、僕は投資家はそうやってスタートアップに口を出しいてもいいと思っている。でも、サイバーエージェント・キャピタルの場合、そこじゃなくて、「ここから伸ばすにはどうしたらいいだろう」など一緒に先を見ながら話せるので、その点が非常にありがたい。

ーースタートアップは、どのような VC やキャピタリストと付き合うべきか?

町野:VC とて会社。会社には、ブランディングという意味で人格が出るものだ。そして、誰の人格が出るかというと、現在の、そして、歴代の取締役の人格が最も出ている。そう考えると、サイバーエージェント・キャピタルをこれまで率いてきた人、今も率いている人たちの作ってきた文化が良かったのだろうと思う。もちろん、(親会社である)サイバーエージェントの文化も色濃く出ているだろう。

厳しい局面が来たときに、ただ「あーしろこーしろ」というだけなら誰にでもできる。そんなとき、状況をわかった上でどれだけサポートしてくれるか。出資を受けているということはすごいことだし、VC とて社内調整や投資先の業績について LP(ファンド出資者)に説明を求められることも多いはず。しかし、そういったことをスタートアップに微塵も感じさせないような、投資家に理解してもらっていると経営をしやすい。経営者は投資家への説明コストを最低限にとどめ、本来集中すべきことに集中できるからだ。

僕の場合は、Antenna の時代に近藤さんと知り合えたのはよかった。当時資金調達することはなかったけれど、その時に近藤さんと会ったことから今に繋がる。VC は他の VC をたくさん知っているので、そこからさらに人脈は広がる。起業家を見ているとムダな時間の使い方をしている人がすごく多いように思うが、ほとんどの投資家は、起業家と初めて会った時にそのスタートアップのことを初めて知るので、その瞬間に互いにもっと深く知り合えるように、事業以外の話もいっぱいした方がいいと思う。

Q4. subsclife にとってこれまでのハードシングスは? そして、それをどう克服したか?

なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事

町野:サブスクは、商品を仕入れる必要があるので、先にお金が出ていくビジネス。運転資金なので、エクイティファイナンスよりもバックファイナンスの方が必要になる金額は大きい。サービスが売れれば売れるほどファイナンスが必要になるが、まだ赤字のスタートアップが金融機関からデットファイナンスを得るのは非常に難しい。一時期はエクイティで得た資金を充当するなどして凌いだ。

ーーそんな中で、どうやって突破口を開いたのか?

町野:バックファイナンスができないと、サブスク事業が行き詰まるのはわかっていた。なので事業を始める当初の段階で、まず一社リース会社を口説いて、当社にリース枠を与えてもらえるよう注力した。実績はまだ無い会社だったなので、ここはもう論理ではなく情熱の世界。なんとか担当者に subsclife のファンになってもらって、社内調整してもらうしかない。だから情熱は大事。

PL/BS に純然たる欠陥がある会社なので(笑)、序盤はまずリース枠を開けてもらって、実績を積んだら、また枠を伸ばしてもらうということの繰り返し。それで現在に至っている。エクイティファイナンスでの資金調達はリスクマネーなのでデットほど厳しくないだろうが、とにかく、赤字のスタートアップがデットでファイナンスをするのは、それはそれは大変だった。

ーー成長著しい subsclife にとって、会社を大きくする上での課題は?

町野:会社を大きくしていく上で、チームを育てていくのは大変なこと。subsclife は現在20人くらいのチームだが、このくらいの規模になってくると、メンバーのモチベーションを保ちながら、同じ方向を向いて進むのが大変。どの経営者も言っていることだが、僕らも強いチームを作るために体制づくりをいろいろやっていかないといけない。

一方、コロナ禍でリモートでの勤務を余儀なくされた今、社内でよく言ってるのは、チーム感が毎日0.1%くらいずつ削がれていっている気がするということ。チームワークという点では、圧倒的に話す機会が減る。偶然の発見ができる環境を作れないチーム体制で、スタートアップが大手企業に勝てるはずがない。その中でどういう出勤体制がいいかを考えるのに苦労している。

Q5. subsclife が目指すもの、そして起業家コミュニティに期待することは?

インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい

町野:subsclife が目指しているイグジットは、2023年か2024年をターゲットに、東証マザーズへの上場だ。ユーザは順調に増えているが、裾野を広げるために家具のほかに家電にもサブスクの幅を拡大したし、インテリアという領域に対しては、どんどんやっていこうと思っている。

ーー競合も増えてきた。先行する優位性を保つために、KPI のメンテナンスなどはどうしているか?

町野:家具業界は旧態依然としているが、僕らは家具を売る(実際にはサブスク形式で提供する)ことに関しては、売り方を徹底的に科学している。例えば、法人営業について見ると、顧客のリード獲得から納品まで一連のプロセスがあるわけだが、ああでもない、こうでもないと週単位のレベルで変えながら最適化している。3ヶ月前と比べてみても、全く違うやり方で営業している。

商品の調達についても、subsclife の仕入先は400ブランドに上るが、仕入れのプロセスについても徹底して最適化するようにしているところ。まだまだ足りないので、さらに進めていきたい。

ーー antenna で企業内起業をされ、subsclife では外へ飛び出して自ら起業された町野さん。両方を知る立場から、企業内起業されている方に、外へ飛び出すことを勧めるか?

町野:絶対に外へ飛び出して自分でやった方がいいと思う。企業内起業は例えるなら、Zoom でハワイを見ているような感じ。そんなのは実際に現地で体験するハワイにはかなわない。企業内起業は、そんなバーチャルなもののように思う。もちろん、企業内で起業すると、別のプロフィット部門にいじめられることもあるかもしれないが、それって全然ムダな経験で、起業そのものには何ら関係ない。

人はどこかに逃げ道があると、そちらへ行ってしまう。人間ってそういうものだから。人間はやっぱり追い詰められた時にパワーを発揮するので、飛び出してやらないと自分の本当の力は出せないと思う。ほら、テスラだって一時期は本当に資金繰り危ないと言われたけど、今はちゃんとやれてる。企業内起業できる人は、絶対に能力的に独立してもできる。ただ恐怖観念がまさっているだけだ。

僕が以前 antenna をやった2012年当時と比べると、今は圧倒的にスタートアップはやりやすくなっているし、調達もだいぶやりやすくなっている。一回バンジーを飛ぶと、二回目以降飛ぶのはすごく簡単になる。もっと起業家の仲間が増えることを期待したい。

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