米中で人気沸騰中、成長が期待されるオンラインフィットネス市場を大解剖

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Photo by Anna Shvets from Pexels

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、YJキャピタルのキャピタリスト岡本紫苑さんによるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@OkamotoShion

YJキャピタルは、オンラインフィットネス動画配信サービス「LEAN BODY」を運営するLEAN BODYに追加投資をさせていただきました。

追加投資を決断したのは、①今後オンラインフィットネスがフィットネスサービスの中心として拡大すると予想しており、②LEAN BODY社が日本のオンラインフィットネス業界のリーディングプレイヤーであると考えているからです。今回は、①のオンラインフィットネス市場の成長可能性について書いてみたいと思います。

1. 国内フィットネス市場の概況

(1)国内フィットネスクラブ市場の構造変革

オンラインフィットネス市場について検討する前提として、リアルのフィットネスクラブの市場規模について見ていきます。2018年時点の国内フィットネスクラブ売上高は約4,800億円、施設数は約5,800軒です。昨今の健康志向の高まりを受け、売上高・施設数共に右肩上がりで成長しています。

引用:ティップネスウェブサイト

フィットネスクラブの主要プレイヤーは、コナミ、セントラルスポーツといった従来型の総合型フィットネスクラブと、24時間セルフ型のエニタイムフィットネス、ターゲット限定型のカーブス、パーソナル型の「RIZAP」等の新興型プレイヤーとに大別されます。

出所:SPEEDA総研作成図をもとに筆者加工

後者の新興型プレイヤーが2013年以降頃から増加し、近年はフィットネスクラブ売上高ランキング上位に複数名を連ねています。この新興型プレイヤーの躍進を、第一次構造変革と呼ぶことにします。

出所:SPEEDAデータをもとに筆者加工

それでは、次に起こる構造変革は何でしょうか。第二次構造変革と呼ぶべきものが、オンラインフィットネスプレイヤーの台頭であると考えています。そもそも第一次構造変革はなぜ起こったのでしょうか。それは一言でいえば、フィットネスがより日常生活に浸透したことによる変革だと考えています。24時間好きな時に利用できるエニタイムフィットネスやJOY FIT、総合型フィットネスクラブよりも安価で短時間なトレーニングを想定したカーブス等が躍進したのは、フィットネスをいつでも・より手軽に楽しみたいという消費者のニーズが現れたものといえるでしょう。

そうしたフィットネスの日常生活への浸透は今後ますます進み、いつでも・どこでも・手軽にフィットネスを楽しみたいというニーズはより拡大するものと考えています。そして、そのようなニーズを実現してくれるのがオンラインフィットネスなのです。

資料:筆者作成

(2)日本におけるオンラインフィットネスの市場規模

では、オンラインフィットネスの市場規模はどの程度あるのでしょうか。日本は他国と比べてもフィットネスクラブの会員数が少なく、フィットネスクラブに通っている人は全人口のわずか3.3%です。これは、フィットネスクラブの施設数が足りないこと、料金が高いことが主な原因であると考えられます。これらの理由により現在フィットネスクラブに通っていない97%の人も、いつでもどこでも行うことができ、料金も手軽なオンラインフィットネスであれば、実施できる可能性は十分にあります。

出所:プロフィットジャパンブログ

また、米国では、大手フィットネスジムチェーンの24 Hour Fitnessとフィットネス動画配信サービスのDaily Burn等、リアルのフィットネスクラブとオンラインフィットネスサービスが提携する例が見られます。ジムには月に数回通い、ジムに行けない平日夜にはオンラインフィットネスで軽く体を動かす等の形で、リアルのフィットネスクラブとオンラインフィットネスを併用している人が多数いることがうかがえます。このように両サービスの併用が一般になされていることから、フィットネスクラブを既に利用している人も、オンラインフィットネスサービスのターゲットに十分なり得ると考えます。

上記により、オンラインフィットネス市場は、顕在化しているフィットネスクラブの市場規模よりもはるかに大きなポテンシャルがあると考えられます。

2. 世界のオンラインフィットネス市場の概況

世界に目を向けると、既にアメリカ、中国等でオンラインフィットネスサービスの躍進が始まっています。Report Oceanのレポートによると、世界のバーチャル/オンラインフィットネスの市場規模は、2019年は31億2247万米ドル、2026年までに330億2667万米ドルに達するとされており、2020年~2026年中はCAGRで38.20%という高い成長が予測されています。

(1)アメリカ

アメリカではご存知のとおり、エクササイズバイクで知られるPelotonが急成長を遂げています。有料会員数は133万人を超えており、時価総額は約465億ドル(2021/1/9現在)まで成長しています。2020年7-9月決算は売上高7.6億ドル(前年比232%増)、営業利益は6,890万ドルで、2四半期連続の黒字を達成しました。

出所:Google

また、瞑想アプリについてもCalmやHeadspaceが大規模な資金調達を行う等、注目が集まっています。他方、リアルのフィットネスジムについては、老舗フィットネスジム「ゴールドジム」を運営するGGIホールディングスが2020年5月に連邦破産法11条を申請する等、コロナ禍による苦境が鮮明になっています。

(2)中国

中国においても米国同様、オンラインフィットネスが大きく成長しています。ソーシャルフィットネスアプリやフィットネスマシン等を提供するスポーツテック企業の「Keep」は、シリーズEラウンドで約8,000万ドルの資金調達を行い、中国のスポーツテック分野の初のユニコーン企業となりました(※)。同社の発表によると、Keepの登録ユーザー数は2億人を超えているとされています。他にも任天堂のリングフィットアドベンチャーが爆売れする等、コロナ禍を契機にホームフィットネスが大きな注目を集めています。(※BRIDGE編集部註釈:Keepは先日、シリーズFで3.6億ドルをさらに調達

3. コロナ禍収束後のオンラインフィットネスの未来

オンラインフィットネスは、コロナ禍による外出自粛・フィットネスジムの閉鎖により大きく躍進しました。そうであれば、ワクチンの普及によりコロナ禍が落ち着けば、オンラインフィットネスブームも収束してしまうのでしょうか。私はそんなことはなく、オンラインフィットネスはアフターコロナにおいてもフィットネス業界の中心となると考えています。

まず、米国の例を見てみると、下図のとおり、2020年7-9月はコロナの新規感染者数が落ち着いていました。その時期は米国の多くの州でジムの営業が再開されていましたが、上記のとおり、オンラインフィットネスPelotonは当該四半期も好調な業績を記録しています。

出所:Google

また、ボストンコンサルティンググループのコロナにより自粛している活動・施設の利用再開時期に関する意識調査によると、ジム/スパについては「たとえ通常時に戻ったとしても行うつもりはない」との回答が33%と、他の活動・施設よりも多くなっています。これは、コロナ禍収束後においても、自宅でのフィットネスでジム/スパの利用を代替可能と考えているユーザーが多いためだと考えられます。

出所:ボストンコンサルティンググループ

さらに、上記のとおり、リアルジムとオンラインフィットネスを併用しているユーザーが多数いることから、コロナ禍が収束し、フィットネスジムの利用が再開したとしても、それによりオンラインフィットネスのブームが去ることにはつながらないと考えています。

4. まとめ

上記のとおり、私は日本におけるオンラインフィットネスの発展に大きな可能性を感じており、アフターコロナの時代においてもフィットネス業界の中心的存在になると考えています。

コロナ禍によって人々は新しい生活様式を余儀なくされ、心身の健康維持や在宅時間の充実について向き合うきっかけを与えられることになりました。いつでも・どこでも・気軽に・自分に合ったコンテンツでフィットネスを楽しみ、ココロもカラダも健康になれる。そんな未来をLEAN BODYが実現してくれると信じ、YJキャピタルとしてもささやかながらそんな未来に貢献できればと思っています。

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