
ニュースサマリ:AI先生「atama+」を展開するatama plusは2月5日、新教材となる小学生向け算数の提供を伝えている。同社はこれまでに塾・予備校向けにAIを活用した教材を提供しており、高校生向けの数学、英語、物理、化学と中学生向けの数学、英語、理科が公開されていた。同社が小学生向けの教材を提供するのは初めて。atama+を導入する教室の数は2100にのぼる。
話題のポイント:基礎学力の習得時間を大幅に短縮する個人最適化学習のatama+が着実に成長しています。同社代表取締役の稲田大輔さんにお話伺いましたが、小学生向けの教材は圧倒的にニーズが高かった算数からの提供になったそうです。これまで中高と教材開発を進めていますが、この順番はプロダクト/コンテンツ両面で難しく、かつ、教室のニーズが高いものから取り組んでいるそうです。全ての教材でAIによる最適化アルゴリズムはひとつずつユニークに作る必要があり、ひとつ作ってあとは横展開とはいかないそうです。逆に言えば、これが大きな参入・競合障壁になっています。
atama+の特徴のひとつがティーチング(AI先生が担当する基礎学力の習得)とコーチング(人間の先生が担当する生徒のエンパワメント)を分けるアイデアです。興味深いのはこのコーチングの部分で、教室によって取り組みが異なるそうです。ある教室では緊張感溢れる指導があったり、別の教室では生徒に寄り添った取り組みをするなど、塾・予備校によってカラーが違ってきているというお話でした。教材としてのatama+が教育内容を均質化する部分はあくまで基礎学力の習得効率化であって、コーチングで差別化ができるというのは新しい発見でした。
創業から4年経過してそろそろ競合が出てくるかと思いきや、稲田さん曰く、それらしきものがあることは認識しているものの、そこまで意識していない様子でした。AI活用を謳う教材は多いものの、彼らの勢いを覆すまでには至っていないようです。一方、稲田さんたちが認識している教室数が全国5万なので、道のりとしてはまだまだ先があります。この先、大資本がどのように動いてくるのかも興味深いところです。

さて、彼らの現状報告はこのぐらいにしておいて、今回、もうひとつ注目していた取り組みが昨年12月に公表された立命館との共同研究です。立命館の附属校生の学内推薦合格後の基礎学力定着モデル構築やオンライン入試のプラットフォーム開発などが発表されているのですが、特に面白いのが「学習歴を踏まえた新たな入試企画の検討」です。つまり、中高で学習した履歴を元に入学の判断をしようという流れになります。
稲田さんも言及されていましたが、これまでの大学入試は筆記試験一本が主流で、人生にある程度影響があるにも関わらず、その機会に全てを集中させる必要がありました。結果、本来の学習とはやや異なる「受験勉強」という点数を取るための方法が常態化してしまい、丸暗記のような無駄が生じているのはご存知の通りです。atama plusと立命館はこういう「一発試験」ではなく、日々の学習が履歴として積み上がり、結果として入学につながる新しい方法を検討しはじめた、というわけです。
そしてこれは何も将来のことではなく、早ければ来年度には入試制度として活用される可能性があるというお話です。立命館では高校の学習にatama plusの教材が導入されており、既に学習履歴が積み上がっているからです。
この方法のもう一つのメリットは、より細かい知識の確認ができる点にあります。例えば文系の経済学部では微分・積分がよく使われる一方、文系ということで入試には英語と国語だけしか用意されていないケースがあります。履歴がしっかりと確認できれば、経済学部に必要な知識が得られているかどうかを確認することができますし、不足しているケースでは履修し直すこともできます。
atama plusは創業4年で現在の体制は110名ほどに拡大しているということでした。日本の教育を大きく変える可能性について、また話題が届いたらお伝えしたいと思います。
※本稿はClubhouseでの取材内容をご本人に同意いただいて記事化しています
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