MS-Japan、ハヤテと設立した20億円CVCの真意とは?——カギは、経営管理Techとステージ不問のスタートアップ支援

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左から:常務取締役 藤江眞之氏、代表取締役 有本隆浩氏、取締役 山本拓氏
Image credit: MS-Japan

経営管理部門や士業人材の転職支援大手 MS-Japan(東証:6539)は先月、20億円規模の CVC(GP: ハヤテインベストメント、LP: MS-Japan) を設立したことを発表した。リクルート出身で現代表取締役の有本隆浩氏が創業してから約30年、ハイクラス人材の人材紹介に特化してきたことが功を奏し、MS-Japan の利益率は業界トップクラス(46.2%)だ。人材紹介事業への登録者数は毎年2桁%のペースで成長し、昨年度には売上高が40億円を突破した。

人材会社が CVC を作るのは MS-Japan が初めてではない。ウィルグループ(東証:6089)は「HRTech ファンド(GP: フューチャーベンチャーキャピタル、LP: ウィルグループ)」を2017年に、パーソルホールディングス(東証:2181)は事業統合前のパーソルおよびテンプスタッフ時代から見ると、それぞれは2015年に PERSOL INNOVATION FUND、2016年に Temp Innovation Fund を設立している。

これまでの人材会社の CVC は直接的あるいは間接的に、本業にシナジーのある HRTech のスタートアップへの投資を主眼に置いていた。CVC は本業である自社のオープンイノベーションを加速するビークルという位置付けもあるから、これはある種当然のことだが、MS-Japan の新しい CVC は全方位型のオールラウンドな投資活動を目指すようだ。その理由や背景を探ってみた。

<参考文献>

日本経済の経営中枢を支えるネットワークの存在

「Manegy(マネジー)」
Image credit: MS-Japan

日本における管理部門関係者など専門人材領域のマーケットの規模は235億円程度とされ(2017年現在)、MS-Japan はこの領域でトップシェアを誇ると見られる。創業以来30年でのべ26,000人以上の転職を支援してきたというから、かなり多くの有名企業の経営管理部門に MS-Japan から紹介を受けて転職した人材が在籍すると考えていいだろう。

引越後には物件を紹介してくれた不動産屋との連絡は途絶えるように、転職が済んだら紹介会社との関係は疎遠になってしまうように思えるが、MS-Japan では2017年にスタートした「Managy(マネジー)」という自社メディアが、事後も転職者をネットワークし続けるのに一役買っている。Managey には今後、経営管理データマネジメントプラットフォーム(DMP)としての収益も期待されているようだ。

MS-Japan の CVC から資金を調達したスタートアップが期待できるのは、MS-Japan が30年で培ってきたこの経営管理部門の人材ネットワークだろう。彼らは経営判断を求められるポジションにいるので、スタートアップが企業経営に役立ちそうなソリューションを提供できるなら、マーケティングや営業活動の時間やコストを省いて成約に結びつけられる可能性が高いだろう。

経営判断するポジションの人へのリーチを確保し、より成約率の高い営業チャネルを提供しようとするスタートアップもいるくらいだ。あるサービスを導入した A 社の体験を B 社と経営層レベルで共有する、といった情報交換も Managy のユーザ同士でできるだろう。この種の会社経営にレバレッジを利かせられるかもしれないサービス群を、MS-Japan では経営管理 Tech と呼んでいる。

今回 CVC が組成される前から、MS-Japan は難関資格講座の KIYO ラーニング(2020年7月に IPO、東証:7353)、VR 配信プラットフォーム運営のシータ、メンタルヘルステックのラフールなどに出資してきた。一見すると戦略が見えづらいポートフォリオだが、いずれも会社経営に寄与するサービスを提供するスタートアップ群と見れば、なるほど合点が行くわけだ。

代表取締役 有本隆浩氏
Image credit: MS-Japan

当社は日本市場の7〜8割に人材を提供していて、日頃から人材の問題、お金の問題の相談を受けることも多い。そんな兼ね合いから間接的には IPO も支援してきた。これまでに投資したスタートアップが2社上場したこともあり、ファンドを立ち上げることにした。

(CVC では)マイナー出資をして終わりとかではなく、ガッツリ一緒にやれるスタートアップと組んでいきたい。投資をする側もされる側も、皆が喜ぶのがベンチャー支援だと考えており、次の日本を背負えるような会社を支援していきたい。(有本氏)

MS-Japan の今回の CVC 組成には自社の DX を加速したい思いも見え隠れする。転職人材の職種や求められるスキルは時代と共に変化しているとはいえ、人材紹介業の本質は極めて伝統的な事業形態である。MS-Japan は今後も市場シェアを拡大するだろうし、人材流動性の高まりから業界規模も成長を続けるだろうが、次なる活路を見出す必要はある。前出の DMP 活用の事業もそんな一例だ。

〝ポスト IPOの谷〟を埋めたいハヤテ

ハヤテインベストメント代表取締役 杉原行洋氏
Image credit: Mario Suzuki

ひと頃前「シリーズ A クランチ」という言葉をよく聞いた。別の言い方をするなら「死の谷」だ。VC の多さや調達条件の緩さなどからシード期には資金調達に成功したスタートアップが、その後、アーリー期(シリーズ A 以降)で資金調達に苦しむ事象を言い表した言葉だ。VC が増えるなどして環境は以前より改善されたようだが、それでも死の谷は起業家が避けて通れない道程と言える。

ハヤテインベストメント代表取締役の杉原行洋氏によれば、スタートアップには IPO 後にも谷が訪れるという。

(IPO したスタートアップのことをスタートアップと呼び続けるべきどうかについては議論が分かれるが、筆者はある人物に「調達金額から言って、日本の IPO はアメリカのスタートアップのシリーズ B ラウンドあたり。IPO してもまだまだスタートアップだよ」と諭されたことがある。推薦委員を務めさせていただく J-Startup にも、少なからず上場企業が含まれることもうなづけた。)

さて杉原氏との話を続けることにしよう。 IPO するまでのスタートアップは、基本的に VC からのエクイティファイナンスで資金を調達している。IPO した後はどうか。上場しているので証券市場、つまりは一般投資家から資金を調達することになるわけで、本来ならば、IR がうまくいっていれば VC からよりも資金調達しやすいはずだが、そうは問屋が卸さない。

日本の上場会社約3,700社のうち、証券アナリストによって、個人投資家が投資判断の参考にできる決算分析レポートが出されているのは全銘柄の7分の1程度に過ぎない。この情報非対称を補うために xenodata が「xenoFlash(ゼノ・フラッシュ)」というプロダクトを出していることを、BRIDGE の読者なら覚えているかもしれない。

Image credit: Hayate Investment

この問題は上場を果たしたばかりのスタートアップにも立ちはだかる。ざっくり、東証マザーズに上場している企業をスタートアップと定義するなら、東証全体におけるポスト IPO のスタートアップは全銘柄の9%程度。彼らが証券アナリストにフィーチャーされる確率は決して高くない。かくして投資家の目にも留まりにくくなり、上場しても思ったように市場から資金調達がうまくいかないというシナリオだ。

時価総額が1,000億円に届くまではアナリストに調査してもらえない。時価総額を上げるには調査を受ける必要があり、一方、調査を受けるには時価総額が必要になるという、まさに「鶏と卵」の関係。この状況を打破しない限り、ユニコーン(筆者注:上場後だが敢えてユニコーンと呼んでいる)はなかなか生まれない。(杉原氏)

IPO 後のスタートアップが市場以外や VC から調達するケースも存在するが、そもそも VC の多くは上場時のキャピタルゲインに収益の多くを依存する以上、ポスト IPO のスタートアップの資金調達を VC が支援できるケースはレアである。ならばどうするか。公開されている株を買ってあげればいい。これを相応の規模でシステマティックにやるとしたら投資信託になる。

左から:杉崎嵐氏、取締役 安島真澄氏、投資本部 中尾隆彦氏、CTO 小柴晋氏
Image credit: Hayate Investment

同社はグループ内で、以前から日本の上場企業の株式を組み込んだ私募ファンドを組成・運用している。現時点でどのような銘柄が組み入れられているかは不明だが、国内の中小型株式を中心に投資しており、投資家には大手証券会社が発掘できていない有望企業を掘り当てることに定評がある。アナリスト1人あたり、1日4~5件の企業面談をこなすことで高パフォーマンスを実現しているようだ。

CVC でプレ IPO を、私募ファンドでポスト IPO を支援できれば、IPO を境に断絶してしまうスタートアップへの支援は継続的なものになる。CVC であれば、出資者である事業会社の創業者の知見を投資先にフィードバックすることもでき、また、出資者が制限をつけなければ、IPO 後に株式を売って利益確定する必要は必ずしもないし、シナジーがあれば資本関係を維持することもできる。

ハヤテインベストメントでは2007年から10年間、ユナイテッド(東証:2497)の CVC を共同運営していた実績がある。プレ IPO、ポスト IPO に関わらずスタートアップの資金重要が高まっていることを受け、ハヤテインベストメントでは CVC 事業を本格化させる。複数企業の CVC 運営を実現できれば、スタートアップに複数 CVC をワンストップで紹介できるプラットフォームを実現できる可能性もある。

Image credit: Hayate Investment

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