黒船 “Clubhouse” に音声国内組はどう対抗する?ーーStand.fm投資家が語る「次に起こること」

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世界を強襲している黒船のトップページはまだこんな状態

10年ぶりぐらいでしょうか。Clubhouseという新しいソーシャルメディアの到来に(スタートアップ村界隈が)湧いています。一方、今のこの異常なまでの加熱を「ボーナスタイム」と見る向きも多いです。

個人的にもTwitterが過去に辿ってきた10年間を数年でトレースするような「走馬灯感」を感じているので、このモメンタムが今後どのように収束し、そして何が残り、どういった変化をもたらすのか注目しています。ちなみにTwitterが生まれたのち、多くのインターフェースにはタイムラインの概念や非対称フォロー(それ以前は相互に承認するフォローが一般的)が採用されるなど、多方面に影響を与えたのはご存知の通りです。

音声への関心は昨日・今日始まったわけではなく、ここ2、3年のトレンドではありました。特にAirPodsの登場で「耳が常に繋がる」という環境が生まれ、国内でも「Voicy」や「 Yay!(イェイ) 」、井口尊仁さんが開発している「 Dabel 」などが生まれています。ちょっとジャンルは異なりますが、ゲーム配信の「 Mirrativ 」やバーチャルライブ配信の「 REALITY 」、プロセス配信の 「00:00 Studio(フォーゼロ・スタジオ)」 なども音声を組み合わせたソーシャルメディアを模索している例です。

Clubhouseというよりはポッドキャストに近いStand.fm

そしてこの強烈な黒船に立ち向かう国産にあって、Clubhouseど真ん中なのはやはり「Stand.fm」でしょう。ワンタップでライブ配信ができる手軽さや、複数人での配信など、機能的にもコンセプト的にも近い存在です。Clubhouseが2020年のリリースなので、2018年12月からステルスで配信を開始していたStand.fmの方がやや先行しています。2012年からHighlightという 位置ソーシャルで頭角を表した連続起業家という点 でもStand.fm創業者の中川綾太郎さんと被ります。ライバルです。

ということでStand.fmがこのモメンタムをどう捉えるのか聞いてみたいと思ったところ、同社に昨年出資したYJキャピタルの堀新一郎さんにお話を伺うことができました。昨年8月にシード期としては 破格の5億円を出資したことで話題になっています。 

いずれ飽きる

古川健介(けんすう)さんも驚愕していた音声モメンタムをどう分析しているのか堀さんに尋ねたところ、素直に驚いてるとした上で「わくわく半分、悔しさ半分」と語っていました。

「海外のルームとか見てるとピッチとかやってるんですね。音声だけでこういう遊び方するんだ、と。その上で改めて思ったのはアーカイブの強さ。ライブは今しか聞けないし、同じような人が同じような話をすることはないので、今しか聞けないイイ話とかはやはりアーカイブとして再生された方がいい。結果、Clubhouse的な使い方とその他、という形でプラットフォームの使い分けが進むと予想してます。実際、インスタも告知して自分のファンクラブへ誘導するような導線になっています。いつかはClubhouseもワンプラットフォームで課金や場合によってアーカイブなどの機能を実装し色々なことができるようになるとは思うけど、現時点では機能を実装されているプラットフォームへ移動が進むのではないでしょうか」。

確かに今は一気に人が入ってきて、かつ、コロナ禍の影響もあり、一部のインフルエンサー(特にテック界隈)にとっては懐かしい同窓会のような雰囲気がある場合もあります。ここで話されている内容は過去の貯金みたいなものであり、そこに乗っかる形でやってきた芸能人たちも「ノーギャラ」でお話をしている状況です。強烈なアテンションは集められるけど、課金や広告がない状況で続くわけがない、というのが堀さんの見立てでした。

実際、堀さんも言っていた変わった使い方にClubhouseで開催されるピッチ・ショーというのがあります。スタートアップが投資家やエンジェルにピッチして売り込むルームなんですが、Zoomなどと異なりスライドが使えません。サービスを想像させるのは「声」だけなんですね。まあ、普通はこんな企画やろうとは思わないんですが、Clubhouseでは実際にいくつも実施されています。私も数回聞きましたが、確かに完璧とは言わないまでも、リードを取るという意味では成立していました。

同様にユーザーによって音声(声だけのソーシャル)の使い方が発明されている様子は、Twitterで「ReTweet」が生まれていった過程を彷彿とさせます。最終的に文化として定着したReTweetはRT機能としてTwitterに 実装されていきました。 

音声ソーシャルの体験をどう表現する

最終的に使い分けが進むという想定をしつつ、Stand.fmとしてこのモメンタムをどう陣営に引き込むのか、という質問については「(綾太郎さんは)何かを考えている様子」とはぐらかされてしまいました。ただ、ひとつヒントとして堀さんもClubhouseに表示される「オーディエンスアイコン」については気になる、という発言があったんですね。

実際、話す側として公開取材を実施すると、このコメントもしないし発言もしない「オーディエンス」の存在をふんわりと感じることができます。知ってる顔は繋がりがあれば前席に表示されますし、微妙に話す内容にも影響を受けることがあります。例えば人数が少ないとややくだけた話ぶりになることもありますし、知ってる顔が多いと関連する話題を振ってみたり、ということが自然と生まれるのです。オーディエンスに発言やスタンプがなくとも現実世界と繋がるとこういう影響があるのかと個人的には認識しました。

Stand.fmに並ぶチャンネルはラジオ的

ポイントはオーディエンスとの距離感です。現在のStand.fmは見ての通り、プチインフルエンサーから芸能人が並ぶ「コメントできるラジオ」です。体験としては人の話を聞く、という部分が中心で、Clubhouseのようにそこにいる友人や知ってそうな人と繋がるというイメージはあまりありません(機能としてはフォローがあります)。Stand.fmが現在の体験を保ちつつ、新たにやってきた音声+ソーシャルという「ライブイベント的な」体験をどのように表現するのか、がぜん興味が湧いてきました。

堀さんによれば、昨年の年末からStand.fmはDAU、MAU共に順調に成長しているそうです。国内ではシード期に5億円という破格の資金調達に成功していますが、一方のClubhouseは昨年創業ながら、先日、1億ドル(※今日のレートで約105億円)の調達に 成功していると言われています。 同時多発的に発生した各国でのClubhouseブームは中国でも発生しており、招待枠の個人間売買が 横行しているという話もあります。 あまりにも強すぎる黒船に対し、国内勢は次をどう読んでどのように対抗するのでしょうか。

※本稿はClubhouseでYJキャピタルの堀新一郎さんに公開インタビューした内容をご本人の同意の上、記載しております

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