物流・サプライチェーンを変革するーーヤマトホールディングスの「KURONEKO Innovation Fund」

SHARE:
ヤマトホールディングス・オープンイノベーション推進機能の森憲司さん

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、大日本印刷のスタートアップ投資活動に続いてお届けするのは、ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)の「KURONEKO Innovation Fund(YMT-GB 投資事業有限責任組合)」です。

ヤマトHDは昨年4月にグローバル・ブレインと共同で50億円のファンドを立ち上げました。また同社はファンドの立ち上げに先立ち、中計などの上位概念として経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を公表しています。

この中で3つの構造改革として宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、ECエコシステムの確立、法人向け物流事業の強化が強調されており、それにまつわるデータプラットフォームやラストマイルデリバリーなどの構築を目指すとしています。KURONEKO Innovation Fundもこの構想の一環として設立された経緯から、出資の範囲も自然とこの計画に沿っています。

物流やサプライチェーンなどをテーマに幅広い技術やビジネスモデルを持ったスタートアップに5,000万円から数億円の規模で投資を予定しています。またこの窓口を活用し、資金だけでなくヤマト運輸やグループ各社が保有する経営資源を活用する協業も視野に入れた、本格的な協業体制が始まろうとしています。(太字の質問は MUGENLABO Magazine編集部、回答はヤマトHD オープンイノベーション推進機能の森憲司さん)

共創・出資のケーススタディと狙い

物流やサプライチェーンと一言で表現してもその範囲は相当に広くなります。ヤマトHDと言えば宅急便ですが、サプライチェーン全体で考えると資材(B2B)物流に在庫管理、個宅配送などのモビリティに関する分野、代引きに代表されるフィンテック分野、全てのデータを解析・活用するAIやマーケティング分野などかなり幅広いテーマが対象になります。

こういった可能性に対して出資や協業含め、さまざまな共創パターンに対応しようという意欲的なファンド構成になっている、というお話でした。その中で、昨年12月に注目の第一号案件が発表されました。本命のラストマイルデリバリーに関連する自動運転技術への出資です。

昨年12月に第一号案件の公表がありましたね。どういったスタートアップなのでしょうか

森:はい、昨年の12月に中国の自動配送ロボット開発企業Yours Technologies(以下、Yours)への出資を決定しました。同社は2018年の創業と若いスタートアップですが、開発するコンピュータービジョンの自動運転技術を活用し、次世代物流及び小売店向けにラストワンマイル配送のロボットソリューションを提供しています。

労働人口の減少やEC荷物の増加、感染症に対応した配送ニーズの高まりなどを背景に今後、ラストワンマイルにおける配送業務の効率化が必要となってきます。上記実現に向けて同社との技術交流を図り、日本国内における自動配送ロボットの活用に向けて検討を進めていきます。

自動運転宅配は各国で技術競争がある中、中国のスタートアップを選んだ理由は何ですか

森:まず前提として、どこかの国に特化することは無く、グローバルにおいて最も優れた技術を持つスタートアップの方にリーチし、一緒に取り組んでいきたいと思っています。
その前提において、本件は、中国で素晴らしい技術を持っているスタートアップの方と巡り会えた事案となります。

ただし、本件を通じて中国国内スタートアップから当ファンドの認知を得るとともに、同国市場での投資活動の活性化に繋げたいという狙いはありますね。

ーー少し補足しておくと、自動配送ロボットにはAmazonのScoutやStarshipTechnologies、国内はZMPや楽天が中国EC大手の京東集団と共同でテスト運用を開始するなどの動きがあり、技術的にも実用化の一歩手前まできている感があります。その中で彼らがYoursを選んだ理由は「コスト」と「実運用の実績」だったそうです。

自動運転には通常、LiDARというセンサーが必要になるのですがこれは大変高額で、盗難や破損の危険性のある自動配達への利用にはハードルがあったそうです。また、規制の関係から日本国内では課題の残る実社会での運用についても、その点が寛容な中国市場での実績がプラスに働いた、というお話でした。

質問に戻ります。

自動配送はわかりやすい出資ケースですが、ここに特化するわけではないですよね

森:そうですね、あくまで最初の公表ケースだったということで、それよりも前に一件、英国ロンドン拠点のDoddle Parcel Services Ltd(以下、Doddle)との共創が始まっています。彼らが提供する「Click & Collectシステム」を導入したもので、ヤマト運輸と契約していただいた特定のECサイトで購入した商品を、お客さまの生活導線上の店舗で受け取ることができる、というものです。全国のスーパーやドラッグストアなど600店舗から申込をいただいて昨年11月から開始しています。

ECで購入した商品を宅配ではなく提携している店舗で受け取れるということですね

森:はい、特定のECサイトで商品を購入した後に、ヤマト運輸から届くメールにて受け取り店舗が選べるようになります。お客さまが受け取り店舗を選ぶと、そこに商品が届きますので、来店時に二次元バーコードを提示していただき荷物を受け取る、という流れですね。生活導線上にある店舗で受け取れることで、お客さまの利便性を拡大するだけでなく、受け取り店舗は新規顧客の集客効果や、クーポン発行による購買促進効果が見込める、といった具合です。

彼らとの共創を考えた狙いはどこにあるのでしょうか

森:消費者の生活が多様化している中で、受け取り方法も多様化させていく必要があると考えていました。Doddleの開発するプラットフォームを利用することで従来の荷物の受け取り方法を拡大させることができると考え、EC事業者向けソリューションを開発する事業部と共同で渉外を行ったのがきっかけです。

彼らとのディスカッションの中で、Doddleが市場をよく理解してソリューションを開発していることがわかり、パートナーとして日本でのサービスを一緒に開発していきたいと思い、サービスローンチに至りました。

出資と共創の両面でケーススタディをお話しいただきましたが、意思決定のプロセス、特に出資についてはどのようなフローになっていますか

森:パートナーのグローバル・ブレイン様とソーシングから投資検討まで二人三脚で行い、スタートアップ企業様の時間軸と同じスピード感で投資実行できるような設計としています。役割的には、グローバル・ブレイン様が主にファイナンス面、弊社が協業やビジネス面を検討し共同で投資検討をする形です。さらに弊社内での議論についても、社長はじめ主要役員へクイックに情報を連携できる仕組みを構築し、早期に検討結果を出せる体制をとっています。

M&Aや本体出資も選択肢として用意した上で、CVCの役割をどのように設定されましたか

森:CVCの役割は数年先の世界を変える有望なスタートアップに投資し、物流業界のデジタルトランスフォーメーションを推進する革新的な技術・ビジネス、そして熱い想いを持った「パートナー」に、ヤマトグループの経営資源、資金、協業創出の場を提供することで共に成長を目指すことが狙いです。中長期的な役割がCVCで、スタートアップの成長のために資金のみでなくヤマトグループのリソースを提供することで、共に成長できるエコシステムを構築したいと考えています。

ヤマトグループの事業には非常に裾野が広い分野が関係してくると考えているため、幅広い分野のスタートアップの方と会話をさせていただき、共に新しい運ぶを創り出すという「運創」の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。

ありがとうございました。

ということでヤマトHDのCVC活動についてお届けしました。次回はテレビ東京コミュニケーションズの取り組みにバトンをお渡ししてお送りします。