スマホだけで空間に「音」の付加価値を付けるAuris、開発のGATARIにW Venturesら出資

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Aurisで編集した空間のイメージ

ニュースサマリ:空間に音声コンテンツなどを配置できる編集ツール「Auris」を開発するGATARIは2月25日に第三者割当増資の実施を報告している。引受先になったのはW ventures、OLM ventures、東大創業者の会応援ファンド、毎日みらい創造ラボ、名古屋テレビベンチャーズの5社と個人として国光宏尚氏、小泉直也氏、濱本暁氏、馬場健氏の4名。ラウンドはプレシリーズAで、調達した金額や出資比率などの情報は非公開。

同社が開発するAurisはAR Cloud技術を活用した空間を演出するオーサリングツール。スマートフォンアプリで現実の空間をスキャンし、音声データを特定の位置に対して配置・保存ができる。例えば博物館を訪れたユーザーが恐竜の展示物の前に立つと、その鳴き声が自動的に聴こえてくるといった「空間演出」を可能にしてくれる。スマートフォンのみで現実空間からコンテンツの配置までワンストップでできるのがAurisの特徴で、施設管理側は一定の編集知識を習得すれば、その後の更新を自分たちでできるようになる。

昨年9月にプロトタイプを公開し、鹿島建設や、空間デザインを手がける乃村工藝社と非接触型音響体験サービスを協業の形で展開している。現在のビジネスはオーサリングツールとクラウドを組み合わせたプラットフォームの提供および初期コンテンツの制作支援で、協業先が事業展開する場合はその売上シェアなども提示している。春にこれらの正式リリースを予定しており、今回の調達資金はAurisの開発および人材採用に投資される。また、同社は3月末までAurisが体験できる「GATARI 秋葉原スタジオ」をオープンさせ、文化施設や観光・エンターテインメント事業者むけの説明会も実施している。

話題のポイント:Aurisの開発者であり、GATARI代表取締役の竹下俊一さん、そして今回投資したW Venturesの新和博さんに公開取材でお話伺ってきました。ただ、本件は声よりも文字よりも何よりも動画で説明した方が早いです。こちらをまずご覧ください。

美術館や博物館で音声解説のプレーヤーを借りたことある方がいらっしゃったら、体験としてはそれに近いです。ただ、あのシステムの多くは物理ビーコンを場所に設置し、そこの範囲に行くとレシーバーが反応して再生するというものです。Aurisはその代わりにAR Cloudを使い、さらにその編集作業自体をスマートフォンアプリでワンストップにした、というのが特徴です。

AR Cloudは「空間コンピューティング」などの文脈で出てくる技術なんですが、すごくざっくり言うと、サーバー上にリアル世界をコピーしたものと考えれば理解しやすいです。デジタルツインとか言われたりしますが、デジタル世界なので当然、そこに自由にコンテンツを配置したりできます。通常、この世界を作ろうとすると現実世界をキャプチャしてデータ化しなければなりませんが、それをスマートフォンのカメラで実施するので、制作が楽になる、というわけです。

竹下さんにどれぐらいの精度でキャプチャするのかお聞きしましたが、例えば駅の構内をキャプチャする場合、全部を綺麗に記録する必要はなく、スタート地点とそれ以外の目標になるポイントを記録すれば実際に利用できるようになるそうです。

ユーザーはスマートフォンとAirPodsなどを使って拡張された現実空間を体験する

さて、気になるのはユーザーの利用です。現実空間の座標を把握し、あるポイントにコンテンツを置いたとしてそれをどうやって再生させるのでしょうか。答えは「ユーザー側のカメラ」です。ユーザーはAurisのアプリを立ち上げて施設を歩きます。その際、ユーザーのカメラが該当の場所を映し出すことでその場所を三次元的に把握し、例えば椅子に座ると音が鳴る、といった体験を提供することができます。そうは言ってもスマートフォンのカメラをずっとかざしたままだとしんどいので、Aurisでは首からぶら下げられるポーチを提供しているのだとか。

GATARIが狙うのはMRと呼ばれる現実と仮想の空間が混じり合った世界での体験提供です。彼らが上手だなと思ったのは、スマートフォンのみで体験を可能にしたことと、特に「音」を入り口にした点です。VR・AR・MRの市場はいかにしてユーザーに没入の体験を提供できるかが鍵になります。VRヘッドセットがゲームを中心に広がりを示している通り、デジタル100%の没入体験は特定のユーザーを虜にしました。一方、あのヘッドマウンドディスプレイは装着する人と場所を選びます。各社が次に競争しているARグラスはまだデファクトスタンダードがありません。

一方、音の世界はAirPodsの普及や、Clubhouseの躍進などで体験できる市場が拡大しました。特に音声ソーシャルを体験された方であればご理解いただけると思いますが、人は顔をわざわざ映さなくてもクリアな声とアイコンだけでその人や聴衆を感じることができます。デバイスがまだこれからというタイミングで音に絞った展開を進めたのは戦略的に正しいように思いました。

竹下さんもお話されてましたが、Aurisの現時点でのハードルはオンボーディングです。施設側にいかにしてこのオーサリングツールを使いこなしてもらえるか、そこがブレイクスルーすると、施設側からのリクエストは多いということだったので、このコロナ禍の中、非接触に空間を演出できるツールの価値はより大きなものになるのではないでしょうか。

※本稿はClubhouseでの取材内容をご本人に同意いただいて記事化しています

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