若手アーティストを支援する「新時代の版画」の可能性ーーDNPとTRiCERAの共創

写真左から:TRiCERA代表取締役の井口泰氏、DNPアートコミュニケーションズ取締役の篠田秀実氏、DNPメディア・アートの相田哲生氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。

アートを社会に実装する共創の取り組みはこれまでにもいくつか取り上げてきました。The Chain MuseumとKDDIによる日本の文化芸術体験を拡張するau Design project(ARTS & CULTURE PROGRAM)の取り組みや、東急とヘラルボニーによる「障害のある作家のアート」が街に染み出すROADCASTプロジェクトがそれです。

そして今回ご紹介するTRiCERAと大日本印刷(以下、DNP)の共創事例は、よりアーティストにフォーカスを移したものになるかもしれません。

現在の世界のアート市場は7.5兆円、国内については3,500億円ほどと推計されています。一方、実際に作品販売において生計を立てられているアーティストはわずかであり、その理由として乏しい販売のチャネルがありました。大きな作品であれば運搬するだけでもコストがかかります。この問題を解決しようとしたのがTRiCERAで、彼らはアーティストと作品を求める消費者を繋ぐマーケットプレイスを展開しています。

今回の共創事例では、ここにDNPの印刷技術を組み合わせることで、より作品販売の可能性を広げることに成功しています。詳しい取り組みについて、DNPのみなさんとTRiCERA代表取締役の井口泰さんにお話を伺いました。

アート販売の課題と版画がもたらす可能性

国内におけるアート作品を販売する方法は画廊・ギャラリーを通じてのものが一般的で、それ以外に大手デパートや催事、インターネットサイトで直接販売する方法もあります。画商などが間に入って取り扱うケースは別として、自分で直接販売する場合にはそれなりのノウハウとコストが必要になります。海外にも販路を広げようとすると難易度はさらに上がります。

TRiCERAが提供するのはアーティストのC2Cマーケットプレイスで、参加申請に通ったアート作品の情報をアップロードし、売買が成立すれば梱包をするだけで、あとはTRiCERA側が集荷・搬送、販売手続きを担ってくれる仕組みになっています。海外販売時の税関対応も彼らがやってくれます。

しかしここでもうひとつ大きな課題が立ちはだかります。価格です。井口さんが「多くの時間をかけて制作を行うアーティストの作品価格は高価格になってしまうため、知名度がない状態では作品が良くても売れないことが多い」と指摘するように、一点ものの作品は数カ月かかって制作するものも珍しくなく、それなりの価格を必要とします。

しかし高額になればなるほど一般の人には届きにくいものになってしまいます。

そこでアイデアとして出てくるのがグッズや複製品の考え方です。特に版画にできる作品の場合は価格を抑えることができるので有効です。ただ、版画も簡単な方法ではなく、版下を作るだけで数十万円のコストが必要になるそうです。このハードルをクリアしたのがDNPの高精彩複製技術でした。

TRiCERAは市場創造のために作品単品だけでなく複製画販売の可能性を検討していました。一方のDNPでは、国内外の美術館が保有する名画のライセンスを管理するビジネスを展開しています。ただこれまではリアルな展覧会や美術館での告知と販売がメインで、オンラインマーケティングや海外も含めた販売(EC)が着手できていないという課題感がありました。

TRiCERAが手がける若手アーティストの作品についても同様です。DNP高精彩出力技術『プリモアート』では、国内外の美術館が保有する名画やマンガ・アニメ原画をアーカイブし、複製する事業をしていたものの、現代若手アーティスト作品については着手できていなかったんです。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

昨年1月にKDDI ∞ Laboの定例会で出会った両社は検討を重ね、各国から選りすぐった13名のアーティストによる限定エディション・高精彩複製作品の販売にこぎつけます。結果、昨年11月から約3カ月の期間でのトライアル販売では、国内外から予想以上に販売に繋がったというお話でした。

実際に販売された作品

現代アートでは複雑な配色、ストロークやタッチがあるため、従来の印刷では細かい部分には手が及びませんでした。今回はDNPが持つ10色インキ用のカラーマネジメント、さらに原画の撮影には1億画素を超えるカメラを用いることでそれらを再現できました。版画の魅力の一つはイメージを楽しめるという点です。だからこそ色彩の表現、アーティストの筆の痕跡を忠実に再現する必要があるのです。(TRiCERA 井口さん)

共創の取り組みはまだ始まったばかりです。版画を初めて制作したアーティストの反応も上々で、DNPサイドとしても原画だけでなく複製画の販売の可能性、アーティストや作品による販売数の違いなどマーケティングデータを収集できたことも大きかったそうです。これらの反響を手に両社は次の仕掛けに向けて取り組みを続けます。

DNPは、文化(アート)を次代へ継承するだけでなく、アートの力が経済成長の原動力にもなると考え、その理解・認知拡大や、他産業分野(観光、まちづくり、教育等)と連携した取組みを進めています。今回の取り組みでは若手アーティストの作品を「高精彩出力技術・プリモアート」で製造し「新しい版画」と位置づけて販売をしていくことで、アーティストが自立して活躍できる環境を提供しました。

若手アーティストが世界で活躍できる社会づくりにつなげることと、アート市場をより一層活性化し拡大させていきたいです。また、アートを身近な存在にしていくため、著作権の管理や二次利用の推進、各種メディアやプロモーション手法、新たなアーティストの発掘・育成などについても今後協業を検討していきます。(DNP 篠田さん 相田さん モタイさん)

デジタル技術とマーケットプレイスの組み合わせで生まれた「新時代の版画」作品はアートに取り組む人、楽しむ人にとって新しい選択肢となるのでしょうか。

編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。

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