AirTagリリースに見る、スタートアップのGAFA差別化戦略/GB Tech Trend

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先日リリースされたAirTag。Image Credit: Apple。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

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注目のトピックス:以前から噂をされていたAppleの新IoT「AirTag」がついにリリースされました。忘れ物をしないようにデザインされた小さなチップとなっています。専用のバンドと一緒にくくりつけてして、私物の場所をトラッキングできます。

iPhoneやiPadとAirTagをBluetooth通信で接続し、仮に接続が切れるほど遠い場所にAirTagが移動してしまったらユーザーに通知を飛ばす仕組みです。通信外の場所にいても、同じiPhoneユーザーが近くにいれば、Bluetoothによる位置情報の更新が行われ、所有者が近くにいなくとも情報を届けてくれる便利なIoTです。価格は1個3,800円から。バッテリーの持続期間は1年以上で交換もできます。

最大の特徴はiPhone11以降に搭載されている超広帯域チップの活用です。一般的なWifiより遥かに広い範囲に電波距離を広げられ、AirTagのトラッキングエリアも拡大できます。その上、「Precision Finding」機能が使えるようになり、加速度センサーやジャイロスコープを駆使して、正確にユーザーをAirTagの場所へと導くことが可能となりました。

AirTagのリリースに関してAppleはプライバシー性を推しており、ユーザーがどのようなモノを所有しているのかなど、該当物の位置情報以外を同社がトラッキングすることは難しいでしょう。

さて、今回の発表において戦々恐々としているのが同じく忘れ物市場に参入しており、市場シェアを獲得している「Tile」なはずです。元々、Bluetoothを軸にした「発見ネットワーク」の概念を市場に提唱し、ユーザー同士で共有する仕組みは同社がパイオニアとなっています。AirTagはまさにTileの事業モデルを完全に模倣されたと言えるでしょう。

Tileのアプリはユーザーが任意でインストールする必要がありますが、Find Myに関しては事前に備え付けられています。iPhoneユーザー数億人の「発見ネットワーク」を即座に構築でき、リリース初日からTileが最も訴求しているネットワーク効果を軽く凌駕できる「不公平な強み」を持っています。プロダクトデザインに関しても、バッテリーが切れる1年毎に新品交換が必要なTileと違い、自分でバッテリー交換できるAirTagはユーザービリティにおいても一歩先を行っていると言えます。

TileはAppleの独占状態を訴訟問題にする可能性がありますが、Appleは「Find My」のネットワーク機能を外部に公開する意向をすでに示しています。すでに電動自転車「Vanmoof」らがパートナー企業として超広域帯チップによるネットワーク効果のメリットを享受できます。Tileもパートナー企業となれば問題ないとする流れにし、独占的ではないとする反論の狼煙も上がっています。

あらゆる面において手を打たれている印象のTileです。

GAFAにやられてしまった典型例となってしまいそうですが、こうした事態を戦略的に回避することはできなかったのでしょうか。可能性として挙げられる回答は2つ存在しそうです。

1つは「収益軸」。未だにTileやAirTagは3,000〜4,000円前後と比較的高価であり、一般大衆に幅広く浸透しているかと言えば疑問が残ります。そこで、たとえば広告収入に軸を変えることでハードウェア販売からのシフトをしていれば分厚いユーザー層を獲得できるかもしれません。

Tileユーザーには1,000円を切る形でチップを販売し、一方でアプリシステムに乗っかる形でパートナー企業にもTileのトラッキングサービスを配布。ユーザーとパートナー企業間の両者が揃ったネットワークを構築し、そこに広告をかませることでハードウェアコストを浮かせる戦略が考えられます。Appleは広告企業ではないため、収益戦略における差別化にはなるだろうとの算段です。

もう一つは「企業文化」です。GAFAは往々にして個人データ問題を指摘される立場にあります。ユーザーのプライバイシー情報を大量に保有しているため、特に欧米では日に日に脱GAFAの声が大きくなりつつあります。こうした社会環境に呼応する形で、Tileのブランディング・カルチャーを作り上げ、ユーザー意識を味方にさせる定性的な戦略が考えられそうです。

いずれにせよ、AppleはFind Myを軸にした新たなIoT社会を作り上げようとしており、このエコシステムに付随する形で各ハードウェア企業が付いて回る流れができそうです。スタートアップ単体で何かしらのIoTネットワークを作り上げることがより至難な時代となりました。

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