YJCとLINE V合併、新生「Z Venture Capital」誕生ーー堀代表に聞く“300億円新ファンド”と投資戦略

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Z Venture Capital代表取締役の堀新⼀郎氏

Zホールディングス(以下、ZHD)の連結子会社で事業投資を手がけるYJキャピタルは4月1日、LINE Venturesと合併し、Z Venture Capital(以下、ZVC)としての事業を開始すると発表した。3月1日に両社の親会社であるZHDとLINEの経営統合が完了したことを受けたもので、YJキャピタルを承継会社とし、商号を変更した上で両社が保有していたコーポレートベンチャーキャピタルとしての投資機能を統合する。

またこれに伴いZVCの日本および韓国・米国・中国・東南アジアなどのグローバル投資ファンドとして新たに300億円の新ファンド「ZVC1号投資事業組合」の組成も公表した。代表取締役には旧YJキャピタル代表の堀新⼀郎氏が就任し、取締役会長に旧LINE Ventures代表取締役の黄仁埈(ファン インジュン)氏、取締役には旧YJキャピタル取締役の都虎吉(ドー ホーギル)氏、Zホールディングス執行役員の崔 ボラ(チェ ボラ)氏がそれぞれ就任する。

本誌では改めて代表に就任した堀氏に、統合後の投資戦略を聞いた。(以下、太字の質問は全て筆者。回答は堀氏)

統合で何が変わる

さて、統合で何が起こるのだろうか。堀氏はポイントを3つに整理して説明してくれた。

ーー統合で発生する変化は

堀氏:今までYJキャピタルは親会社であるヤフーのためにこのファンドのパフォーマンスリターンとしてキャピタルゲインとシナジー創出することに対してみんな一生懸命仕事してきました。LINE Venturesも同様です。LINEのためにやってきた。

今後、我々にとってのステークホルダーは(統合した)ZHDです。ここにはアスクルや一休、ZOZOといったグループ企業がたくさんあります。このグループ全体に対するシナジー創出をしてくことになる、という点が大きな相違点になるかなと考えています。

次にチームです。今まではYJキャピタル10名、LINE Ventures7名でそれぞれ別々に動いていたわけですが、これが総勢17名となり、東京、北京、ソウル、サンフランシスコの4拠点という構成に変わります。自然と対象になる国もYJキャピタルからするとグローバルを強化できたとなりますし、LINE Venturesからすればこれまでのグローバル投資に加えて日本への注力も可能になります。つまりチームの拡大によって投資エリアが拡大したこと、これが大きな変化です。最後がファンドの新設です。300億円で新設し、日本国内と海外に対して出資します。

ーーファンドの出資金は

堀氏:出資元母体はZHDとなります。

ーー国内のCVCで300億円というサイズはトップクラスだが、海外を含めてとなるとやや小さく感じる

堀氏:検討の詳細はノーコメントでお願いしますが、ここでしっかり結果を出して次にステップしたい、とさせてください。

日本とグローバルを1つのファンドで攻める

ではもう少し話を進めて具体的な投資戦略について聞いてみることにしよう。筆者は以前、堀氏にYJCとしての投資パフォーマンスの考え方を聞いたことがあるのだが、CVCでありながらシナジーだけでなくキャピタルゲインもしっかり狙う「二兎を追う」考え方と話していた。

投資領域についてZVCは「ZHDの中核事業であるコマース、メディア、フィンテックの3領域に加えて、ヘルスケア、サイバーセキュリティ、B2B ソフトウエア領域などにも積極投資を行う」としている。ステージはシードからレイターまで未公開企業のオールステージでここはこれまでと変わらない。

YJキャピタル時代から変化するのが海外投資だ。これまでにYJキャピタルはEast Ventures、Sinar Mas Digital Venturesと共同で東南アジアにフォーカスした2億5,000万米ドルのファンド「EV Growth」を2018年に設立しているが、LINE Venturesと統合することで主体的に取り組むことになった。エリアは韓国、米国、中国、東南アジアで、テーマはAI、ロボティクス、ブロックチェーンを含むディープテック領域としている。

では堀氏への質問に戻ろう。

ーーYJキャピタル視点で海外が新たな局面を迎えることになる

堀氏:LINE Venturesは2014年からファンドを2つ(※グローバルとジャパン)運用していまして、グローバル投資が100億円、日本投資が50億円というサイズでした。確かにチームメンバー含めグローバルへのフォーカスが強く、一方のYJキャピタルは国内が強かったと思います。投資戦略としてまずこの新設した300億円のファンドを中心にワンチーム経営に移ります。国内・海外でファンドを分けません。これが大きな挑戦だと思ってます。一方、ソーシングなどのチームはジャパンとグローバルで分かれます。

ーー海外と国内、新たな領域、複雑な投資戦略の舵取りをどう整理する

堀氏:基本的な考え方はZHDと将来シナジーがありそうな領域に対してキャピタルゲインを狙いながら、かつ、シナジーを考えた出資をしていくことになります。ただエリア毎に若干戦略は変わると思います。

まず日本についてはオールステージで、Code Republicを通じたシード投資からレイターまで全部をサポートします。フォーカスするセクターもYJキャピタルとしてやってきたメディア・フィンテック・コマース3領域に加え、LINEグループが入ってくることによってヘルスケア領域への注力が増えます。また、ZHDの統合により、アジアナンバーワンのテックカンパニーを目指すという方向性が示されてます。我々もですね、このAIによって世の中を変えていくという部分を注目しているので、AIオリエンテッドな企業にはこれまで以上に積極投資していく考えですね。

それと2社が合体することで親会社同士の大きなシナジーが生まれるのが広告事業です。これまでB2Cの企業であると考えられていた我々にとって、法人領域、つまりB2B SaaSについても一定以上の活動を仕掛けていくというのが日本に関する投資戦略になります。

ーー海外は

堀氏:次に海外なんですが、これは国にもよりますが、国内に比べて競争が非常に激しい。ですので、我々の強みとしてグループ企業が持っているデータやサービス基盤を軸に、ディープテック領域やサイバーセキュリティなど、これらの資産を活用して新しい市場を創造できるような、そういった企業に出資していくことになります。ここは将来の事業開発という意味も込めて比較的アーリーステージへの投資が中心になるはずです。

ーーEV Growthの設立やZHDのアジアフォーカス、そしてご自身もベトナムでの赴任経験など「アジア色」を強く感じる

堀氏:はい、東南アジアが重要になると考えています。LINEはタイや台湾、インドネシアなどで一定のユーザーがいますが、我々としてもグローバル投資における一番注目しているマーケットが東南アジアなんです。これら地域には既にLINEが持っているエコシステムがありますから、それを強化するような投資が考えられます。例えばエンターテインメントやデリバリー、PayPayのノウハウなどそういったものを活かせる領域があるはずなので、本体サービスの連携を含めた、現地スタートアップと垂直立ち上げできるようなチャンスがあれば積極的にいきたいですね。

シナジーへの取り組み

YJキャピタル時代に始まった完全クローズドの協業イベント「Zピッチ」

統合によるワンチーム・ワンファンドへの移行、そして投資エリアの拡大と領域の広がりについて堀氏に聞いた。最後はシナジーについてだ。これまでもYJキャピタルとヤフーでは、マイノリティ出資をきっかけにグループ入りするdelyのような連携ケースがあった。

リリースによれば今回統合したZHDグループは国内で200を超えるサービスを提供し、従業員数2万3,000人を誇るインターネットサービスグループになるそうだ。特にLINEは国内のみならずタイや台湾、インドネシアでも利用が進んでいる。ZVCはこれらのサービスエコシステムに対し、事業提携機会の創出やノウハウ共有、プロダクトの導入支援、海外展開支援などを通じて出資先をより具体的に連結させる動きをするとしている。

Yahoo!やLINEという巨大エコシステムと出資先をどう結び付け、事業拡大に寄与するのか。

ーー本体投資とZVCの連携について。そもそも投資事業はどう棲み分けする

堀氏:棲み分けは明確にあって、マジョリティ投資はZHD、マイノリティーはZVCです。出資先とグループの協業・連携はもちろん継続で、Yahoo!と連携したdelyやスタンバイのようにZVCの支援先とグループ企業が一緒になって事業開発していく。これは我々の使命だと思っているので、今後はそれをどれだけ増やせるかということを頑張っていきます。

ーーYJキャピタルは本体事業との連携に積極的だった印象があるが、LINE Venturesは私の取材範囲の限りでは、そこまで大きくスタートアップ育成やシナジー活動を聞いてこなかった。育成や協業支援という観点で意見の相違やハードルはあったのでは

堀氏:カルチャーの違いは当然ありました。だからミッション・ビジョン・バリューなどを作る際にもかなり議論はしましたね。まあ半年ぐらいは試行錯誤は続くと思うんですが、それ以上に一緒に組むことでできることが増える。期待というか、本当に興奮している状況ですね。

例えばこれまでYJキャピタルでは西海岸や中国にスタッフがいなかったわけです。だからこの地区のスタートアップどうなってるんだろうとか、アメリカの状況知りたくても、実は知り合いづてに聞いたりしてたんですね。それが現地にいるわけです。これだけでも物凄いプラスです。で、先日、delyの堀江(裕介・代表取締役)さんが「参謀部屋」っていうのを作っていましてですね、彼が中国のこの企業どうなってるんですか、韓国の、インドの、アメリカのってバンバン聞いてくるんですよ。今は韓国にも中国にも4月からはアメリカのメンバーも増えるので本当に手応えを感じてますね。

ーー確かに現地情報はこれまでになかった恩恵だ。もう一点、グループシナジー創出のために協業イベントを開催していたがあれは継続するのか

堀氏:はい、Zピッチは支援先の登壇企業との提携・協業が中心だったんですけど、そのスピンオフをソフトバンクと一緒にやったんです。事業部長ではなく呼んだのは営業マンで、500人ぐらい集まりました。彼らは法人営業のプロダクトを探していて、そこに対してスタートアップを紹介したわけです。今、バンバン商談決まってます。

ーーCVCとしての投資戦略だけでなく、本体連動がより明確になった印象がある

堀氏:エコシステムへのアクセスを提供するっていう表現を使ってます。LINEだったりYahoo! ショッピングだったり、スタートアップのみなさんが組むことで事業が大きくなるのであれば、そこへのアクセスを提供するし、事業責任者だったり、社長だったりとの商談をセッティングします。我々はアジアで一番大きなインターネット・カンパニーになるので、このリソース・アセットを存分に使ってくださいと。このエコシステムの「入口」まで我々がご案内しますよ、というのが伝えたいことです。

ありがとうございました。

堀氏との会話で、特に海外のトレンド、特に情報が閉じがちになる中国やアジア圏の情報が容易に手に入るのは大きなメリットと感じた。国内はある程度盤石なZHDに与えられた使命はアジア圏における存在感の拡大にある。ユニコーン(未上場企業で10億ドル以上評価)輩出数でアメリカに続く中国・インドといったアジア各国に対抗するためにはマザーズ上場組を含め、シードから成長期に入るスタートアップ企業を底上げする必要がある。そのためにも内需はもちろん、市場として周辺各国での展開を選択肢に入れられるかどうかは大きい。

ZHD本体はAI関連を中心に今後、5年間で5,000億円の戦略投資を公表している。なので、どうしても300億円というサイズに小さい印象が付き纏ってしまうが、堀氏の言う通りステップバイステップで拡大させていくのだろう。ZVCがシードからマザーズ上場クラスまでの発掘・育成を担うことができれば、ZHDの戦略投資におけるシナジー効果は自ずから明らかになっていくだろう。