ECの「返品体験」をアップデートするHappy Returns、PayPalが買収/GB Tech Trend

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PayPalが買収した「Happy Returns」。Image Credit: Happy Returns。

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

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5月14日、PayPalがEC返品ソリューションを提供する「Happy Returns」を買収したと発表しました。同社はEC利用者が商品を返品したい際、地元のショッピングモールや提携店舗で手軽に返品商品を預けられるドロップオフ・ネットワークを提供しています。商品を箱に詰めることなく、そのまま預けるだけで返品処理をしてくれる利便性の高さがウリです。

TechCrunchによると全米1,200都市以上・2,600超の拠点に展開しているそうです。実店舗で商品を購入した際と比べて、EC商品は3〜4倍の高さで返品されるそうで、実店舗とECとのギャップ市場を狙っているのがHappy Returnsと言えるでしょう。

Happy Returnsの事業モデルはネットワークビジネスと言えます。創業初期から着実にショッピングモールや配達業社の集荷拠点にもなっている小規模店舗との提携をしてきました。並行してECブランドとの連携も強化。Happy Returnsに返品商品が持ち込まれた際、ECブランド側の在庫管理システムにも情報が伝わり、迅速に顧客をケアできるようになりました。

同社の提供価値は次のようなものです。

  1. 利用顧客はいつも利用している店舗で返品処理できる利便性が受けています。
  2. 利用EC企業は、これまで1つ1つの返品商品の管理及び配送コストに多大な出費をしてきました。そこでHappy Returnsが一定量の返品商品が貯まるまで商品を貯め、一斉に送り返す仕組みを提供することで、在庫管理や配送コストを下げる提供価値を生み出しています。
  3. 提携する返品拠点となる実店舗に対しては、集客数を上げることで貢献しています。

Happy Returnsの創業者らは大手小売「Nordstorm」の返品部門に携わった経験があり、返品プロセスの裏側を知っているバックグラウンドに強みがあります。この点についてもアンフェア・アドバンテージが効いていると言えるでしょう。

フィンテック企業であるPayPalもコロナ禍のEC市場の急成長に伴い、さらに同市場へのテコ入れをしたい戦略が垣間見れます。また、ワクチンが普及しはじめた、いわゆる「ポスト・コロナ」の段階へと移行しつつある中、小売市場全体の再興期を見据えて、リアルでの顧客接点を増やすために今回の買収を仕掛けたのかもしれません。

具体的には実店舗とECの両市場を広く手中におさめる対Amazonへの戦略的な対抗意図を感じます。

Amazonは生鮮食品店舗「WholeFoods」買収を通じて、一挙に全米にAmazonマーケットプレイスの商品受け取り・返品する場所を獲得しており、実店舗を軸としたEC体験を充実させる戦略を敷いています。これに伴い、実店舗体験を充実させることが小さなECブランドにも求められるようになりました。PayPalはこうした実店舗接点とECブランドの橋渡しの市場ポジションを狙っているとも考えられます。

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