ICUで医師・看護師を最適配置するAI開発アクイラ、東京・港区でコロナワクチン集中接種を運用支援

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Army Spc. Angel Laureano holds a vial of the COVID-19 vaccine, Walter Reed National Military Medical Center, Bethesda, Md., Dec. 14, 2020. (DoD photo by Lisa Ferdinando)

新型コロナウイルスのワクチン接種も各地で立ち上がりを見せてきた。大規模接種や地域接種の取り組みが大きく貢献し、日本政府が目標に掲げていた1日100万回接種の大台にも載ったようだ。一方で、地方自治体が旗を振る地域接種の多くは高齢者に対する1回目の接種がようやく一巡したところで、労働生産人口や若年層に番が回ってくるのには、まだ少し時間がかかりそう。

円滑なワクチン接種を阻んでいるのは明らかにロジスティクスだ。一つはワクチンそのもののロジスティクス。mRNA ワクチンは超低温保存を求められるため、日常的には準備のないコールドチェーンの整備が必要になる。もう一つは医師や看護師といった医療リソースのロジスティクスだ。医師や看護師も人であるため、彼らのスキルセットや都合に応じた最適な配置が求められる。

接種のキャンセル待ちには、ひたすら空きが出るのを求めて画面をリロードし続けなければいけない(予約システムには負担をかけるが、空きが出たら勝手に予約して知らせてくれる bot を誰かが作っていてもおかしくない)など、いろいろ UI/UX に不満はあるけれど、接種を受ける市民側の予約管理の仕組みは、一応あるにはある。課題は、医療リソース側の最適配置をする仕組みづくりだ。

病院やクリニック以外の場で効率の良い接種体制を作るには、医師や看護師からなる最適なチーム編成が必要になる。非番やフリーランスのドクターを地方自治体の接種会場へ送り出すプラットフォームも活躍しているが、依然として、現場での最適配置には課題が多い。そんな中、東京・港区で実施されるワクチン接種会場で、あるスタートアップの取り組みが現場を支援することになりそうだ。

Image credit: Aquila Systems

そのスタートアップの名前は Aquila Systems(アクイラ・システムズ)。エンジニア兼プログラマの George Radescu 氏が2019年7月に設立したスタートアップで、同じ年には日本財団が運営する起業支援プログラム「ソーシャル・チェンジ・メーカーズ」の第2期に採択されている。

George Radescu 氏

Aquila が提供するのは、マシンラーニングや数学的ナレッジを用いた、AI による病院の ICU 向け業務効率化システムだ。急性期病院向けに設計されていて、手術室の空き状況、設備、患者の情報、専門分野やスキルセットを含む医師や看護師の情報、オペに必要な陣容などを入力しておくと、オペの順番やスケジューリングなど医師や看護師の配置を最適化してくれる。

Radescu 氏は、このシステムが規模の大きな集中接種会場における医師や看護師(そして、今回は歯科医も加わる)の最適配置に活用できると考え提案、東京・港区が会員制ソーシャルクラブ「東京アメリカンクラブ」に開設する接種会場のロジスティクス改善に導入されることが決まった。同所では7月3日から1日あたり1,500人、通算で3万人へのワクチン接種が実施される予定だ。

当社のシステムが便利なのは、インストーレーションが不要な点。管理者はログインする必要があるが、医師や看護師のメールアドレスさえあれば、ユニークな URL を送って、全員のスケジュールを調整し管理ができる。

これまでにもワクチン接種を受ける人をスケジューリングするツールはたくさんあったが、医師や看護師などスタッフのロジスティクスは考えられていなかった。需要(接種を受ける人)と供給(医療リソース)をうまく合わせることが重要だ。(Radescu 氏)

急性期病院の ICU に比べれば、接種会場で考慮されるべき医療上の専門知識やスキルセットはさほど多くない。むしろ、どの時間帯だったら業務に従事できる、どの地域であれば応援に行けるなど、医療従事者の都合を柔軟に反映して業務シフトを組むことができれば、接種会場を増やしたり、接種時間を延長したりすることにも貢献できる。

Radescu 氏は「全国のワクチン接種を終わらせたい。早く街でビールを飲めるようになりたいから。」と笑いながら、ワクチン接種へのシステムの提供はボランティアで行っていると説明した。Aquila の仕組みをワクチン接種のオペレーションに取り入れたい地方自治体や接種会場の運営者などは、要件(会場の条件など)を Aquila に伝えてから10分程度で利用できるようになるそうだ。

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Image credit: Aquila Systems

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