徳島の山里にシリコンバレーを作る「神山まるごと高専」、賛同者が〝先輩〟として応援できるクラファンを開始

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徳島県神山町——典型的な過疎の町、しかも、目立った企業も無い山里の町が地方創生のロールモデルとして注目を集めるようになって、もう10年以上が経つだろうか。Sansan(東証:4443)を筆頭に IT ベンチャー(スタートアップよりも、IT ベンチャーが多かった気がする)がこの地にサテライトオフィスを構えるようになり、ワークライフバランスに富んだ環境を望んだ人たちが根付いて仕事するようになった。

神山町でのサテライトオフィスの先陣を切ったのが Sansan だったのだが、その Sansan の寺田親弘氏が旗を振る形で、神山町をシリコンバレーにすべく高専を作ろうとの構想から、「神山まるごと高専設立準備財団」が発足。初代学校長候補に大蔵峰樹氏(ZOZO テクノロジーズ取締役)、クリエイティブディレクターに山川咲氏(CRAZY WEDDING 創業者)、カリキュラムディレクターに伊藤直樹氏(クリエイティブ集団 PARTY 代表、京都芸術大学教授)を迎えることが明らかになっている。

シリコンバレーの歴史はまさにスタンフォード大学とともにあり、この大学の卒業生からヒューレット・パッカードが生まれ、そこから VC の原点ともいうべき KPCB が生まれている。シリコンバレーが広がるベイエリアは、スタンフォード大学ができる前まで果樹園が広がる農業地帯だったというが、今やこの地域だけでアメリカ、中国、日本、ドイツに次ぐ GDP を稼ぎ出すまでの価値生産の現場と化した。神山まるごと高専は、徳島版シリコンバレーにおけるスタンフォード大学の位置付けになることを目指している。

神山まるごと高専のカリキュラム構想を説明する寺田親弘氏
Image credit: Masaru Ikeda

高専(高等専門学校)という教育システムは、小学・中学・高校・大学というステップで学んだ筆者にとっては疎いのだが、スタートアップコミュニティでも、高専出身の創業者に時々出くわすことがある。歴史を紐解いてみると、当初は「専科大学」と呼ぶつもりだったものが、大人の事情から「大学」の名前が外され「研究」が除外された(事実、英語では college と訳されている)。寺田氏は、神山まるごと高専で「在籍する5年間で、工業系大学と美大と MBA の内容をまとめて学んでもらえるような感じにしたい」と抱負を語った。

神山まるごと高専では、すでに教員の募集なども始めている。文部科学省が認可することが前提にはなるが、2023年4月には1学年あたり40名×5学年、教員数20名(非常勤講師を除く)の規模でスタートする予定だ。開校に当たっての資金のうち18億円を寄附に頼る予定で、これまでアカツキ(東証:3932)、さくらインターネット(東証:3778)、JMDC(東証:4483)、LITALICO(東証:7366)などが法人関係税が最大90%になる企業版ふるさと納税の仕組みを使って寄附を行った。

私立独立系の高専は、日本にはまだ存在しない初めての試み。開校資金は、民間の企業と個人からの寄附で成り立っている。すでに12億円超が集まっているものの、寮の運営費や入学してくる生徒への奨学金などを考えると、まだまだ足りない。(寺田氏)

先輩制度を説明する山川咲氏
Image credit: Masaru Ikeda

Sansan を創業し上場にまで導いた寺田氏は、業を興すという点で広義においては学校を立ち上げることも同じとしながらも、企業では預かった資金を事業を通じて得た利益から投資家に返せるということを説明できるものの、学校運営においては寄附に対して目に見える形でのリターンを提示できるわけではないため、資金を募る上での今までとは違った感覚を吐露していた。神山まるごと高専の開校に向けた資金は個人からも募る方針で、その場として今回 Makuake でのプロジェクトが開催されることとなった。

クラウドファンディングをしたかったというよりは、もっと多くの人とオープンにやっていきいたかった。大蔵さん(初代学校長候補)と話をしていて、初年度に15歳とかで入学してくる1年生には先輩(上の学年の生徒)が全くいない。この子達にとって、先輩の存在は非常に大きい。先輩が居ないなら、全国から先輩を集めようというコンセプトに行き着いた。(山川氏)

個人からの寄附においては、一律3万円の先輩コース(大学生は学割3,000円)と、5,000円〜300万円の純粋応援コースがある。リワードの内容詳細はプロジェクトのページに委ねるとして、特に先輩になることを前提とした先輩コースについては、最大でも上限が1000人までに設定されている。「顔の見える形で先輩に関わってもらうこと(寺田氏)」、あるいは、「開校したら実際に何度かは現地に足を運んで生徒と交流を持ってもらうこと(山川氏)」を考え、現実的な解として、この人数に落ち着いたという。

マクアケ(東証:4479)の共同創業者で取締役の坊垣佳奈氏によれば、マクアケとしても、神山まるごと高専が描くビジョンに深く共鳴する部分があり、今回のプロジェクトで集まった応援購入総額の3%相当額を、マクアケが追加で寄附する対応を取ることも明らかにした。当該プロジェクトの応援購入は本日11時30分から開始され、それから6時間が経過した17時30分現在、募集目標額3,000万円の3分の1を上回る金額がすでに集まっている。募集は8月29日までだが、このまま行けば、1週間を待たずに目標額に達しそうな勢いだ。

左から:寺田親弘氏(Sansan 創業者兼代表取締役社長)、山川咲氏(Crazy Wedding 創業者)、坊垣佳奈氏(マクアケの共同創業者兼取締役)
Image credit: Masaru Ikeda

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