ナラティブなスタートアップたち:10Xの福利厚生とダイバーシティへの取り組み(2/2)

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10Xは小売・流通のデジタル化を推進する

ナラティブなスタートアップたちはスタートアップPRのケーススタディを伝えるシリーズです。毎週金曜日の公開取材の内容を会員向けCanvasにまとめていきます。スタートアップの広報・PRに関わる方で話題をお持ちの方はこちらのDiscordにご参加ください

前回からのつづき

前半ではスタートアップにおけるナラティブについて軽く触れてみました。ナラティブなスタートアップには語りたくなる、応援したくなる、そういう要素が備わっています。社会を変えようという存在意義(パーパス)が明確で、ソリューション・テクノロジーがそこに融合しており、かつ、ステークホルダーたちをエンパワメントする力に溢れている、そんな企業です。

最初に取り上げるのは、小売や流通事業のデジタル化を支援する10Xです。スーパーマーケットのコマース事業の裏側を支えるソリューション「Stailer」を展開している同社ですが、2017年の創業ながら福利厚生の取り組み「10X Benefits」を6月7日にプレス発表しています。

彼らがエンパワメントするステークホルダーは「一緒に働く人たち」です。病気や出産、育児、介護といったライフイベントに対する生活への負担や不安を取り除くことが目的で、例えば出産前後の休暇や支援金の支給、認可外保育園を利用する際の差額支援や子供の病児保育における特別有給の付与などを福利厚生として定めています。もちろん、大手企業であればこういった福利厚生制度は完備されているケースもありますが、創業からわずかの企業がここに大きな負荷をかける事例はまだまだ少ないです。

また、このような福利厚生という社内向けの制度設計をプレスリリースとして外に伝える、という行動も判断が分かれる部分かもしれません。公式発表した以上、継続しなければならないという怖さもありますし、メッセージを誤るとフリーライドしたい人がやってくる可能性もあるわけです。この辺りの疑問について、同社でPR活動などを手がける中澤理香さんにお話を聞きました。

同じ価値観を持つ人たちへの共感

6月7日にプレス発表された福利厚生制度

10Xはこの福利厚生の制度設計をする前から子育てと仕事の両立、環境整備について積極的に考える雰囲気があったそうです。制度として発表する前から育休取得は進んでいて、現在も28名ほどいる社員のうち、3名の男性社員が6カ月の育休を取得中というお話でした。約半数が子育て世代ということもあって、リモートワークの活用など働きやすい環境整備に力をいれているそうです。なお今回プレス発表したタイミングは政府から男性の育児休暇取得を促進するための「改正育児・介護休業法」が成立した月でもあり、世の中の足並みと揃えているのもひとつ広報・PR的な視点では注目すべきポイントです。

同社がプレスとして公式発表した背景のひとつに「共感」があります。

中澤さんは以前、メルカリPRチームの立ち上げに参加した経験をお持ちなのですが、最初に取り組んだ施策が「Mercibox」という、やはり同じく福利厚生の制度設計でした。私も当時、取材する側として創業からわずかの企業が、ここに力を入れるのだと驚きをもって取り上げたのを記憶しています。けど、企業の力の源泉は当然ながら人であり、それを大切にしない企業が成長するわけがありません。メルカリは早い段階からそのことを理解し、メッセージを制度設計や行動規範として積極的に外部に伝えることにしていたのです。

もちろんこれだけではないのですが、創業メンバー含め日々のコミュニケーションから「社員を大切にするメルカリ」という認知が生まれ、ひとつのコーポレートブランドとして確立していったように思います。こういった価値観(カルチャー)は共感を生み、参加したいと思う人たちに伝わります。逆に言えばこの価値観を理解できない人には自然とフィルタがかかるようになるので、説明するコストは自ずから下がっていきます。

10X Diversity &  Inclusion Policy

10Xに話を戻します。同社はこれに先立ってダイバーシティとインクルージョンについての考え方「10X Diversity &  Inclusion Policy」も表明しています。ここにも「ダイバーシティは競争力の源泉」とあるように、PRと事業・コーポレートに一貫性があることが分かります。単にSDGs的なトレンドで発表しているものではありません。

コーポレート・カルチャーがスタートアップにとって重要であると言われて久しいですが、こういった制度やメッセージをひとつずつ経営陣がリードして作り、矛盾なく形にして外に公表することで積み上がっていくものなのだと思います。人を採用するための戦略と言えばそうかもしれませんが、本当に共感してもらえるかどうかは受け手次第です。そこには企業の目的(ミッションやビジョン・パーパス)とソリューション、そしてこれらのメッセージがひとつ綺麗に連動していなければなかなか共感は生まれないように思います。

公表する覚悟が生みだす共感を感じたプレスでした。次回もナラティブなスタートアップの事例をご紹介していきたいと思います。