ソニー・ミュージックエンタテインメントがスタートアップと取り組む、新たなファンビジネスの創出

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。

本稿では、今年度の「∞の翼」に参加いただくパートナーの一つソニー・ミュージックエンタテインメントさま(以降、SME)にお話を伺いました。採択されたスタートアップ、SME、KDDI の3社により、新たなコンテンツマーケティング手法を創出し、データを活用した新たなファンビジネスの創出を目指します。

変化を続けるエンタメ業界、その先陣を走り続けるSME

SMEの前身であるCBS・ソニーが設立されたのは半世紀以上前のことです。日本のソニーとアメリカのCBSとのジョイントベンチャーとしてスタートしました。当時の流通媒体であるレコード盤のプレスや販売だけでなく、アーティストの発掘やマネジメントを行うプロダクション機能を社内に有していたことは、人気のある楽曲やコンテンツを生み出し続ける今日のSMEに繋がっています。一方、エンターテイメントは、変化の激しい業界でもあります。SMEはこれまでに他社と合弁企業を設立したり、新事業に特化した会社を設立しグループを再編したりするなど、時代に呼応して自らの形を変えてきました。

モバイルデータプランの低廉化や聴取デバイスの普及により、5年くらい前を岐路に、音楽の消費方法は一気にダウンロード型からストリーミング型へと変化してきました。依然として消費の半数以上はCDが占めているものの、ストリーミングのシェアは近年存在感を増しています。しかし、ここで憂慮すべきは音楽市場全体が縮小傾向にあることです。我々は以前に比べて可処分時間の多くを音楽消費に回せるようになり、市場規模は拡大しているのではないかと誤解しがちですが、日本レコード協会が発表している統計資料によると、ここ数年は前年比85%程度の割合でダウントレンドにあります。

従来の経営資源だけに頼らない新ビジネスの創造を目指して、SMEは数年前から、ベンチャーキャピタルへの出資などを通じてスタートアップへの関与を深めてきました。2018年、社会課題解決を目指すアクセラレータプログラム「ENTX(エンタエックス)」を立ち上げ、また、2020年にはアメリカの有名アクセラレータTechStarsが運営する音楽系アクセラレータプログラム「TechStars Music」に参加するなど、社外の知見も活用すべくスタートアップとの協業や投資活動を強化してきました。「∞の翼」では、SMEが持つ経営資源の一つマーケティングデータを活用、新たな柱に育つ可能性のあるファンビジネスのMVP共創を目指します。

マーケティングテクノロジーで、新しいファンビジネスを生み出したい

SMEは、エンターテイメントのコンテンツホルダーというだけでなく、マーケティングデータの宝庫でもあります。アーティスト発掘の「Puzzle Project」、SNSを中心に活動するクリエイターを支援するレーベル「Be」, クリエイターのコラボレーションスペース「MECRE(メクル)」、そして、小説を音楽にするユニット「YOASOBI」を生み出した 「monogatary.com」など、コンテンツを消費者に届ける上でさまざまなタッチポイントを模索しており、その結果として得られるのがマーケティングデータです。

21年春に再編されたソニー・ミュージックマーケティングユナイテッドは、エンタメ作品やサービスのパッケージ商品およびデジタルコンテンツの企画・販売、アーティストを中心としたプロモーション活動を行なうマーケティング会社です。営業推進活動、プロモーション活動、イベントの企画・制作、マーチャンダイジング、サイト制作・運営といったプロモーション業務のほか、データ分析を駆使して効果的なマーケティング手法の提案も行います。アーティストやコンテンツ毎に、DSPやSNS各社から得られるデータを収集・可視化・分析ツールを独自開発していますが、消費者をグループ内の別ドメインへ誘導できる施策立案に向け、スタートアップとの共創に賭けたいとの意気込みを持っています。

デジタルというのはわかりやすい視点ですが、我々がビジネスをしていく上で、デジタルだけに特化していくということはありません。テーマとして、データをどうビジネスに活かしていくか、というのが、共創するスタートアップに求めたい一つの視点です。

ただ、アウトプットはデジタルに限らなくてもいいし、そこのこだわりは全くありません。事業化を念頭には置くものの、最初からマネタイズポイントを設定するという考えも無いです。(北山氏)

SMEの傘下には、日本やアジアの各地で展開するライブハウス「Zepp」、ライブそのものを企画・運営する興行会社や、アーティストのパフォーマンスを支援する事業会社までも多数存在します。現在、コロナ禍でリアルな環境でのイベント開催には一定の制約を伴いますが、アフターコロナを見据えた新たなファンビジネスの開発には、SMEが持つこうしたリアルな事業アセットの活用も視野に入れることができるでしょう。

データの宝庫だからできる、オープンイノベーションのカタチ

AIやMarTech(Marketing Tech)スタートアップを経営する起業家の口からよく聞くのは、「データが集まるところに優秀なデータサイエンティストが集まる」という鉄則です。データを事業に活かすには、データを集め、それらを分析し、それを施策に反映する、というプロセスが必要になります。今年度のプログラムで最終的に採択されるのは一社が想定されていますが、得意分野毎の役割分担が必要な場合は、複数のスタートアップが採択され連携してプログラムに関わる可能性もあります。

SMEが抱えている課題をズバリ解決していくことを念頭に置いたプログラムと言えます。そのためには、「我々のアセットを最大限活用してください」とか、逆に「全く活用しないでください」というつもりもありません。いろんなデータを集めることはこれまでにもできている。僕らが目指すのはその先で、そこからどんなビジネスができるのかを共に考えていきたい。(古澤氏)

このプロジェクトを進める上で、SMEと採択されたスタートアップは共に NDAを交わした上で、SMEからデータの提供を受けることができます。共有できないデータもいくつか存在するようですが、アーティストやコンテンツ毎の再生回数、流入経路、ユーザの特性が匿名化された状態でのデモグラフィックデータなど、SMEからは必要に応じてデータが開示される予定です。

データの数や種類は、社内にも非常に多く蓄積されています。もちろん、社内でも分析はできているのですが、それらを元に世の中に働きかけていく上で最適化すべき点を、スタートアップと共に、AIやアルゴリズムなどを使った新しい手法で探れないかというのが今回の主旨です。SMEにとっても、KDDIにとっても、スタートアップにとっても有益になるようなら、そこからビジネスを目指せる可能性があると思っています。(野澤氏)

言うまでもなく、これはオープンイノベーションの一つの形です。プログラムを通じて、SME自身がDX(デジタルトランスフォーメーション)することも念頭に置いています。北山氏は参加するスタートアップとの関係は受発注ではなく、あくまでパートナーとして対等な関係で臨みたいとの意向を強調しました。必要になるコストは必要に応じて SMEが拠出を検討しますが、共創の中で生まれた成果物については、関わったSME、KDDI、スタートアップでイーブンな関係で交渉することを前提にしているそうです。

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