無人コンビニから「ストア」へーー600が仕掛ける次の一手は「自販機物流デジタル化」:ナラティブなスタートアップたち

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無人コンビニからストアへ、拡張する600のバリエーション

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国内のコンビニ市場はおおよそ11兆円(2019年度・日本フランチャイズチェーン協会調べ)、セブンイレブン(約5兆円※)ファミリーマート(約2.9兆円※)ローソン(約2.3兆円※)の上位3社が9割を占めており、都内であれば街中を数十メートル歩けばこのどれか、もしくは全店舗が揃い踏みするという飽和状態の市場です。実際、店舗数は6万店を目前に2018年から19年あたりで頭打ち・横ばいになっており、また、昨今の労働力不足から24時間営業が問題になるなど課題も浮き彫りになっています。一方、各社がプライベートブランドに力を入れ、客単価自体は上昇傾向にあるようです。※それぞれ2020年2月期決算

このマーケットに対して、「徒歩1分以内の10兆円市場」創造を目指し、無人コンビニというソリューションを掲げてスタートアップしたのが600でした。創業者の久保渓さんは米国でインフラ事業をスタートアップさせ、2013年に創業した2社目のウェブペイをLINEに売却したシリアルアントレプレナーです。2017年に現在の600を創業し、現在はオフィス向け無人コンビニの600、マンション向けに「Store600」、そして自動販売機向けの訪問最適化システム「Vending Hero」を運営しています。

無人「コンビニ」から「ストア」への拡大

彼らが創業した2017年前後はAmazon GOを筆頭に、無人コンビニが世界的にも話題になっていた年でした。ただ、この巨大な大手寡占市場にスタートアップ単体で殴り込むのはなかなか骨が折れる仕事だったようです。例えば無人コンビニの場合、お弁当や惣菜といった日配品というジャンルがあります。賞味期限があるため補充や廃棄の問題があり、無人コンビニと言えどもここの流通については独自のサプライチェーンを構築しなければなりません。600も物流センターを自社で構築しこの体制を整えています。

久保さんはこの日配品がデイリーで3万円を超えると100万台の自販機設置で10兆円という規模感が見えてくる、という考え方を持っていたようです。コンビニの店舗数が現在6万店舗手前、自動販売機の設置台数が230万台(飲料総研)なので、ちょうどその間を狙ったような試算です。

実際、今、デイリーの売上で1万円を超える場所が出てきているそうなので、ここについては見通しの兆しが見えてきていますが、やはり品揃えという点では例えばアルコール類の扱いがまだできていないなど、コンビニ大手と肩を並べるにはもう少し時間がかかりそうです。

そこで打った手がコンビニではなくストアへの認知変化でした。

今、コロナ禍にあって600にはマンションからの引き合いが多くあるそうです。共用施設をワークスペースに転換したいが飲み物やちょっとした文房具などをおいておきたい、というリクエストです。ここで600では従来のコンビニタイプではなく、ストアという新しいコンセプトの無人販売機「Store600」を設置します。

商品はどこでも買えるものだけでなく、例えばBASEに出店しているセレクトショップなどと協力し、ここでしか買えないブランドを揃えました。什器自体もデザインされたものに変更して全体としてブランド価値を高める戦略に変更したのです。

このストアでは商品だけでなくワークスペースの利用券などのサービスも販売することで、場所づくりに必要なハブ的役割を担うことに成功しているというお話でした。

自社のノウハウをビジネス向けに展開した「Vending Hero」

コンビニからストアへのブランド認知変化を実施し、コンビニと競合させない方法で販売経路を拡大しつつある一方、彼らのビジョンである「徒歩1分圏内10兆円市場」を作るには、やはり巨大市場であるコンビニマーケットへの挑戦は必要不可欠です。

ただ、100万台のサプライチェーンを今から気合と根性で構築することはほぼ不可能です。そこで彼らが取り組んだのがテクノロジーでした。しかも市場はコンビニとはやや異なる、自動販売機のマーケットにフォーカスしました。

国内の自動販売機はピークだった2013年の250万台目前から右肩下りの状態で、2019年時点で230万台(飲料総研)という試算が出ています。清涼飲料水の市場全体で19億ケースが出荷されており、その内の約25%の5億ケースがこの自動販売機を通じて販売されています。こちらもコンビニ同様とまではいきませんが、トップ3社のコカコーラ(4.8億ケース・自販機は77万台)サントリー食品(4.2億ケース、同40万台)アサヒ飲料(2.6億ケース・同28万台)が市場の過半数を握っている状況です。

ここでの課題は業務効率化です。

久保さんによるとこの230万台の自動販売機の内、デジタル化されているのは25%ほどで、それ以外の自販機は売り上げたデータを伝票などのアナログ出力で集計するという作業をやっているそうです。

一方、600には独自のサプライチェーンを管理するためのノウハウとシステムがあります。特に自動販売機にはどの自販機にどの商品を持っていくのかという「訪問計画」という業界特有のプロセスがあり、各社それぞれが独自にシステムに取り組んでいます。

ここに600が持っている技術力で独自のAIアルゴリズムを開発し、提供しようとしたのです。結果、彼らは10万台の契約を勝ち取り、契約先を非公開のままプレスリリースとして発表しました。

契約の詳細は明かしてもらえませんでしたが10万台の契約ですから、市場プレーヤーでトップに名を連ねるどこかの企業であることは間違いなさそうです。自社で開発したデジタル化のソリューションを他社に展開する手法はLayer Xが先行しています。ポイントは自分たちが資本を投じて実際の事業としてのオペレーションを作り、そこから生まれたソリューションからサービスを生み出している点です。

久保さんはこのようにコメントしてくれました。

「Vending Heroのほうは3月にサービスリリースしたのですが、これは1年くらい前に自社運営している無人ストアのオペレーション効率を改善するプロジェクトが元になっています。半額くらいまでコスト削減できた実績があって、これを汎用的にしてソリューション化しようと頑張って1年がかりくらいで立ち上げたので結構下準備が長期間あったサービスになってます。

今回のリリースで特にPoCで僕らが展開している無人ストア特有の効率改善だけではなくて、汎用的な自販機オペレーションの改善でしっかり実績だせたのはとても自信に繋がりまして、今回の大型契約もそうですけど、労働問題とか人手不足とか、色んな課題を業界全体で抱えているので、その業界変革に飲料メーカーさんや自販機オペレーター会社さんと一緒に取り組んでいきたいなと思っています」。

こういった「リスクをとって汗をかいた」バックグラウンドは聞く側・伝える側にも大きく共感できる部分ではないでしょうか。また、労働人口減少という社会課題への取り組み姿勢や10万契約というインパクトのある数字もメッセージを伝える上で重要でした。

現在、DXというワードとコロナ禍の環境変化で一気に産業デジタル化がバズワード化しつつあります。しかし、その中で本当に伝えられるのはこのような実体験を伴った事例だけなのかもしれません。

ナラティブなスタートアップたちでは、引き続き、共感を生み出すスタートアップのPRケーススタディをお伝えしていきます。