安価で高品質なAIカメラ開発に若手が挑むーIdeinとKDDIの新たな挑戦とは

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。

Idein は2015年、当時、東京大学大学院情報理工学系研究科に在籍していた中村晃一さんが創業。「実世界のあらゆる情報をソフトウェアで扱えるようにする」をミッションに、「Actcast(アクトキャスト)」というエッジコンピューティングのための開発者向けPaaS(Platform as a Service)を提供しています。エッジコンピューティングとは、クラウド側ではなく検出デバイス側で高度なAI 解析を可能にする仕組みで、Actcast ではエッジコンピューティングによるIoT システムが安価に構築できます。

エッジコンピューティングやIoT といった分野は通信との親和性は高く、特に通信サービスだけにとどまらない総合ソリューションの提供が求められるキャリアにとっては、理想的なパートナーです。検出したり撮影したりしたデータのプライバシーへの配慮、ランニングコストの削減が求められるようになる中で、安価で汎用的なデバイスでIoTからAI までを動かすことができるIdein の技術には期待が高まっています。

KDDI では2021年6月、カメラで撮影した映像データをカメラ内でAI 解析し、必要な情報だけを収集することが可能なKDDI IoTクラウドStandard「エッジAI カメラパッケージ」の提供を始めました。このパッケージでは、通信、クラウド、サーバ、専用カメラなどが包括的に提供され、顧客が現地に設置する専用カメラを使ったSIM 内蔵の解析サーバのシステムは、Idein のActcast をベースに開発されています。

KDDI とIdein が組むことになった背景や、両社が共に目指す事業の今後について、KDDI 5G・IoT サービス企画部パートナービジネスグループの雨夜将吾さんと、Idein 事業開発/マーケティングの大古力也さんに話を伺いました。

「エッジ AI カメラパッケージ」が生まれたきっかけ

雨夜さんはKDDI で法人向けの IoT サービス企画を担当していますが、ユーザ企業や社内の営業、SEから「 AI カメラを提案できないか?」 という問い合わせをいただく機会が増えていました。確かに、これまで人が目で判断していたデータを定量的に集めることができれば、コスト削減や業務効率化という観点でのはメリットは大きい。しかし、AI カメラと言っても、デバイス、デバイスの中で動かす AI、通信機器など考慮すべきことが多く、高価になることに課題を感じていました。

「汎用 GPU で AI を動かせる」技術を持つ Idein 様を紹介してもらったときには、その技術に驚いたというのと、デモを見るまでは半信半疑だった、というのが正直な感想ですね。Idein 様の例えを借りるなら「ガラケーで4K映像を流すことができる」という凄さですね。高級品と思われていたソリューションを簡単に導入できると感じました。(KDDI 雨夜さん)

一方、Idein にとっても通信キャリアである KDDI から声がかかったのは〝渡に舟〟でした。Idein の最強かつ象徴する技術である汎用的な低価格デバイスで AI を動かせる技術ですが、動作をさせるのにはネットワーク環境が必須条件である他、これまでは有線や無線のインターネット環境が存在するシーンでの利用が多くを占めていました。SIM 内蔵型のどこでもネットワークに繋がるデバイスを開発することは、利用形態やリーチ可能な市場を拡げる意味で Idein にとって悲願だったとも言えます。

例えば河川の近く、工場の内部、公道などインターネット環境が無いところでの提案に課題を感じていました。KDDI 様からご相談があったのがネットワーク一体型のAIカメラパッケージで、KDDI 様の持つ 4G 回線のアセットと弊社の技術を掛け合わせたらすごいものが世に出せるぞという思いからスタートしました。(Idein 大古さん)

エッジAIカメラ設置例
エッジAIカメラパッケージで利用できる4つのAIモデル

AIスタートアップとキャリアとのタッグ、デバイスパートナーもサポート

雨夜さんによれば、Idein を紹介されたのは KDDI ∞ Laboを運営するビジネスインキュベーション推進部からだったそうです。KDDI ではこれまでにも、センサーメーカーと連携し、KDDI が回線とクラウドを提供する協業はしてきました。しかし、Idein は解析サーバの上で動く AI を含むソフトウェアを提供する企業。別途、ハードウェアや通信機器をデバイスパートナーと設計しながら進める必要が生じました。ただ、スクラッチから設計したため、両社はこのソリューションに最適化されたハードウェアを生み出せたとも言えます。

ハードウェアや通信の部分。地味に、ここはかなりリリース直前までやっていた部分で、3D の設計図を Idein 様とデバイスパートナーさんと私でリモート会議をしてメーカーの設計のようなこともさせていただきました。

周りからすると何の会議をしてるんだ?と思われていたと思います。ねじ穴はこっちのほうがいいんじゃないか? 電源はここからとるのか? 通信部分はどうする? SIMはどこに入れる? など、等一個一個、検討の場に入らせていただきました。(KDDI 雨夜さん)

汎用的なソフトウェアを出すことによって、あらゆる既製ハードウェアで動作することを売りにしてきた Idein にとっても、ハードウェア設計にも携わる形で、通信キャリアに最適な仕組みを生み出す過程は初めての経験でした。

形や大きさ、コンセプトに合うデザインはどのようなものか。試行錯誤を繰り返しながら、web 会議で3D設計図を皆様で見ながら議論をしていたことを思い出します。

配線はどうするのか、デバイスの位置はどうするのかなど、リリース直前までデザインの変更や細部の調整を行っておりましたので、完成度としてはかなり高い自信はあります。(Idein 大古さん)

エッジAIカメラの接続構成
エッジAIカメラにて分析中の様子

「エッジ AI カメラパッケージ」で生まれた新たな商機

「エッジ AI カメラパッケージ」では、カメラ付近にいる人の性別、年代、人数等のデータの収集が可能になります。小売業では購買データには残らない来店者の統計的なデータ、シェアオフィスでは実際に各拠点の利用ピーク帯等も一括で収集できます。コロナ禍で人々が顔をマスクで覆うようになり AI にとっても性別や年代の判別が難しくなりましたが、Idein は通信を経由して AI をアップデートすることで、このような課題もクリアしています。モバイルネットワークと繋がったことで利用シーンも増えました。

発表と同時に社内外の色々なつながりやご縁でJR 東日本様との空間自在プロジェクトでもこの AI カメラを活用いただいたり、サービスリリースと同時に電気通信大学様との AI カメラを用いた実証の取り組みを始めさせていただいたり、さまざまな引き合いをいただいています。当初私が想像していなかったユースケースでの AI カメラの提案もさせていただいています。(KDDI 雨夜さん)

スタートアップである Idein にとってもまた、通信キャリア大手 KDDI と新製品を開発し、それが広く認知されたことで既存ビジネスにもその好影響が還元されているようです。

KDDI様がプレスリリースを出してくださったので反響もありお問い合わせをいただく機会が増えたことと、0からモノを作るという知見が社内にも貯まったと実感しています。KDDI 様の 4G 回線を使えるため弊社の課題を完全にクリアした製品になっているので、今まで手を出せなかった案件にも今後は弊社からも積極的に販売をしていきたいと考えています。(Idein 大古さん)

両社では今後、実際にソリューションを活用しているユーザからの声に耳を傾け、彼らの課題やビジネスにどう寄与できるかの事例を増やしていきたいといいます。ユースケースの拡大に伴って、現在のパッケージだけでは解決できないケースも増える可能性があり、今後さらに、両社間でフィードバックを重ねながら、アルゴリズム、ソフトウェア、ハードウェアの改良に取り組んでいくとのことでした。

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