オールインでも届かなかった世界戦/Thirdverse 國光×本間対談(1/3)

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写真左から:國光宏尚氏と本間真彦氏

8年前、私はある起業家と投資家の対談を収録させてもらった。シード期における両者の関係は興味深く、単なる出資者と事業執行者「以上」の関わりが生まれるのではと考えたからだ。

そしてそれは実際にそうだった。ーーその二人、國光宏尚氏と本間真彦氏は創業から倒産の危機、ヒット作、そして念願だった株式公開までの時間を共にすることになった。8年前の対談で二人がずっと口にしていた言葉がある。世界戦だ。あの時の二人はオールインを何度も繰り返せば必ず勝てる、絶対に勝ちきると語っていた。

しかし現実は厳しかったようだ。

そして今、彼らはまた新しいスタートラインに立とうとしている。今日、本誌でもお伝えした通り、國光宏尚氏は創業したgumiを後に、新たにThirdverseの代表として次の世界戦に向かうことを公表した。パートナーは8年前、世界制覇を約束したインキュベイト・ファンドの本間氏だ。

新たな船出の詳細はこちらの記事に譲るとして、本稿では8年ぶりの対談を3回に渡りお送りしたい。オールインを繰り返した結果、何が起こり、何が足りなかったのか。

二人はまず、8年前の振り返りから話を始めた。

全部注ぎ込んだけど届かなかった世界戦

平野:今日はスペシャル対談です。テーマは「オールイン3回やったら世界に届いたのか?」ですね。前回記事はこちらです。上場の直前ですね。

國光:ようやくネイティブシフトが多少できてきて、こっから世界を獲るぜっていうので、調子がよかったタイミングやね。

平野:ものすっごい滑舌よかったです(笑。

本間:夢があったよね、あの頃。

國光:でもオールインはこれで終わると思ってたんだろうね、8年前の彼は・・・。この後で東証一部に直接行くっていうね。

平野:マザーズ選択が多い中、東証一部への上場は衝撃的でした。

本間:当時のネイティブゲームは、そのくらいの気概を持てる状況ではあったと思います。結果はああなってしまったけれど、チャレンジとしてはよかったと思いますよ。

平野:一部に行くと國光さんから聞いたときの心境は?

本間:当時直接その話はしていないんだけども、株主も納得しないといけないわけなんで、皆そのシナリオに乗ったっていうことだと思うんですよね。

平野:で、オールイン3回やって世界に届いたんですか?

國光:世界に届いたかって話になると、あの頃はピュアにオールインを3回やったら世界に届くかなって思ってたよ。僕が退任するに当たってgumiの管理部が創業から過去の歴史をまとめてくれてたんだけど、5回つぶれかけてたね。資金ショートが5回くらい。そういう意味で、あの頃の僕たちはまぁまぁ若かった(笑。

本間:そんなに若くもない(笑。

國光:8年前の自分に贈る言葉があるとすると「宣言通りがっつりとオールインを繰り返しました」と。「とはいえ、まったく世界には届かなかったです」と。ただ、僕も山田進太郎(メルカリ創業者)も幸せな家庭を持てた(笑。これが「8年前の君へ」という手紙です。

・・ただ実際はやっぱり届かなかったね。

平野:國光さんはどういう基準で「世界」を考えてます?

國光:理想でいくと、時価総額で世界一位が分かりやすいけど。少なくともZyngaは世界一になったと思うの。「世界行ったな」って感じってあるじゃない?少なくとも、自分らが作ったサービスとか自分らが作ったなんたらっていうのを、世界の多くの人が知ってる。FlickrとかDeliciousって買収金額で話したら小さいけど、でもあれは届いているよね?

平野:確かに。

國光:そういう感じ。世界の中でみんなが知ってるような会社だったり、サービスを作れるっていうイメージかな。

平野:本間さん的にはどうですか?

本間:投資家的にはもっと冷徹にみるとまさに時価総額で比べられるか。この8年で、僕らのファンドだけでもサイズが当時の10倍くらいになってます。ただ、GAFAとかのテックジャイアント企業の伸びがそれ以上に大きいから、よくVCの投資額が日米で40倍、50倍違うよねって言われるけど、当然作られている時価総額もトップ同士だと40倍、50倍違ってて、そこは比較的差がつきやすい状況になっているというのもある。

國光:8年前に名前出してた孫(正義)さんもそうやし、イーロン・マスクもジャック・ドーシーも、追いつくどころかビックリするほど差が開いちゃって・・・やばいよねぇ。

ポニーになったユニコーン

本間:2021年の半年間で、アメリカのユニコーンがどれだけ生まれてるか知ってます?250社ですよ。

2年前って、1年間で60とか70だったんだよ。だからこの2年でも、まぁユニコーン生成合戦じゃないとしても5、6倍になってるんだよね、このペースで行くと。動くスピードが物理的に、特に資金面ではもっと早すぎて、それを吸収できるようなGAFA予備軍みたいな会社が、SaaSも含めてバンバン金を使って成長していっちゃう。

國光:ユニコーンって伝説の生き物やったのに、その辺のポニーみたいになってる(笑。

平野:今の時点で900社以上です。ユニコーンが。

本間:だからアメリカの一部では、1,000億円(10億ドル)なんかそれこそポニーだから、5,000億円(50億ドル)くらいからをユニコーンと呼んだほうがいいんじゃないかって議論があるんだって。

これもVC起業家の間の議論でよくあるんだけど、最近確かにVCのエコシステムはすごくよくなってきてる。この頃よりも、ましてや國光さんが創業した頃に比べて100倍ぐらい環境がいいと思うんだけど、海外の機関投資家が日本に投資してるケースもあるし、資金調達のラウンドのサイズも上がってる。

でも本質的に議論が行き着いちゃっているところは、北米のVCやスタートアップが期待できる時価総額のアップサイドが結局、AppleやGoogle、Facebook、Microsoftって見れば、スタートアップから押し上げる時価総額のサイズも、一応届くかどうかは別として、ここまでは上がれるよねっていうところで、時価総額自体がもうすごく高くなってる。

國光:Appleが200兆円とか?日本でいうたらソフトバンクグループで11〜12兆円。その下で行くと、Zホールディングスで4〜5兆円。楽天が2兆円でメルカリが1兆円弱。

本間:東南アジアのSea(Garena)とかでも、(時価総額が)16兆円あるんだよね。

國光:Seaで16 兆円!?まじで?

本間:そうだよ。だから・・・何がおかしいんだろうね。

國光:シンプルにグローバルで勝てるか。

本間:時価総額の中で、グロースっていうところの評価が非常に高い。実績の評価とグロースの評価があったときに、グロースのウエイトが非常に高くなっているってことなんだと思う。

敗戦で内向きになった国内

平野:國光さんは最初からグローバルに行くのか、日本の市場から攻めるのかどういう風に考えてますか。

國光:たぶん同時にやらなくちゃいけないと思ってて、Thirdverseは東京に40人、海外拠点が合計で30人って感じやから、基本、日本で勝ってから世界で挑戦というのでは絶対遅いし、とはいえ、いきなり全部海外でいくのもって部分もあるから、結局は同時にやってくしかないと思う。

結局日本と海外の絶望的に開いた差の一番の原因って、やっぱりグローバルで日本の会社が全く勝てなかった。ゲーム業界ってね、グリーもDeNAも我々も、みんな凄まじくチャレンジしたけど一回討ち死にしてるのよね・・・。結果、グローバルを攻めない方がいいという空気感に。。。

本間:攻めた結果、一旦みな内向きになっちゃった気がする。

國光:その「内向き」が行ききった結果がB2B SaaS系のビジネスだけに起業家もVCも集中している現状があるじゃない。日本の時価総額が低いのも世界で勝った、世界で成功したという例がないから。

本間:すごい変化があるのは、BTSとピッコマ。韓国の会社のエンタメの会社の方が時価総額が高くなってきている。確かに韓国で成功して日本に来てアメリカに行けたっていうのが今までつながらなかったんだよね。

ここは日本のテック側もちょっと学ぶことがありそうというか、こんなことは、一朝一夕にはできないし、韓国のスタートアップも相当討ち死にしてると思うんだけど、(BTSとピッコマという)事例ができたことによる自信はけっこうあるんじゃないかな。

國光:野球でもサッカーでもそうだし、韓流とかもそうやろうけど、1コ成功が出れば、こうやりゃいいのかって感じで後が続いてくるから。

投資家としての顔

平野:ファンド(VR Fundとgumi Cryptos)はすごくいいパフォーマンスを発揮してるわけじゃないですか。グローバルに通用する成功事例としてVRとブロックチェーンに投資したことはどう評価してます?

國光:本当に大きな成功をしようと思うと、パラダイムが変わるタイミングにそこにいなきゃダメだと思うのね。僕らが起業した2007年は、ずっと言い続けてるんだけどすさまじく大きな年で、2007年にiPhoneが出て、そっからTwitterやFacebookが伸びてAWSが出た。スマホ・ソーシャル・クラウドっていう、それ以降の10数年間を牽引するパラダイムが生まれたのが2007年だったと思うの。

GAFAMの時価総額を見ても、すさまじく伸び始めたのは2010年くらいからなんだよね。スマホ・ソーシャル・クラウドの戦いに日本勢がボロ負けした。次の大きな波というと、デバイスは当然VR/AR。データはソーシャルからブロックチェーンになってくる。データをどう活用するかは、クラウドからAIになる。ここから次の10数年間の大きなウェーブは間違いなくXR、ブロックチェーン、AIだと思うからそこに全振していきたい。

平野:本間さん、投資家としての國光さんはいかがですか。

本間:國光さんはテーマを決めるのはけっこう投資家っぽい。起業家なんだけどなんか変なマクロの事業テーマを設定するところがもうVC(笑。仮説は当たってるところがありますよね。次に大きく世の中が動くのはここじゃないの、みたいな。

大局を見るところは得意かなと思う。どう実装するがを時間軸を考えて作っていくのは起業家だけど、投資家は張っていけばいいわけだから。そういう意味では実際これだけ当たってるわけだからいいんじゃないですかね。

平野:國光さんってちょっと早すぎ・・・(以下略

本間:だから投資家っぽいんですよ(笑。起業家はもうちょっと参入のタイミングを読むと思う。

國光:僕は気づいたんですよ。タイミングとかは重要じゃない。

成功するためには。たとえばそのタイミングって、遅すぎても早すぎても厳しいじゃないですか。っていうのでいくと、やっぱり一番いいのは勝つまでやる。要するに遅すぎるより早すぎる方がよくて、早く始めてくるまでやる。これが必勝法(笑。

だからVRも2015年から始めて16、17、18、19、20年と6年連続VR元年が続きそして7年目にしてついにVR2年目に突入した。6年間の助走期間はラッキーと考える。

本間:僕はそれ、ずっと見てるからね(笑。

國光:まあ、流石に6年連続VR元年は長かったけど(笑。

一同:

本間:ただ確かに、イーロン・マスクの助走期間、今回のブルー・オリジンとかヴァージン・ギャラクティックとかも、みんなけっこう長いんですよね(※)。急に打ち上がったわけでもなく、15年ぐらい一つのオポチュニティーを追いつづけるっていうのが、六本木とか赤坂界隈にいるとなかなか難しい。

※補足:イーロン・マスク氏のスペースXは2002年、テスラが2003年、ジェフ・ベゾス氏のブルー・オリジンは2000年、リチャード・ブランソン氏のヴァージン・ギャラクティックは2004年創業

平野:國光さん、ずっと打席でバットを振りつづけられる元気はどこから?

國光:前回の対談を振り返ってという感じだけど・・・どうだろうね?まだ「21世紀、俺」は達成できてないからね。イーロンにしても孫さんにしてもジャックにしてもね・・・ただ背中は見えてます(笑。

本間:見えてるの?だいぶ目がいい(笑!

國光:いやいや、ぜんぜん背中は見えてます!

本間:僕も陸上競技、長いことやってるけど、周回遅れじゃないよね?

國光:最近、老眼が入ってきて近くは見えにくくなってきてるんやけど、遠くはよく見える(笑。完璧に背中は見えてる。そこ、っていう目標がまだね。そこに向けて行きたいというね。そこ自体は変わってないかな。

平野:悔しいとかそういう気持ちって薄れてきてます?幸せになって。

國光:本当に真面目な話、背中は見えてるんだよ。悔しいというよりどうやったら勝てるか?だよね。具体的な戦略の方が大きい感じがする。

イーロンは別格やからちょっと置いとくけど、ジャックもマーク(・ザッカーバーグ氏)も、まあ、波に乗っただけなのね。スマホ・ソーシャル・クラウドの波に乗っかっただけの話なの。あの時代に波を自ら生み出したのは、(スティーブ・)ジョブスだけなの。

ひょっとしたらgumiがFacebookになった可能性もあるもんね。

本間:実際、志としては狙ってたからね!

國光:何かが変わったらワンチャンあったかもしれないからね・・・(遠い目

次につづく:世界と戦うチーム/Thirdverse 國光×本間対談(2/3)

※本文中の敬称は略させていただきました。

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