北九州発、レガシー業界向け現場遠隔支援ツール「SynQ Remote」運営が1.2億円を調達

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福岡・北九州を拠点として、製造業・建設業・設備管理業の現場向け遠隔支援コミュニケーションツール「SynQ Remote(シンク・リモート)」を開発するクアンドは、同社初となるエクイティファイナンスで1.2億円を調達したことを明らかにした。プレシリーズ A ラウンド相当と見られる。このラウンドに参加したのは、BEENEXT の ALL STAR SAAS FUND、UB Ventures、ドーガン・ベータ、F Ventures に加え、個人投資家として岡野武治氏(岡野バルブ製造 代表取締役社長)、端羽英子氏(ビザスク 代表取締役 CEO)。

クアンドは2017年、北九州市出身で以前は P&G の内外工場で製造管理などに携わっていた下岡純一郎氏(現 代表取締役 CEO)により創業。下岡氏によれば、製造業・建設業・設備管理業といったレガシー業界では、AI や IoT の導入でデジタル化が進んでいる部分もあるものの、技術者がこれまで作業をしてきた多くの部分で依然アナログなままだという。確かに、熟練技術者から新人や若手への技能の承継はフェイストゥフェイスで行われることが一般的だ。創業から3年にわたり、レガシー業界向けのコンサルティングや受託開発に傾倒してきた同社だが、下岡氏は実家の建設業での経験を踏まえて、レガシー業界の非効率を解決するツールの開発に昨年着手した。

クアンド 代表取締役 CEO の下岡純一郎氏
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レガシー業界の現場では多くの技術者が働いているが、現場でトラブルが発生したり、解決策が見出しづらい課題に直面したりすると、彼らは先輩、すなわち、熟練技術者に頼ることになる。しかし、多くの現場では労働人口の高齢化も影響して熟練技術者の数は限られ、彼らは複数の現場からエスカレーションされてきたリクエストに応じるべく東奔西走することを余儀なくされる。かくして現場は課題を解決するまでに時間を要してしまい、熟練技術者は疲弊して、場合によっては辞職していってしまう。技術や技能の承継がうまくいかなければ、その企業の将来も危ういものとなってしまうだろう。

SynQ Remote は、このような〝現場〟に最適化された「レガシー業界向けの Zoom」と言えるだろう。ビデオ通話でも十分に伝わるのではないか、と思う読者もいるかもしれない。例えば、何かの課題があり、バルブを閉めるという作業を熟練が若手に指示する場合、両者が現場に居れば相互のコミュニケーションに問題は生じにくいが、遠隔の場合、果たしてどのバルブを閉めるのか、間違いの無いように明確に伝えることは難しい。想定されていない問題も起こるため、事前にトラブル対処のマニュアルを徹底しても不十分だ。そこで、SynQ Remote では現場で撮影した画面を共有し、そこに熟練が遠隔で図や文字を書いて説明できるようにした。

「SynQ Remote」の利用シーン
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その後、数々のメーカーの協力を得て実証実験を開始。まわりの音がうるさく相手の音声を聞き取りにくい現場のために、技術者が発した音声をテキスト化して表示できるようにしたり、動画を扱えるようにしたりするなど、機能追加にも余念がない。将来は、遠隔制御や操作、設備保全やクラウドデータベース、AI による自動計器読取など複数のツールを追加して、レガシー業界の業務を包括的に支援できる総合プラットフォームを目指す計画だ。コールセンターや BPO がサードパーティーとして業務受託するように、将来はレガシー業界の支援業務を一手にアウトソースで引き受けられる業態に成長するかもしれない。

理論や科学的なアプローチからイノベーションを起こすことを欧米が得意とするなら、日本の企業にとっては、机上のフローからは見えてこない現場とのギャップを埋め、オペレーションがリアルに現場で回る形に落とし込むことが十八番かもしれない。このオペレーションに落とし込むというカルチャーは、なかなかシステム化はしづらく、スケーラビリティに難があるように思えたが、SynQ Remote やその将来像は、このカルチャーを世界展開可能なものにできる可能性がある。同社は先月、パラオに電気自動車を導入する事業に参画し、日本の技術者による遠隔メンテナンスを支援する環境省のプロジェクトに採択された。

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