コロナ禍で現地観戦・応援ままならぬ今、注目集める「バーチャル高校野球」。学生スポーツ配信の意義とはー運動通信社とKDDIの協業

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

課題とチャンスのコーナーでは、毎回、コラボレーションした企業同士のケーススタディをお届けします。

黒飛功二朗さんは、2015年5月にスポーツメディアスタートアップの運動通信社を設立しました。同社が2016年11月から KDDI との協業で運営するインターネットスポーツメディア 「スポーツブル」では、40種類以上の幅広い競技をさまざまなコンテンツで完全無料配信し、スポーツファンの幅広い層を獲得することに成功しました。2019年には、電通、博報堂 DY メディアパートナーズ、ミクシィ、講談社、本田圭佑氏の「KSK Angel Fund」から7.4億円を資金調達しています。

運動通信社では、2018年よりスポーツブルの中で 「バーチャル高校野球」というプロジェクトを朝日新聞、朝日放送と共に展開しています。かねてから協業関係にある KDDI の協力を得て、地方球場の通信ネットワークを整備し地方大会を全試合中継しようという試みで、これに加え、甲子園での全試合も余すことなく中継されることから、コロナ禍で現地観戦や応援がままならない今、高校野球ファンのみならず、球児の家族や友人、指導者や関係者らから高い評価を得ています。一つの試合をマルチ視点で楽しめるのも、通信環境の整備が可能にした醍醐味です。

運動通信社の代表である黒飛氏に、このプロジェクトを始めるに至った背景や実現までの経緯をお聞きしました。

みんなの長年の思いを形にした「バーチャル高校野球」

バーチャル高校野球は、黒飛さんが運動通信社を設立する前の2014年、高校野球の放送を担う朝日放送と共に立ち上げたプロジェクトです。当時、黒飛さんは電通から独立直後に立ち上げたコンサルティング会社で、プロジェクトをプロデュースする立場で関わっていましたが、2015年に運動通信社を設立したことを契機に、2018年からバーチャル高校野球とスポーツブルを連携。主催者である朝日新聞もメンバーに加わり、より具体的な事業となリました。バーチャル高校野球では現在、アプリケーションなどのプラットフォームの提供を運動通信社が、コンテンツの提供を朝日新聞、朝日放送が担っています。

2013年から高校野球のお仕事に関わらせて頂いていますが、その頃から「一試合でも多く、一人でも多く、高校野球を届けたい」という想いで取り組んできました。(高校野球は)プロスポーツと異なり、どのチームも一回負ければ終わり、毎年引退して行く球児たちがいます。その姿を映像化し生きた証として皆さんの記憶にストックして頂きたいと考えています。

朝日新聞さんと朝日放送さんの事業である「バーチャル高校野球」の継続的発展をサポートできるパートナーであり続けるために、運動通信社と KDDI とで最大限のソリューション提供を行っていくつもりです。歴史あるコンテンツにインターネットテクノロジーを組み合わせ、本来コンテンツが持つ感動ポテンシャルを引き出し、新しい体験価値を創造していきたいと考えています。(運動通信社 黒飛さん)

今年、全国津々浦々で開催される地方大会を含む全試合は全部で約3,800試合ですが、KDDI が協力し地方球場からバーチャル高校野球で中継できたものは約2,500試合に上ります。今後全ての試合を中継できるようにするには、さらなる地方の通信ネットワークの強化が必要で、運動通信社は KDDI とさらに映像伝送を含めた回線強化のための協業を進めています。バーチャル高校野球の記者発表の際、自身も高校球児だったという KDDI の繁田光平さんは、KDDI がこのプロジェクトに関わる意味を次のように強調していました。

バーチャル高校野球
バーチャル高校野球UI

KDDI は通信会社なので、地方球場でハイクオリティのコンテンツをアップロードしたり、通信速度が足りなかったりしたときに、KDDI のメンバーが調査に出向いてアンテナの出力を調整するなど、2500試合を届けるための努力をしています。KDDI グループをあげて JCOM や Jスポーツ といったグループ会社も協力し、コロナ禍でも皆さんに元気を届けたい。

この瞬間も、感動的シーンが生まれている可能性がある。各地でがんばっている姿が映像化されバズると、人々がスポーツを始めるきっかけになる。 5G を進める中で、今まで以上にストレスなくスポーツをみれる環境づくりは重要になってきます。コンテンツ化をお手伝いする中で、5G 時代の象徴的な「見る形」を提示していくことは、KDDI の使命だと考えています。(KDDI 繁田さん)

高校野球にとどまらない、学生スポーツやアマチュアスポーツに広がる可能性

コロナ禍で現地観戦や応援の機会が失われたことで、スポーツ界、とりわけ、黒飛さんが深く関わってきた高校野球界においても、その影響は少なくないものでした。バーチャル高校野球を展開する中で、SNS 上では多くの感謝の声とともに、もっと多くの試合配信を望む声があふれていると、黒飛さんは言います。

(SNS 上の)コメントを目にするたびに、私たちの取り組みが間違ってなかったんだと心が熱くなりました。コロナによりリアルが「分断される時代」こそ、通信の力で「選手とファンを繋ぐ」真価が問われると思います。

スマートフォン、インターネット、5Gの普及が進み、スマートフォンで動画を「消費」するのが当たり前の時代です。しかし、この動画の大量消費の中で私たちは「記憶にストックされる体験」を生み出していきたいという思いがあります。つまり、隙間時間をダラダラ埋める動画消費だけでなく、インターネットを通じて一生心に刻まれる貴重な体験を創出したい。

そのためには、歴史のある大切なコンテンツと最新テクノロジーの融合が重要だと考えています。開催すら危ぶまれたオリンピックも日本勢の活躍により明るいニュースが飛び交っていますが、スポーツには人を元気にする、勇気を奮い立たせる不思議な力があります。(運動通信社 黒飛さん)

KDDI もまた、学生スポーツへの応援に積極的です。2019年には「春の高校バレー」で「AR観戦」の体験を提供したほか、出資先でもあるアメリカのスタートアップ 4DREPLAY の技術を使った自由視点映像の会場内配信を実施。また、大学スポーツ協会 UNIVAS と提携し、動画配信や IoT を活用することで、選手の競技力向上、スマホでの試合観戦などファン拡大に向けた施策を共同で推進することを明らかにしています。また、運動通信社とは、バーチャル高校野球以外にも、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)のライブ配信で協業しています。

プロスポーツでは、頂点に上り詰めた一握りのスタープレイヤーにスポットライトが当たり、彼らの活躍への熱狂がバリューやビジネス価値を生み出してきました。対照的にアマチュアスポーツでは、自分の知っている誰かや、共感を持てる身近な存在の活躍を目にできる機会の創出が重要になります。かつて無かったロングテールなモノの販売が e コマースで実現したように、スポーツコンテンツの世界にもロングテールの波がやってきそうです。アスリートにとっても、コンテンツオーナーにとっても、プラットフォーマーにとっても魅力的な新境地となるかもしれません。

編集部では引き続き共創の取り組みをお伝えしていきます。

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