人事なしで100名規模まで組織拡大、「全社員面接官」のはじめかた

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本稿はベンチャーキャピタル、ALL STAR SAAS FUNDが運営するサイトに掲載された記事からの一部を転載したもの。全文書き起こしはこちらから読める。同社のメルマガ「ALL STAR SAAS NEWSLETTER」出資先のスタートアップ転職に関するキャリア相談も受付中

社員約120名が働く、ヘルステックスタートアップのUbie。医療機関向けの業務効率化サービス「AI問診ユビー」などを展開しています。2019年からの2年間で社員数5倍以上と急成長を遂げています。

それだけの成長ぶりなら当然のように居てもよいポジションが、Ubieにはまったくの不在だといいます。それが、採用人事。彼らは、採用専任者を置かないままに、100人以上の組織をつくり、さらにリファラル採用率が70%超えを実現しているのだといいます。

なぜ、採用人事を置かないのか。そして、体制を実現するためにどういった施策を打っているのか。Ubieで組織開発に当たるそのぴーさんに教わります。採用を強化したいスタートアップや、リファラル文化を構築したい経営者も取り入れられる観点が数多くありました。

2019年から20人、40人、100人と増えていった社員数

Ubieには業務委託も含めると2年半ほど関わってきて、入社したのは1年半ほど前です。それ以前までは大なり小なりのIT企業で、人事の仕事をしてきました。

私はUbieに「カルチャー開発」という職種で入社しまして、カルチャー形成とその言語化、社内への浸透や仕組みづくりといったことに携わっています。カルチャーのオンボーディング、OKRの導入や運用、組織システムとしてホラクラシーの導入と運用などを、これまでにも実施しました。

業務委託として関わり始めた2019年、Ubieの社員数は約20人弱でした。それが、2020年には40名、2021年には100名と拡大していったんです。私が正社員になろうと決めたのも、Ubieのあまりの可能性に目がくらんだ、と言いますか……(笑)。

Ubieはヘルステックスタートアップですが、医療は日本だとGDPの11%である43兆円、米国だとGDPの19%である3.9兆ドルが費やされる巨大市場です。日本初の事業を手掛ける意義もありますし、その可能性を感じたのは決め手になりました。まさに「全人類が当事者」というテーマの事業に携われるのは面白いですね。

あとは組織作りも非常に興味深いな、と思っていまして。特に当時の社員は20人で、派遣社員を含めても40人ほどの規模であっても、とにかく当時から理想論を追求していく会社。採用もカルチャーも絶対に妥協せず、「理想は実現できる」というある種の楽観主義のもとに動いている。そんな希有な組織であることも、入社を決めた理由の一つです。

採用を「他人ごと」にさせるな!

Ubieは「採用人事が不在」なのも珍しいポイントです。そもそも、オファーレターにも業務内容に「採用活動」を含めています

Ubieでは全社的に「自分と同じ職種・同じ事業経験者の採用をすることが、最も精度は高くなるはずだ」というふうに考えています。たとえば、エンジニアの採用であればエンジニアが、B向けビジネスに理解が深い人がB向けビジネスに最も必要な人材要件をわかっているだろう、といったことですね。

また、採用をメンバーそれぞれの自分ごと化にしたいという理由も背景にあります。採用人事の担当者がいると、たしかに採用実務は前進する一方で、「人事がリードを取ってきてくれるだろう」といった意識が生まれやすくもなるはず。すると、採用が次第に他人ごとになってしまう面があると思います。

スタートアップの創業者が採用を担うのは当たり前としても、社員が増え、業務を分担していくにつれて、採用が他人ごと化するのが現実です。Ubieでは採用人事をあえて置かないことで、チームに欲しい人材や職種がいても、自分から動かなければ何も起こらない状況を作っているわけです。すると、メンバーの当事者意識が上がっていくんですね。

社員100名規模でリファラル採用が全体の70%を占めるのも、事業や採用への当事者意識の高さが生んだものだと捉えています。採用活動そのものも社員みんなで楽しみつつ取り組んでいますし、人事発信では生まれにくい施策も考え出されていると感じます。また、誰もが当事者なので採用に関するドキュメントもどんどん生まれます。

当事者意識の高さは、採用広報にも良い影響を与えています。昨今は社員のメディア化やタレント化といった話も採用広報ではよく挙がるテーマかと思いますが、それも積極的に進められています。Ubieでは昨年12月に始めた「アドベントカレンダー」方式で記事を書いていく取り組みが、実は昨年12月からこの6月になるまでずっと続いているんです(笑)。

1月以降は平日だけの公開で、厳密には更新が途切れている日もありますけれども、毎日誰かが記事を書いていくというのも、メンバーそれぞれの当事者意識がなければ、さすがに実現できなかったことだと思います。

もちろん、「採用人事が不在」である弱みもあります。エージェント経由の採用は非常に難しくなりますし、エージェントさんからすればUbieの誰に連絡していいかもわからないでしょう。その点ではエージェントさんから見た採用体験は悪いといえるので申し訳ないですね。

また、エージェントさんとお互いに気持ちよくおつき合いしていくことには、ある種のコツや専門性が必要です。それを社員全員が持てるかといえば、正直、難しいのかなと。そういった中央集権的な施策は、Ubieの非常に苦手とするところです。

一に言語化、二に言語化

社員が採用を担う上で、そのためのトレーニングと「言語化」は積極的に取り組んでいます。「言語化」では、人材要件を一般的な定義よりも2段ほど深掘って書いたドキュメントがあったり、アセスメントが初めての人でもできるオペレーション設計にしてあったりします。構造化面接のための土台や材料はしっかり用意していますね。

Ubieには「Ubieness」と呼ぶ面接評価基準があります。たとえば、「ゼロベース思考」があります。「ゼロベース思考とは何か」という定義を言語化し、次に「なぜそれを重視するか」という存在意義を伝えています。

そして、ゼロベース思考を持つことでUbieがありたい組織の形と、持ち得ないことで起こるかもしれないリスクを説明します。さらに、ゼロベース思考は「アンラーン」と「思考の柔軟性」が要素として挙がり、それぞれがいかなる内容なのかを解説しています。

ここまでを前提に、どのように人材を見極めていくべきかを、さらにドキュメントにまとめています。見極めポイントは大きく三つあり、それらをはかるための質問の仕方や具体的な言葉も書いています。見極めポイントは、これからUbieの面接を受けられる方もいるかもしれないので、詳細は今回は省かせてください(笑)。

あとは、深堀りするための質問方法も文章にしています。「一つ質問をして、こういった情報が得られれば次へ進む。得られなければ、この質問を重ねてみる」といった手引きをまとめて、それらの結果として評定を何点つけるかも項目ごとに定めています。ただ、質問はあくまで臨機応変が良い部分もありますから、尋ねるための背景の理解こそが重要です。

人事の機能を分解して、みんなで分担しよう

面接の具体的な進め方でいくと、必ず2人以上で当たります。狙いとしては、面接に慣れている人と同席することでのラーニングと、面接のフィードバックを面接官同士で行うためです。あとは、候補者の方に必ず許可をいただいて、すべての面接を録画しています。

面接はブラックボックスになりがちです。どういった面接をして、候補者の方がどのように発言したから、結果的にこの評価になった、という振り返りが難しい部分もあります。だからこそ、録画を二次面接官や最終面接官が事前にチェックして、「質問の仕方を変えてみたほうがいい」とか「自分ならこういった評価にする」とかいった擦り合わせをします。

録画はUbieにとってのメリットはもちろんですが、特定の選考官による偏った見方だけでジャッジされない意味で候補者にもメリットがあります。

もっとも、「社員なら誰でも面接官を務められるようにしたい」という思いがありますから、いわゆる「面接官のタイプ」はそこまで意識していません。職種ごとのピンポイントな質問に関しては同職種の人が担いますが、Slackにくじ引きシステムのようなものを入れておき、それで担当を決めています。

こうして振り返ると、Ubieはみんなで人事の機能を分解して、みんなで分担している組織、という感じですね。

BRIDGE編集部註:この後の『「採用人事の機能」はピラミッド構造である』などの続きはこちらから。

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