東大が起業教育の寄付講座を開設、ディープテックスタートアップやユニコーン輩出に意欲

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左から:中馬和彦氏(KDDI ∞ Labo 長)、川上豊福氏(経営共創基盤 パートナー 取締役マネージングディレクター)、染谷隆夫氏(東京大学工学部 教授・工学系研究科長・工学部長)、坂田一郎氏(東京大学工学部 教授・講座代表)、村岡隆史氏(経営共創基盤 代表取締役 CEO)、郷治友孝氏 (東京大学エッジキャピタルパートナーズ 代表取締役社長)
Image credit: The University of Tokyo

<20日13:30更新> 写真を一部差し替えました。

東京大学は18日、オンラインで記者会見を開催し、同大学大学院工学系研究科に「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座」を開設し今秋から開始することを明らかにした。この講座には、3年間で総額1.2億円が寄付金として集まっており、経営共創基盤、KDDI、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)、AI 研究で知られる同大の松尾豊教授が関連する AI を使った DX(デジタルトランスフォーメーション)支援会社の松尾研究所が、寄付と講座運営で協力する。

現在、東大には、東京大学アントレプレナー道場、「アントレプレナーシップI、II」(工学部共通科目)、アイデアを形にするモノづくり体験~ロボットから家電まで~(通称「ものゼミ」、工学部電子情報工学科川原 圭博教授が担当)、EDGE NEXT プログラム、本郷テックガレージ、FoundX、Todai To Texas(TTT)といった、複数の起業支援系教育プログラムが存在する。新講座では、モノづくりや海外進出などで大学発スタートアップの課題解決を支援し、こうした他プログラムとも連携・統合し効率化を図る。

東大発のスタートアップは約430社あり、時価総額トップの5社の時価総額合計は1.5兆円に上る。しかし、学生を含めて工学系(エンジニアリングやソフトウェア)のスタートアップが多く、東大が本来強みを持つディープテック系(環境・エネルギー、化学・素材)のスタートアップが少なく、世界市場を目指すスタートアップが少なく、ユニコーンがいないという。この新講座を通じて起業家育成を本格することで、時価総額1兆円(約100億米ドル)、すなわち、デカコーンとなるスタートアップの輩出を狙う。

Image credit: The University of Tokyo

日本政府は「未来投資戦略2018」で「2023年までに、企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる、ユニコーン企業又は上場ベンチャー企業を20社創出」という目標を掲げている。この講座を通じて、東大ではこの構想の一翼を担うことも視野に入れているとみられる。一般的に、ソフトウェア系のスタートアップに比べ、ディープテックスタートアップは多額の資金を必要とすることが多いことから、この講座では、どんな条件を満たせば M&A、IPO、VC 調達の対象となるかについても、起業前の段階から指南する。

また、ディープテックスタートアップは、社会実装、研究開発や技術実装までにかかる時間が長い傾向にある。そういった課題にも取り組めるよう、東大の既存の起業支援プログラムや、他組織が運営する起業支援の取り組みと比較して、今秋から開始する本講座には次のような特徴があるという。

  1. 寄付企業、協力事業会社、起業家の治験を結集した多数エキスパートによる実践的講義
  2. ものづくり・ディープテックの起業モデルとグローバル市場を意識したカリキュラム
  3. 本学内の多様な アントレプレナーシップ 教育全体の体系化・連接
  4. Society 5.0 時代の産学協同教育のモデルの社会への発信
Image credit: The University of Tokyo

今週から始まる講座では、東大の教授陣や寄付企業の代表者による講義に加え、SHOWROOM 代表の前田裕二氏、WASSHA 代表の秋田智司氏、NordicNinja、ソラコム代表の玉川憲氏、トレジャーデータ代表の太田一樹氏らを招いての外部講師講演も行う。来年1月に迎える講座の最終回には、事業会社役員を招いたピッチを行い評価を得る。講座には VC や事業会社が複数協力していることから、受講者の中から実際に事業化したり、投資を受けたりするケースも出てくることが期待できるだろう。

寄付企業を代表して KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏は、同社が支援するソラコムの事例を挙げ、次の10年を日本のオープンイノベーション第二章と捉え、より一層大企業が積極的に、ミドルからレイターのスタートアップに対しファイナンスとアセットを大胆に提供し、スタートアップを世界で戦える水準へグロースさせていく時代にすべきと語った。高橋氏はまた、日本経済の発展にも寄与するこのグロースを「インパクトグロース」と呼び、本講座への寄付を通じて、インパクトグロースの活発化に貢献したいと強調した。

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