〝ノーコード化〟を目指す情シス業務
今週の話題(8月30日〜9月3日):ラクスル、コーポレートITをクラウド化・アウトソースできる新事業を発表——その名も「ジョーシス」
奇しくも先週から今週にかけて、〝情シス〟を冠したサービスが2つお目見えしました。一つはラクスルの「ジョーシス」、もう一つはマネーフォワード「マネーフォワード ITクラウド」です。
サービス提供される細かい内容や目指す世界は少し違いますが、解決しようとするペインは非常に似ています。企業の情報システム部門、コーポレート IT 部門の作業軽減と効率化、それにアウトソーシングの促進です。
オフィスワークへのギグワーカー進出の促進
- こんなところでもギグワーカーが働いているんだ、と驚かされるほど、進出する職種は多岐にわたっています。SaaS アカウントの即日発行・停止が可能になれば、企業はオフィスワークでギグワーカーの力を借りる運用がやりやすくなります。
情シスそのものの外出しも可能になる
- 記事中にも書かれていますが、情シスは人の異動が多く、外部の協力会社から人を派遣してもらっているケースも少なくありません。コロナ禍で仕事のやり方が変わる中、会計や法務を外部の会計事務所・法律事務所に業務を依頼するように、情シスも社内に人を置かない体制が増えるかもしれません。
エンジニアに求められるスキルも変わる
- クラウドや DevOps サービスの普及でインフラエンジニアに求められるスキルセットは変化しました。SaaS 管理 SaaS の登場で、情シス業務のノーコード化(非エンジニアでも管理・運用できる環境)が進むのではないでしょうか。エンジニアに求められるスキルはさらに変化していくでしょう。
Tokyo Meetup:INTRO
BRIDGEでは公開収録型イベントTokyo Meetupを不定期で開催しています。ベンチャーキャピタルや起業家の方にお越しいただき、ざつだんしながら読者のみなさんと繋がる時間を提供いたします。メンバーの方にはいち早く開催情報をお届けします。サインアップはこちらから(無料)
9月30日のざつだんゲストは日本から中国に進出したスタートアップ Onedot(万粒)CEO の鳥巣知得(とす・ちとく)さんです。中国の育児メディア「Babily(貝貝粒)」を展開しています。一人の子供に両親と双方の祖父母の合わせて6個の財布から金が注がれる「シックスポケット」という言葉に象徴される中国の子ども教育市場について、将来の可能性と課題について伺います。東大 IPC の水本尚宏さんには、日本スタートアップの海外進出支援という観点でもお話をお聞きします。
参加する方々のイメージ
- 中国進出を考えている企業の方
- 副業などでOnedotとお仕事をしたい
- 鳥巣さんに会いたい
- 東大IPCさんに相談したい起業家の方
9月27日のざつだんゲストは記憶定着支援SaaS「Monoxer(モノグサ)」を開発・提供するモノグサ CFO の細川慧介さんです。塾や予備校を通じた B2B2C モデルでモバイルアプリを展開しています。コロナ禍でリモートでの学習を提供する塾や予備校も増える中、リモートでは把握しづらい生徒の進捗に応じた記憶定着に活用されています。モノグサが革新しようとするオンライン教育学習市場の現状について、WiL の久保田雅也さんと一緒にお届けします。
参加する方々のイメージ
- 教育や学習産業に携わっている
- 副業などでモノグサとお仕事をしたい
- 細川さんに会いたい
注目の数字とトレンド
今月特に注目を集めた数字やキーワードをお伝えします。

東京9位
- Startup Genome と Global Entrepreneurship Network (GEN)が調査する「Global Startup Ecosystem Report」2021年版が発表され、この中でスタートアップエコシステムとしての東京が、総合評価で昨年の15位から大幅に順位を上げて9位にランクインした。
- グローバルランキングでは、引き続き北米勢が上位を占めており、トップ30のエコシステムの50%が北米から生まれている。続いて、アジアが27%、ヨーロッパが17%となっている。世界のスタートアップ経済の規模は3.8兆ドルを超え、これはほとんどの G7 経済圏の個々の GDP を上回っている。
- 東京は地域の資金調達をはじめとする、評価に用いた指標要素のほとんどで高い数値を弾き出しているが、connectedness、つまり、人と人のネットワーク形成の点で評価が低かった。この点については、東京都をはじめ地方自治体が出し始めた起業家ビザなどの活用が期待される。
海外機関投資家比率57%超
- インキュベイトファンドは21日、161億円規模のグロースファンド(通称:IFGO)を設立したと発表した。
- このファンドの約57%は、北米、香港、シンガポールを拠点とした金融機関、大学基金などからの出資だ。
- インキュベイトファンドのこれまでの成果を海外投資家に整理・開示したところ、大きな理解が得られたこと、中国ビックテックの雲行きが怪しくなる中、市場規模的にもそこそこで、政治・経済が安定していて、実リターンを着実に出せている点で、日本市場は注目を集めているためだ。
オフィス構築における納品ミスや発注ミスは15%程度
- オフィスリニューアル SaaS 開発の Swish の資金調達の記事で出てきた数字。オフィス家具協会、国土交通省のデータをもとに Swish が算出。他業種ならば利益が吹っ飛んでもいいようなコストです。
- 逆説的には、それだけのムダが発生しても、この業種で事業が回っているということは、そのコストが予め上乗せされた形でサービスが売られていることが、業界で慣習化されている現状が推測できます。
- インターネットによる情報の非対称性解消で、さまざまなサービスが薄利多売に追い込まれる一方、ミスを無くすとう究極的な効率向上が、新たな利益を生み出すモデルは面白いと思います。
タイミーのギグワーカー、登録スタッフは全国200万人
- 労働政策研究・研修機構によりますと、日本の「ギグワーカー」を含むフリーランスの労働者は、全国でおよそ170万人。タイミーに登録するギグワーカーは200万人とのことですから、おそらく、本業がある人、自営業の人、学生などがスキマ時間を使ってギグワークしている事例は多いのでしょう。
- アメリカと日本では社会構造や失業率が違うので一概に比べられませんが、アメリカのギグワーカーは労働人口の3分の1とされ、これを参考とするなら、日本のギグワーカーもこれまでの10倍程度まで伸びしろがあるかもです。
- 筆者が学生だった頃は、まだ週に2回ほど発行されるアルバイト情報誌に頼っていました。働きたい会社や店に電話をし、履歴書を書き、面接をに出向くという手順を取っていた時代と比べれば、日銭を稼ぐのに費やす労力は大幅に減りました。
- エントリのハードルが下がった分、問題が起きやすくなる部分も正直なところあるでしょう。雇用主向けに、低コストでギグワーカーをリファレンスチェックができたり、Sesame Credit(芝麻信用)のような第三者評価が得られたりするサービスは、相性が良いかもしれません。
オンライン会議プラットフォームのさらなる隆盛
- Zoom 関連の話題も多くありました。日本からは、Zoom を使った商談を自動書き起こし & CRM 連携する SaaS「amptalk」が正式ローンチを発表しました。
- Zoom は Zoom 連携アプリを開発するスタートアップを増やすべく作った「App Fund」の出資先第1弾を発表。会議だけにとどまらない用途の広狩りを期待できます。
- アメリカではオンライン会議だけでなく、会議に付随するさまざまな必要機能を包括的に提供する「Vowel」がシリーズ A 調達を発表しました。
5日間、1.8億米ドル、7.5ETH
- ソーシャルメディア「Vine」の共同創業者 Dom Hofmann 氏がテキストと NFT(非代替トークン)を使ったファンタジーゲーム「Loot」を立ち上げ、わずか5日間で時価総額1億8,000万米ドルを超える時価総額を記録しました。
- 高額な価格が持続不可能な NFT バブルの最新の兆候だとと懸念を示す人たちもいます。あるプロジェクトの NFT を入手できる最低価格である「フロア価格」は、7.5ETH(約320万円相当)にまで上昇しました。
情シスの平均離職率は21%、〝ひとり情シス〟は38%
- デルが2019年の中堅企業868社を対象に実施した調査では、情報システム部門の離職率は21%。全業種の平均離職率8.5%(厚生労働省「令和2年上半期雇用動向調査結果の概況」)の約2.5倍に相当します。
- 中堅企業の約38%が情報システム担当者1人以下の体制になっています。また外部人材の採用率も高く37%となっています。スタートアップはこれを商機と捉え、社会変革を促せるのではないでしょうか。
BCP と BCM
- Resilire の取材をしたところで、BCM(Business Continuity Management、事業継続マネジメント)という言葉が出てきました。これまで、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)という言葉はよく耳にしてきましたが、何が違うのでしょう?
- BCM は BCP を活用し、より企業内にどう浸透させるかを考えるマネジメント全般を指します。BCP を定めている企業でも、実際に災害が発生した際にアクションに結びつかない事例が多数見受けられ、BCM がより重視されるようになりました。
今週の調達ニュース
今月の国内スタートアップの主要な資金調達ニュースをお届けします。
サプライチェーンリスク管理プラットフォーム「Resilire」運営、1.5億円を資金調達(9月1日)
- Archetype Ventures、DNX Ventures、DEEPCORE、STRIVE、みずほキャピタル、グロービスファンドから1.5億円を調達したと発表した。
パートナーAIアプリ「PATONA」運営、プレシリーズAで1.3億円を調達——UTEC、EV、Skyland Vから(9月1日)
- Capex(キャペックス)は1日、プレシリーズ A ラウンドで1億3,000万円を調達したことを明らかにした。このラウンドに参加したのは、東京大学エッジキャピタル(UTEC)、East Ventures、Skyland Ventures。
ニチレイ、AI献立自動作成アプリ「me:new(ミーニュー)」運営を買収——両社のアプリを統合へ(8月31日)
- ニチレイはミーニューを買収したと発表した。ニチレイはミーニューの全株式を取得する。買収金額は不明。この買収を受けて、ニチレイの献立自動生成アプリ「conomeal kitchen(このみる きっちん)」と、ミーニューのアプリが統合される。
太陽光パネル保守自動化のヒラソル・エナジー、シリーズAで5億円超を調達——東大IPCなどから(8月31日)
- シリーズ A ラウンドで5億円超を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)、関西電力グループの K4 Ventures、東急建設、三井不動産の CVC である 31VENTURES、山梨中央銀行と山梨中銀経営コンサルティングが共同運用する山梨中銀 SDGs ファンド、ANRI。
病院のデータドリブン経営を支援するメダップ、シリーズAで6億円を調達——DNX Venturesらから(8月31日)
- シリーズ A ラウンドで6億円を調達したことを明らかにした。このラウンドは DNX Ventures がリードインベスターを務め、BEENEXT の ALL STAR SAAS FUNDとモバイル・インターネットキャピタル(MIC)が参加した。
キャリアSNS「YOUTRUST」、シリーズBで4.5億円調達——「人材流動化は経済発展に寄与」と南場氏らが後押し(8月30日)
- シリーズ B ラウンドで4.5億円を調達したと発表した。このラウンドのリードインベスターはデライト・ベンチャーズで、STRIVE、W ventures、ANRI が参加した。
アジアのニュース
今月のアジアのニュースをお届けします。
シンガポールのテックメディア創設者、Binance(弊安)の1億米ドルDeFiファンドの責任者に就任(9月3日)
- Gwendolyn Regina 氏は、Binance(弊安)に投資ディレクターとして入社し、1億米ドル規模の新しいファンド「Binance Smart Chain(BMC)」の責任者に就任した。テックメディアのスタートアップ SSGEntrepreneurs を立ち上げ、後に Tech in Asia に売却した。また、Mashable のアジア進出の陣頭指揮を執った。
The9(第九城市)がNFTに参入、デジタル人民元で初のB2B取引が実施など——中国ブロックチェーン界週間振り返り(9月2日)
- 上海の暗号マイニング企業 The9(第九城市)が NFT(非代替トークン)市場に参入する。中国の国有エネルギー企業 China Energy(国家能源集団)は20日、国内初の B2B デジタル人民元取引を完了した。
ハイブランド品価格比較サイト「Catch Fashion」が約20億円調達など——韓国スタートアップシーン週間振り返り(8月31日)
- オンライン名品専門プラットフォーム「Catch Fashion」を運営する Smile Ventures が210億ウォン(約19.8億円)を調達。オーダーメード型サービス、カテゴリ拡張を実施の予定。
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