「脱炭素」で大変革を起こすスタートアップたち

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本稿は独立系ベンチャーキャピタルSTRIVEによるものを一部要約して転載させていただいた。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。なお、転載元のSTRIVE Blogでは起業家やスタートアップに興味のある方々に向けて事業成長のヒントとなるコンテンツを配信中。投資相談はSTRIVE(公式サイトTwitter)をチェックされたい

脱炭素やカーボンニュートラルというキーワード。環境に関わるテーマということは知りつつも、いまいち理解が追いついてない・・・という人は多いのではないでしょうか?ぜひこの機会に全体感を掴んでもらえればと思います。Let’s strive to know “Carbon Neutral”!

脱炭素って何だろう? – 人間活動によって排出される温室効果ガスを差し引きゼロにすること

私たちは、暮らしの中でガスや電力を使ったり、自動車や航空機で移動をしたり、工業や農業などの生産活動を行ったりする中で、温室効果ガスを排出しながら生活をしています。

温室効果ガス(Greenhouse gas、GHG)とは

温室効果ガスとは、大気に含まれている水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化窒素、フロンガスなどの総称で、太陽からの熱エネルギーを吸収し、再び放出する性質があります。温室効果ガスが無い場合、地球の表面の温度は氷点下19度程度にまで下がるとされており、温室効果ガスのおかげで地球がほぼ一定の温度(約14度)に保たれています。人間活動によって排出される温室効果ガスの大部分は化石燃料由来の二酸化炭素で、温暖化への影響が最も大きいとされています。

参考:全国地球温暖化防止活動推進センター気象庁

脱炭素とは、様々な人間活動によって生じる二酸化炭素などの温室効果ガスを可能な限り削減しながら、どうしても排出せざるを得ない分については同じ量を吸収あるいは除去して差し引きゼロの状態にすることで、カーボンニュートラル(炭素中立)とも呼ばれます。例えば日本の場合、2019年に様々な部門で排出されている合計12.1億トンの温室効果ガスを、2050年までに排出量の削減分と吸収・除去分との差し引きでゼロの状態にすることを目指しています。

脱炭素が求められているのはなぜ? – 温室効果ガスの排出量の増加による地球温暖化を食い止めるため

産業革命以降に石油や石炭などの化石燃料が大量に消費されるようになり、温室効果ガスの排出量が急激に増加しました。その結果、大気中の温室効果ガスの濃度が上昇し、熱の吸収が高まり地球温暖化が進んでいることを、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)の科学者たちが科学的知見に基づいて警鐘を鳴らしています。IPCCでは、地球温暖化による海面の上昇や熱波や豪雨などの気象災害の増加など、自然環境や人々の暮らしに深刻な影響や被害が生じていると指摘しています。

IPCCとは

IPCCは、世界気象機関と国連環境計画により1988年に設立された政府間組織で、2021年8月現在、195の国と地域が参加しています。IPCCの目的は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることで、IPCCが作成する評価報告書は気候変動に関する国際的な科学的根拠資料となっています。2021年8月にIPCCが発表した第6次評価報告書によると、地球の平均気温は産業革命前(1850〜1900年の平均)に比べ、2011〜2020 年の10年間平均では1.09度上昇し、観測史上最も暑い10年間でした。また、今世紀末(2081〜2100年)の気温上昇の可能性について、温室効果ガス排出について最も対策を行う場合には1.4度の気温上昇で抑えられるものの、対策が緩い場合には4.4度の上昇になることが科学的に予測されています。なお、気温が1.5度上昇した場合、50年に1度しか起こらなかったレベルの熱波が5〜6年間隔で発生すると見積もられています。

参考: Business Insider 「気温1.5℃上昇、10年早まる」報道の本質的な誤解。気候変動危機の実態を知る「9つの論点」

脱炭素のスタートアップの動向 – VCマネーは21年に加速、顕在化するペイン解決のスタートアップが登場

脱炭素に関連するスタートアップ企業、いわゆるクライメートテックの市場と資金調達の状況、スタートアップの事例を見てみましょう。「脱炭素を取り巻く潮流 – 経済」の項で述べた通り、その市場規模は2020年に2.4兆ドル(約260兆円)で年平均成長率9.5%で成長し、2025年には3.6兆ドル(約400兆円)に達すると予想しており、その巨大さと成長性の高さが示されています。クライメートテックのセクター別の内訳を見てみると、電気自動車やマイクロモビリティなどを含むTransportation部門の総調達額が最も大きく、約307億ドル(約3兆4千億円)になります。

2020年のクライメートテックのスタートアップによるベンチャーキャピタルからの総調達額は約161億ドル(約1.8兆円)と高い水準にありましたが、2021年に入りその勢いは加速しています。2021年の総調達額は、上半期の時点で約142億ドル(約1.6兆円)となり、前年度の88%に達しています。

グラフによると、クライメートテックへのVC投資は2010年代前半は低調でしたが、後半にかけて大きく伸長している様子が見て取れます。2010年代前半にVC投資が振るわなかった背景として、クリーンテック(Clean Tech)への投資の失敗があります。

脱炭素や気候変動対策といった同様の領域への投資ブームは2000年代中頃にもあり、当時はクリーンテック企業と呼ばれていました。しかし、2010年代に入ると、新素材やハードウェアの開発・製造などを行うクリーンテック・スタートアップの多くが、コモディティ市場で競争力を持つことができずに破綻し、ベンチャーキャピタルは投資した金額の過半を失ったと言われています。一方で、クリーンテックのソフトウェア企業の中には高いリターンを達成したものもあり、ベンチャーキャピタルによるソフトウェアベースのイノベーションへの投資が顕著に伸長しました。

近年では、クリーンテックブームの頃に比べ、国際政治における脱炭素化へのコンセンサスの強化(ペイシェントマネーの供給拡大や税制優遇等含め)、企業による脱炭素化の加速、再生可能エネルギー技術の劇的なコストの低下、AIやIoTなどを活用した新たなビジネスモデルの登場など、ビジネス環境が改善したことを受け、ベンチャーキャピタルによる投資が再拡大しています。2021年7月には、クライメートテックに特化した数千億円規模のメガファンドが相次いで誕生するなど、力強い勢いを感じさせます。

既に、数多くのクライメートテックのユニコーンが誕生しています。リサーチプラットフォームを提供するHolon IQによると、2021年8月時点で、評価額が10億ドルを超えるスタートアップは26社でした。 この26社は、過去10年間で総額180億ドル(約2兆円)の資金を調達し、現在の評価額は総額580億ドル(約6.4兆円)となっています。

日本の状況に目を向けて見ましょう。日本は、これまで脱石炭、脱石油を経て、現在は脱炭素に向けた取り組みが進展しています。脱炭素を通じて、海外からの輸入が中心の化石燃料に大きく依存する日本のエネルギー供給構造を変革し、同時に、温室効果ガスの排出削減を実現することを目指しています。2020年に入り脱炭素への流れは一層強く加速しており、2030年度の電源構成目標として、従来は再生可能エネルギーの割合が22〜24%であったところ、2021年7月に発表された新目標案では36〜38%にまで引き上げられています。

脱炭素ビジネスや、脱炭素と密接に関連したエネルギービジネスを考える際、各国の自然や気候条件、規制や制度・現行のシステムの状況などを考慮する必要があります。例えば日本の場合、化石燃料の資源には恵まれず、また、雨量や平地が少ないことから太陽光発電の導入が難しいといった自然や気候の前提があり、また、制度面では電力自由化が欧米に比べて遅れて進んでいます。

日本では現在、脱炭素に向けた再生可能エネルギー導入拡大、企業による脱炭素経営の取り組み加速、発電・電力小売部門の自由化などの電力システム改革の進展などの近年の大きな変化を受けて、日本のエネルギー・脱炭素ビジネスではすでに具体的なペイン(悩みや課題)が顕在化しつつあり、それらに対するソリューションを提供するスタートアップが登場しています。

STRIVEは、再エネ100%・地産地消・コスト削減に繋がるクリーンな電力サービスと温室効果ガス排出量管理SaaSを展開するアスエネや、サプライチェーンリスク管理プラットフォームを運用するResilireに投資家として参画させて頂いています。STRIVEも、彼らとともに、世の中の脱炭素化や気候変動リスクへの対応という課題の解決に取り組んでいきたいと思います。

脱炭素は、様々なテーマが複雑に絡み合っており、俯瞰して把握することがなかなか難しいかと思います。しかしながら、脱炭素は私達の暮らしや事業環境に大きな影響を与えるテーマであり、その影響度は大きくなることはあっても少なくなることはなさそうです。今回のnoteが、少しでも皆様のお役に立てれば嬉しいです。また、脱炭素に関連するクライメートテックは引き続き注目度が高く、大きな成長が期待される分野です。STRIVEも引き続き、期待して着目していきたいと思います。

原文ではこちらに掲載していない多数のスライド資料が掲載されています。

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