新進気鋭の起業家が大物キャピタリストとアイデアを磨きあげる合宿イベント「Incubate Camp 14th」が開催

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1〜2日の2日間、スタートアップへの投資・育成事業を行うインキュベイトファンドが開催する起業家と投資家の合同合宿「Incubate Camp 14th」が 、千葉県内のホテルで開催された。今回はコロナ禍でのイベント開催となったため、登壇者・メンターをはじめとする参加者は、マスクやフェイスシールドの着用を求められた。

Incubate Camp の参加対象となるのは、シードラウンドでの調達を求めているスタートアップに加え、すでにサービスをリリース済で、追加の資金調達やサポートを希望するスタートアップだ。2日間にわたって、スタートアップ16社をインキュベイトファンドの代表パートナー5名、14名のゲストベンチャーキャピタリストがメンタリング。2日目には、審査員9名を交えたプレゼンテーションが実施された。

入賞の是非とは別に、参加スタートアップはゲストベンチャーキャピタリストから投資を受けられる可能性があるほか、スポンサー各社からはウェブサービスの無料利用権など特典が進呈される。審査員らからは、いくつかのスタートアップに将来性を認められたとの声も上がっていたので、今回の Incubate Camp を経て、新たにいくつかの出資が実施されることになるだろう。

本稿においては、プレゼンテーションで披露されたサービスの概要についてお伝えしたい。個々のサービスの背景や詳細などについては、随時 BRIDGE で取材を進めていく予定だ。

Incubate Camp 14th のプレゼンテーションで審査員を務めたのは、

  • DBJ キャピタル 代表取締役社長 内山春彦氏
  • グロービス・キャピタル ・パートナーズ 代表パートナー 仮屋薗聡一氏
  • 三井住友銀行 成長事業開発部 部長 佐藤正義氏
  • グローバル・ブレイン General Partner 立岡恵介氏
  • Spiral Capital Partner 千葉貴史氏
  • STRIVE 代表パートナー 堤達生氏
  • XTech Ventures 代表パートナー 手嶋浩己氏
  • ディー ・ エヌ ・ エー 代表取締役会長 南場智子氏
  • 中小企業基盤整備機構 ファンド事業部 ファンド事業課 担当課長 山岸玲子氏

…の皆さん。司会は、インキュベイトファンド アソシエイトの青野佑樹氏が務めた。

【総合順位1位】CaaS(Credit as a Service)by Crezit

(メンタリング担当:Eight Roads Ventures Partner 村田純一氏)

金融のアンバンドル化、オープンバンキングが進む中、既存金融機関は金融の裏側を支える存在となり、一方で、さまざまな非金融の事業者が金融サービスに参入することが予想される。Crezit は、そういった事業者が新たに消費者信用事業に参入したい場合に必要な仕組みを CaaS(Credit as a Service)として提供する。

これまでに事業会社6社、ノンバンク大手を含む金融会社5社と交渉または基本合意に至っており、年内はプラットフォーム基盤の構築に傾倒。将来は、消費者が自身の与信情報を管理可能な Crezit ID を中心として、日本最大の与信プラットフォームを目指す計画だ。

【総合順位2位】Quicker by 9seconds(ベストグロース賞2位タイも受賞)

(メンタリング担当:Coral Capital James Riney 氏)

9 Seconds は、B2B 企業の Web サイトを Web 営業・訪問者分析 SaaS「Quicker(クイッカー)」を開発している。Quickr を導入すると、見込み客ユーザが自社サイトを訪れると、IP アドレスから類推した所属企業や、リピート訪問ユーザについてはクッキーを使うなどしてユーザ属性を即座に可視化する。

サイト訪問が担当営業などに伝えられ、見込み客はサイト上でチャットボックスを通じてコミュニケーションができたり、客に時間が無い場合などは改めてのコミュニケーション機会の設定ができたりする仕組みを提供する。世界では問い合わせフォームやチャットによる営業リードは形骸化しつつある。DriftQualified などをベンチマークしている。

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【総合順位3位】Connect Afya by Connect Afya(スポンサー賞も受賞)

(メンタリング担当:グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー COO 今野穣氏)

Connect Afya は「アフリカの平均寿命を先進国並みに引き上げることをビジョン」に、ケニアを中心に、検査ラボ、医療機器卸、クリニックを展開するスタートアップだ。人口が増え続けるアフリカだが、多くの国で医療インフラが不足している。治療、予防、研究の全てにおいて必要となる「検査」の市場を押さえることから着手した。

ケニアでは、私立医療機関トップ10との取引関係をベースに、民間による新型コロナワクチンの PCR 検査で8%のシェアを獲得した。同社ではこのネットワークを拡大し、PCR 検査以外にも、HIV/AIDS、糖尿病、がんの検査に広げ、一方で、世界的な製薬メーカーとも取引関係を拡大し、アフリカ医療版の「モノタロウ」を目指すとしている。

【総合順位4位】Smart Eye Camera by OUI(審査賞2位タイも受賞)

(メンタリング担当:JAFCO プリンシパル 沼田朋子氏)

慶應大学病院に勤務する眼科専門医の清水映輔氏が創業した OUI は、2025年までに世界の失明を半分にすることをビジョンに掲げるスタートアップだ。世界中で4,330万人が失明などの視覚障害に苦しんでいるが、失明原因の半分は白内障で、治療すれば治るもの。治療ができない原因の多くは、眼科医不足と医療機器不足だ。

既存の眼科診療機器は高価であるのに対し、OUI はスマートフォンアタッチメント型眼科医療機器の Smart Eye Camera(SEC)を開発。眼の検査を安価かつポータブルなデバイスで可能にする。特に失明で苦しむ人が多く、医療改善の余地がある東南アジアや中南米で100台以上の SEC が使われているそうだ。

【総合順位5位】Online Dispute Resolution by Civitas

(メンタリング担当:ANOBAKA 代表取締役社長 パートナー 長野泰和氏)

ソーシャルメディアの普及で誹謗中傷の事案が増える中、これらの被害者のうち弁護士に相談した人は2割以下で、その7割近くの人々が相談しない理由を「相談料が高そう」と答えたという。事実、相談料は高額となるケースがあり、慰謝料を取ることができても赤字になってしまうことさえある。

キビタスは、ツールによる法律文書作成支援、弁護士ら専門家による紛争解決サービスなどにより、法的紛争を安価に解決するソリューションだ。来年には、裁判外紛争解決手続(ADR)を取得する計画。リスティング広告でテスト運用したところ、60件の問い合わせが得られたという。DoNotPay や LegalZoom などがベンチマーク。

【ベストグロース1位タイ】Matilda by Matilda

(メンタリング担当:インキュベイトファンド Paul McInerney 氏)

共働きで子供がいる世帯では、毎日の食事を作るのは非常に手間だ。フードデリバリは味が濃く、ミールキットは手間がかかり、冷凍や作り置きのものでは食べる気が起きない、などの課題がある。「マチルダ」では、料理を作る人・食材・料理の意図を見える化し、限りなく家庭料理に近い体験を届けることを目指す。

調理から6時間で届けるためチルド配送を採用、料理をセントラルキッチンから玄関先まで配送するのではなく近所のステーションでピックアップしてもらうことで、高コストとなるラストマイル配送をを排除した。土曜日締切の週単位サブスクで受注。現在、東京・勝どきと豊洲にステーションがあり、ドミナントエリア戦略で拡大する計画。

【ベストグロース2位タイ】Nossa 360 by Nossa

(メンタリング担当:WiL General Partner & Co-founder 松本真尚氏、インキュベイトファンド 代表パートナー 和田圭佑氏)

「遠隔臨場」をキーワードに建設業の現場では政府主導でリモートワークを進めようとする機運が高まっているが、現状のビデオ会議ツールを使った仕組みにはいくつかの課題がある。対面でのミーティングでは使えるが、向かい合っていない状況にある現場では使えいにくい、閲覧者側が対話の主体になりづらい、などだ。

Nossa は、360 度映像を用いたコミュニケーションツール「Nossa360」を開発。360度カメラにインストールできる、超低遅延の通信システム(通常5〜30秒だが、Nossa360 では0.3秒)。閲覧者は URL のみで Web ブラウザで閲覧でき、360 度映像なので閲覧したい方向を自由に操作して閲覧できる。

koyoi by SEAM

(メンタリング担当:W ventures 代表パートナー 新和博氏)

コロナ禍で飲食店での酒提供が難しくなったことをきっかけに、〝家飲み〟の習慣・文化は以前に増して定着した。一方で、滞在時間の長い家で飲んでいても深酒にならない、普段は飲めない珍しい酒を飲みたいという需要が生まれ、ビールや酒造メーカー各社からも低アルコール飲料の新商品が続々と発売されている。

SEAM は、低アルコールのクラフトカクテル D2C「koyoi(コヨイ)」を展開。低アルコール、ナチュラル製法、多種多様なラインナップを特徴としたクラフトカクテルをパーソナライズで購入できるサービス。多種多様な種類を素早く展開、原料にお金をかけ中間マージンをかけないことでじいつげんするプレミアムテイスト、データドリブンなマーケティングで差別化する。

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アセント・ロジ by ascend

(メンタリング担当:Bonds Investment Group 代表取締役 兼 代表パートナー 野内敦氏)

ascend は、運行管理業務のデジタル化を通じて、運送案件のデータ化を促し、経営改革に資するインサイトを提供する BI-SaaS 「アセンド・ロジ」 を開発。一般貨物運送会社の運行管理者にダッシュボードを提供することで、配車表や各種帳票の作成などでデータを二重入力する手間を排除する。

ascend がターゲットとするのは、一般貨物の地場配送の運送会社だ。これらの事業者へのシステム導入はオンボーディングコストが高く、潜在的な競合事業者には参入障壁となる。行政・業界団体とも連携しつつ、ダイナミック・プライシングやマッチングプラットフォーム、SCM 連携機能等、実際に収益を改善するための開発を進める。

roundz by roundz

(メンタリング担当:Z Venture Capital 代表取締役社長 パートナー 堀新一郎氏)

声のバーチャルオフィス 「roundz(ラウンズ)」はテレワークなどのリモートチームにおける会話を加速することでチームのエンゲージメントを高め、生産性を引き上げることを目指すプラットフォームだ。

roundz の機能は、音声と画面共有の機能のみだ。カメラを使わないので、例えば、周囲に子供がいる環境で仕事をしていても、気兼ねなく誰かからの呼びかけに応えることができる。何かしらの作業に集中しているときは、それを他の同僚に明示して声をかけないようにしてもらうこともできるし、常時はミュートされていて、キーを押している間だけ音声がつながる仕組みもプライベート空間の維持に役立つ。

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Parame by Parame

(メンタリング担当:伊藤忠テクノロジーベンチャーズ President & CEO 中野慎三氏)

Parame(パラミー)」は、人材採用時に必要となるリファレンスチェックサービス。企業の採用担当者はプラットフォーム上で質問を作成、その URL を候補者から候補者の前職の上司や同僚に渡してもらうことで、面接だけでは知れない候補者の性格やスキル面、実績などの候補者の情報を取得し、採用のミスマッチリスクを最小化する。

リファレンスデータが個人のデータにアカウントに蓄積されていくしくみを構築しており、ローンチから1年半で90社以上が導入。2023年までに5万人分のデータの蓄積を目指しており、蓄積されたのデータを元に、2024年に人材マッチング市場への参入し、事業会社やヘッドハンターに情報提供する事業を計画している。

AgriPedia by AgriPedia

(メンタリング担当:STRIVE パートナー 根岸奈津美氏)

コロナ禍で売上は3割下がりながら、販路を農協にのみ依存していて他の販路開拓ができないのが中規模農家の抱える課題だ。直販プラットフォームが存在する B2C 農産物と異なり、品質の保証(サイズや形の指定など)、安定供給(複数農家とネットワークを組む必要がある)、物流を自前で用意する必要があるなどの理由から B2B 農産物の直販プラットフォームは皆無なのが現状だ。

Agripedia は、B2B 農産物の直販プラットフォームを開発。複数の農家をネットワークし、物流システムなども構築。農産物の〝生きた〟余剰在庫情報を手に入れることで、カット野菜製造業者、惣菜業者、冷凍食品業者などの需要とマッチングさせる。当初は価格が定期仕入れの6倍となるスポット仕入れから着手し、将来は定期仕入れの流通チャネル確保にも注力する。

GYMDX by Opt Fit

(メンタリング担当:iSGS インベストメントワークス 取締役 代表パートナー 佐藤真希子氏)

さまざまなトレーニング設備を持つスポーツジムは人気を集めたが、コロナ禍で状況は一転し。多くの有人スポーツジムが営業赤字に転落した。代わって、営業成績が好調なのが無人型の24時間運営のジムで、有人スポーツジムの中には無人型のジムに業態転向したり、無人型の新業態を開発したりするところも出てきた。

無人型スポーツジムではセキュリティ会社と提携しているが、事件や事故の際に当事者が自分で通報するのは難しい。Opt Fit の「GYMDX」では50万件以上の教師データをもとにした画像解析で、ジムで異常な行動・事態に遭遇した場合に自動検出し、救急車の手配や遠隔施錠ができる。個人追跡技術により、会員ごとのトレーニング内容を可視化できる。

Bizibl by Bizibl Technologies

(メンタリング担当:ジェネシア・ベンチャーズ 代表取締役 General Partner 田島聡一氏)

Bizibl Technologies は、イベントのオンライン開催ツール「Bizibl(ビジブル)」を開発。採用イベントやリード獲得のための営業セミナーといった、さまざまな法人の用途で使われている。他のイベントのオンライン開催ツールは、動画配信やチケッティングなど複数のツールを組み合わせて使うことが多いが、告知ページの作成、当日の開催、参加者管理やレポーティングがワンストップで利用できるのが特徴。

ワンストップで利用できることから、KPI データが複数プラットフォームに分散せず、施策を検討する上でデータの活用がしやすい。開催を通して参加者の行動 / 属性ビッグデータが蓄積されるため、参加者情報の資産化や、詳細なイベント分析が可能となる。今後は Run The WorldHopin といった海外のオンラインイベントツールもベンチマークしながら、海外進出も目指したいとしている。

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TRANSELLA by LIFEHUB

(メンタリング担当:サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役社長 近藤裕文氏)

LIFEHUB は、人間の脚と同じように移動可能な次世代型車椅子「TRANSELLA」を展開。人間の脚に車輪を付けたような構造をしており、従来の車椅子と異なり、しゃがむ、立ち上がる、段差を乗り越える、エスカレータに乗ることが可能。小型化技術に得意な日本製部品を中心に構成されている。

空間的な移動により、従来の車椅子にあった移動経路の不自由さや補助の必要性といった課題を解決する。まずは高齢者・障碍者向けに高機能車椅子として展開。将来は、階段の昇降や自動運転、B2B でのシェアリングモビリティサービス、海外展開を目指す。購入では1台150万円、サブスクでは介護保険適用で実質月額1万円で提供を予定。

シスクル by DXER

(メンタリング担当:インキュベイトファンド 代表パートナー 村田祐介氏)

DXER が2021年7月にローンチした「シスクル」、SaaS の設定を可視化し、システムにおける権限設定を自動化する SaaS。情報システム部門の領域に特化した副業・フリーランス人材が恩ボーディングを支援する。主に、従業員規模 30~200名規模の IT 企業、上場企業のコーポレート部門が利用している。

ラクスルの「ジョーシス」やマネーフォワードの「マネフォーワード IT 管理クラウド」が経営者視点で作られているのに対し、シスクルはセキュリティ管理をパトロールする仕組みなどで、より情シス現場の視点で作られている点で差別化したという。人事データを元にクラウドツールとのグループ同期を実現するソフトウェアをリリースする予定。

キャピタリスト賞(起業家がメンターのキャピタリストを評価)

キャピタリスト賞1位:インキュベイトファンド 代表パートナー 村田祐介氏
キャピタリスト賞2位:グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー COO 今野穣氏
キャピタリスト賞3位:サイバーエージェント・キャピタル 代表取締役社長 近藤裕文氏

Incubate Camp は2010年から通算で13回開催され(今回を入れ14回)、230名以上を選出している。他のファンドからの調達も含めた、これまでの Incubate Camp 出身スタートアップの資金調達合計額は500億円以上に達している。

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