米フードデリバリ大手Instacart、スマートチェックアウトのCaper AIを3.5億米ドルで買収

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Image credit: Instacart

Instacart は19日、リアル店舗でのチェックアウト体験を自動化する技術を開発するスタートアップ Caper AI を現金と株式を合わせ、約3億5,000万ドルで買収したことを発表した。今回の買収により、Instacart は、小売業者が「顧客のために店舗とオンラインのショッピング(フロー)を統一する」ことを目指すとしている。

Caper のニューヨーク拠点の従業員は Instacart に参加し、Instacart の既存の製品開発チームにハードウェアエンジニアリングの人材として加わる。今後、Instacart は Caper の技術を Instacart のアプリや提携小売店の e コマースサイトやアプリに連携し、顧客がオンラインで買い物リストを作成したり、事前にレシピを閲覧したり、買い物中にリストをチェックしたりできるようになることを期待している。

Instacart の CEO Fidji Simo 氏は、声明の中で次のように述べている。

Instacart は、長年にわたり小売店向けのサービスを拡大し続け、北米の実店舗を持つ食料品店がビジネスをオンライン化し、成長し、顧客の進化したニーズに応えることを支援してきた。今後は、小売業者がオンラインショッピングとリアル店舗での買い物の両方で消費者のニーズに応えることができる、統一されたコマースサービスを開発するための方法をさらに増やすことに注力していく。

AI を活用したショッピング

Caper は、2016年に Lindon Gao 氏と York Yang 氏によって設立された。ジュエリーメーカー JPG Crafts の社長である Gao 氏は以前、ゴールドマン・サックスや J.P.モルガンで投資銀行のアナリストを務めていた。

Gao 氏は、プレスリリースの中で次のように述べている。

我々が生み出したパワフルなテクノロジーは、顧客にとって直感的で、あらゆる規模の小売業者にとって導入しやすく、これまで存在しなかったフィジカルリテールのエコシステムを生み出した。我々は、食料品小売業者のビジネスに一歩進んだ変化をもたらす新しいイノベーションを実現するという Instacart のビジョンを共有しており、 Instacart と協力して小売業者のオンラインとオフラインを結びつけるソリューションをさらに開発できることを誇りに思う。

Caper は、「Caper Cart」と「Caper Counter」という2つの製品を提供している。

「Caper Cart」
Image credit: Caper AI

Caper Cart は、画像認識とカメラを使用してアイテムを検知し、デジタルショッピングリストに追加するショッピングカートだ(Amazon の「Dash Cart」のようなもの)。買い物客が商品をカートのカゴに入れると、2,000万枚以上の画像データベースで学習したアルゴリズムによって商品が認識され、カートに取り付けられたスクリーンを介して、パーソナライズされたお勧め商品や近くのお得な情報が提供される。また、商品の重さを自動的に計測したり、店舗内の商品を検索して案内したりする位置情報サービスも近日中に提供する予定だ。

また、「Caper Counter」は、AIとカメラを採用し、バーコードなしで商品をスキャンすることで、従来のセルフレジに代わって、5つの異なる角度から商品をスキャンして取引を完了する装置だ。このカウンターでは、プロモーションの提供や、デジタルディスプレイによるデジタルレシートの提供のほか、盗難防止のためにスタッフが行動を監視したり、見慣れない商品の画像を Caper の画像認識データベースに追加したりすることもできる。

「Caper Cart」は、重さや大きさで価格設定された商品を正確に販売できることを証明する連邦政府の「NTEP(National Type Evaluation Program=米国型式承認制度)」にアメリカで初めて承認されたもので、現在、Kroger と Wakefern、カナダの Sobeys、フランスとスペインの Auchan に導入されている。これに加えて、コンビニエンスストアに設置されている Caper のスマートレジカウンターもある。

「Caper Counter」
Image credit: Caper AI

Caperは買収されるまでに、Lux Capital、FundersClub、HCVC、First Round Capital、Red Apple Group、Redo Ventures、Precursor Ventures、Y Combinator から1,300万米ドルのベンチャー資金を調達していた。

Simo 氏は次のように述べている。

Caper AI チームを Instacart に迎えることができて、とても嬉しく思っている。我々は、競争が激化する業界で成功するために、小売業者に新しく革新的な技術を提供するとともに、顧客に最高の体験を提供するという同じ目標を共有している。Caper のスマートカートとスマートチェックアウトのプラットフォームを世界中のより多くの小売店に提供し、食料品の未来を共に再構築していけることを嬉しく思う。

また、当社のエンタープライズ・テクノロジー・サービスへの投資を継続し、北米の小売業者の包括的な e コマース・プラットフォームを強化するための新しいソリューションを提供していく。

スマートリテールブーム

Instacart による Caper の買収は、小売店向けに事前注文とケータリングのソリューションを提供する FoodStorm の買収に続くものだ。これは、 Instacart のエンタープライズ・テクノロジー・サービスへの一連の投資の中でも最新のもので、同社はデリバリ以外の新しいビジネスラインを模索する中で、2017年に Aldi、Costco Canada、Heinen’s、Kroger、Publix、Sprouts、The Fresh Market、Walmart Canada、Wegmans といったパートナーに提供を開始した。

Instacart は、北米最大級のオンライン食料品プラットフォームであり、600以上の小売業者が5,500以上の都市の55,000店舗から配達を行っている(同社は、アメリカの85%以上の世帯とカナダの90%以上の世帯が、同社のサービスを利用していると推定している)。 最近、Instacart は2億6500万米ドルの資金調達を完了し、時価総額は昨年10月の2倍に当たる390億米ドルに達した。

しかし、買い物客、配達員、レジ係の専用ネットワークを維持するという課題を考えると、デリバリはハイコストな事業だ。今週、Instacart の50万人の買い物客のうち約1万3,000人のネットワーク「Gig Workers Collective」が、同社の低賃金と労働者とのコミュニケーション不足に抗議してストライキを行った。Instacart は、第2四半期には約1,000万米ドルの利益を上げたと報じられている。しかし、2019年の時点では、毎月2,500万米ドルの赤字を出していた。パンデミックでオンライン食料品の購入額が1兆米ドルにまで跳ね上がったにもかかわらず、このような状況になってしまったのだ。

収益を上げるために、Instacart は、消費者向けパッケージ商品の企業が Instacart アプリのユーザに自社製品を宣伝できるツール「Instacart Advertising」など、企業向けサービスを拡大してきた。また、7月には、大都市圏の密集地での運用を想定したロボットによるマイクロフルフィルメントサービスを提供するスタートアップ Fabric と共同で、新たなフルフィルメントソリューションを開始した。また、FoodStorm の買収に伴い、小売店が青果やパッケージ商品などの食料品よりも一般的に収益性の高い調理済み食品を予約販売する方法の提供を開始するとしている。

Instacart は、計画的な事業拡大の一環として、2021年に従業員数を50%増加させる予定だと述べている。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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