カーブアウトスタートアップの成長、中国進出のリアル/Onedot鳥巣氏・東大IPC水本氏 #BRIDGE_Tokyo_Meetup

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本稿はベンチャーキャピタルが紹介する旬のトレンドやスタートアップを集めたセッション「BRIDGE Tokyo Meetup INTRO」で語られた話題をお届けします。11月実施のTokyo Meetup全セッションはこちらから。登壇希望のスタートアップはこちらからパートナーへご参加ください。

今回のINTROは、東大IPCパートナーの水本尚宏さんと、特別ゲストとして中国の育児メディア「Babily(貝貝粒)」を展開する Onedot(万粒)CEO の鳥巣知得(とす・ちとく)さんにご参加いただきました。

Onedot は、ユニ・チャームと、ボストンコンサルティンググループ傘下 BCG Digital Ventures の共同プロジェクトからカーブアウトした異色のスタートアップです。一人の子供に両親と双方の祖父母の合わせて6個の財布から金が注がれる「シックスポケット」という言葉に象徴される中国の子ども教育市場について、将来の可能性と課題について伺います。

中国に進出した起業家はまだ多くありません。Onedot は自らの事業を現地展開しつつ、シナジーを見出せる企業の中国進出も支援しています。中国の都市部では経済発展と社会成熟が進み、多くの人々がマス向け商品で満足しておらず、日本のプロダクトやサービスには大きな可能性があります。東大IPCさんには、日本スタートアップの海外進出支援という観点でもお話をお聞きしました。(本文の書き起こしは収録インタビュー動画の一部、文中敬称略)

Onedot と鳥巣さんについてご紹介ください。

鳥巣:Onedot という会社と、その100%子会社の万粒(ワンリー)の代表をしております。この会社は2017年に作ったんですけれども、その前はボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に6年ほどいまして、インターネット領域の仕事をしてました。その一環で BCG Digital Venturesという、新規事業をクライアントと一緒に作るっていうチームの立ち上げに関わり、我々の会社はその東京からの第一号案件です。

BCG には中途で入りまして、その前は Napster という、私と同じ世代の方はご存じの方が多いと思うんですけど、その日本法人の立ち上げをやっていました。その前には、学生の頃から小さな会社を友人と作ってやったりしていました。Onedot を作った瞬間からずっと上海におりまして、息子が2人いるんですが、2人とも上海生まれ上海育ちで最近は私よりも流暢に中国語を喋るようになってしまっています。

資本構成としては、Onedot という日本の法人が上にあって、そこに株主として東大 IPC さん含む各社がおられ、Onedot の100%子会社という形で中国法人の万粒があります。両社は実態としては完全にワンチームであり、中国の事業をやるために作った会社ですので、従業員・経営陣含めて9割は中国側にいて、社内の第一公用語は中国語で、slackも基本中国語で運用するみたいな感じになっています。東京にも支社があります。

Onedot は何を提供しているのですか?

鳥巣:主な事業としては二つあります。開始時からずっとやっている育児のメディアプラットフォームと、ここから派生して中国デジタル戦略・マーケティング支援事業として、主に日本のスタートアップや中国向けの大企業の新規事業、もしくは中小の会社様であってもその再成長を我々の経験まるごと使って一緒に共同事業としてやるみたいなことが最近少しずつ増えてきました。

経営陣としては私を含めて3名いて、私以外にはずっとリクルートにいた四川出身の薛さんというメンバーがいます。彼女は中国人ですが日本語も流暢で、中国・日本の両方の採用や管理を担当してもらっています。また、谷さんは中国の博報堂の JV にずっといて、上海で MBA を取得しました。社内では私が圧倒的に中国語が一番下手ですが、完全にカルチャーミックスで運営をしています。

経営陣は日本がバックグラウンドのメンバーが多いですが、その下のディレクタークラスだとほとんど中国出身です。社員の前職は、消費財とか教育系のスタートアップとかインターネット会社などが多く、そのほか、広告代理店やデジタルエージェンシーとかからの採用も多いです。今、上海にフルタイムで約70名ほど、東京に10名弱いて、どちらでも積極採用中です。

さて、Onedot は大手企業からのカーブアウトスタートアップです。沿革を教えてもらえますか?

鳥巣:冒頭にお話ししたように、Onedot は個人で作ったというよりは最初はコンサルティングのプロジェクトだったんです。それがいい感じだったので「事業化したい」となって、私は BCG を辞めまして、両社が出資してくれて会社を作って、ほぼ同時に上海に移住っていう感じで、バタバタと半年くらいで全てが進みました。

当初「Babily(貝貝粒)」という育児メディアを作って、それがワッと伸びてかなり人気を博しました。これはすごいなということで、マネタイズ始めたました。当初は SNS メディアみたいな感じでしたが、その後、自社のアプリを作ろうと考え、後ほどご紹介する WeChat のミニプログラムを始めました。マネタイズという意味ではメディアの広告事業もあるんですが、自社事業を徐々にプラットフォーム化することで、他社のマーケティング支援の事業も加えました。

当初、株主構成はユニチャームが過半数でしたが、独立したスタートアップの方がいろんなメーカーとも取引しやすいし、ガバナンス的にもスピード感が出ると考え、経営陣のインセンティブも含めて、東大 IPC さんにリードを取っていただく形で、昨年シリーズ  A ラウンドを実施しました。日本生命さんや住友商事さんからもご出資いただきました。

プロジェクトから始まったというのは面白い点ですが、設立当時やったことは今考えると(カーブアウトではなくスクラッチの)スタートアップがやるようなことをやり続けたな、という感じで、最初はひたすらユーザインタビューをしつづけました。中国中の有名都市を巡って、100人以上の妊婦さんやお爺ちゃんお婆ちゃんにインタビューしました。私は今でも中国人の一般の方よりは相当現地の育児事情に詳しいんですけども、それでニーズを洗い出して事業作ったみたいな感じです。

日本から中国市場をターゲットにするスタートアップはまだ珍しいですよね?

鳥巣:なんで中国で育児なんだって話なんですけども、まず分かりやすいのはでっかくて超伸びてるんですね。出生数は昨年から減って1,200万人ぐらいなんですが、かつて1,500万人と言われ、市場は50兆円あって、少子化は進んでいますが金額ベースでは二桁成長が続いている。中国より遥か前に日本は少子化が始まっていますが、日本でさえ育児やマタニティ市場の金額は伸びているんです。中国は一人当たりの消費単価は日本と同じレベルで高いので、マーケット規模ではまだまだ伸びそうだなと思っています。

ただ、育児以外にも言えることなんですけども、社会変化は本当に激しくて、特に生活習慣とか、こういう家族系のイシューということで言うとお爺ちゃんお婆ちゃん世代と親世代っていうのはかなりギャップがあって、日本で3〜4世代ぐらいかけて変わってきたことが中国で1世代ぐらいで変わったので、フリクションがすごく大きい。これが育児で起きると、親とは育て方が全然違って相談できないというペインがあって、もう少し科学的で現代的な育児方法を知りたいという意見がありました。

そして、もう一つのメガチェンジャーはメディアですね。我々が参入した2017年、まだ  TikTok はありませんでした(Tiktok が公開されたのは2018年)。Tiktok のおかげもあって僕らはすごくグロースしました。若い人たちは新しいものに適応するのが早いですが、ソーシャルメディアで情報収集する人だと日本のように雑誌を読むみたいな感じではないので、それに最適化された新しいサービスが必要になる。これら二つの変化が大きいので、いろんなスタートアップにとって機会になっているとに僕は思っています。

育児メディアの「Babily(貝貝粒)」は、どのように展開されているのですか?

鳥巣:肝は若い人たちの生活習慣とメディア商品に最適化するっていうところで、コンテンツもインターフェイスもソーシャルメディアですね。アプリも、もうネイティブアプリすらいらないミニプログラム(小程序)という WeChat(微博)ベースのミニアプリの進化したようなものがあり、これに特化してやっています。

病院の産婦人科と、このミニプログラムはオフラインのチャネルとすごく相性が良く、ネイティブアプリができないようなマーケティングができることもあって。だいたい年間100万人近くの妊婦さんに参加していただき、これは結構競合優位になっていると思います。もともとの SNS ベースのコンテンツ配信も結構まだ強みで、引き続き拡大をしています。

ミニプログラムはライトなアーキテクチャなので、いろんなものを簡単に作って出せるのですが、たとえば妊娠期は体重管理といった、非常に重要な健康イシューを扱っています。また、帝王切開を減らさなきゃいけないなどの課題もあり、そういったミニアプリをオフラインで病院のお医者さんに勧めていただいてます。コンテンツは動画を中心に、中国の TikTok などで配信しています。

育児メディア以外には、どのような事業をされているのですか?

鳥巣:最近中国で最も熱いマーケットはペットと言われています。そのペットっていうのは日本とまたちょっと違って、若い女性が猫を飼うような、子育てっぽいペットです。これが育児と非常に似てるのもあって、最近始めたところなのですが大変伸びてて面白いです。また、マーケティング支援事業を展開するほか、サプリメントを作り販売するようなこともスモールトライアルしています。

中国のペットは、昔はおじちゃんが鳥カゴで鳥飼うみたいだったのが、今はもう本当に子どもの代わりに上海に住む若い女性が猫を飼うみたいになってきています。健康意識はすごく違っていて、若い中国の方って、ペットにもそれを適用してて、たとえばペットがちょっと吐いちゃったりとかすると、すごく心配になる。我々の社員にも若い女性が多いので、もう半ば自然発生的に立ち上がって、こういうのが欲しいって言ってですね。それで健康管理ツールみたいなのを出したところユーザが今10万登録ぐらいまで伸びています。

マネタイズは、健康記録して異常発見だけだとできないんで、解決フェーズとして動物病院を調べて予約するというところまで提供していまして、上海で100軒ぐらいの病院が予約できるようになっています。ここに送客して診療費の何%かいただくというモデルでマネタイズも始めてます。このペットマーケットはこれからかなり日本でも話題になるんじゃないかなと思います。日本はおそらく1.6兆円とかですが、上海のペット市場はすでに3兆円超えてるらしく、これが今後、2倍、3倍に成長すると予測されています。

我々が得意とするのは、大きく2つあって、一つは育児系とか消費財メーカーさんの中国事業の全体支援ですね。新規進出もそうですし、進出しているところも一緒に全般やるっていうような総代理的なやり方です。スタートアップだと最近 D2C のメーカーさんもいらっしゃるので、彼らが中国にに進出するときのパートナーになれればいいなと思います。

もう一つは、デジタル事業創造ですね。メディアとか、アンチエイジングメディアというのをTikTokで作ったりとか、インバウンド医療で中国から日本に来る患者さんのプラットフォームを作ったりとか、ネイルのコンテンツ配信をしたりとか販売をしたりとかっていう、プラットフォーム作りを多くやってきたので、唯一無二のプレイヤーになりつつあるのかなと自負しています。

中国市場に進出しない理由として、「中国はよくわからないから」と言われる企業担当者は多いように思います。この意見については、どう思われますか?

鳥巣:中国が分からないというのは、たぶん詳しくないという意味ではなくて、インターネットインフラが日本と欧米は基本的には共通していると思うんですけど、中国はインフラが違うからでしょうね。検索はBaidu(百度)とか RED(小紅書)だったり、Eコマースの場所も違うし、言葉も違うというのもあって、わざわざ中国のためにだけ特化して体制作ったりとか組織として学習するっていうコストは高いんだと思うんですね。

我々は中国だけやってるっていう点で、そこをカバーできるのは結構大きいのかなと思います。とはいえ、中国展開は、伝統的に大きな商社さんやコンサルや代理店さんがとか活躍されている領域だと思うのですが、我々はどちらかというと、そこでも事業創造とかスタートアップ的なやり方で事業展開をお手伝いすることが多いです。ドカンと出店して大きなキャンペーンを打つとかではなく、段階的にリーンにやって、グロースからっていうような立ち上げ方でやるのは社内に DNAとして根付いているので、そういうプロトコルが似ている会社さんとはやりやすいと思います。

最後に、中国市場のスタートアップにとっての魅力は何でしょうか?

鳥巣:私が感じる中国でのスタートアップにとってのオポチュニティという点では、中国は最近、10年に1回ぐらいと言われている大きな変化が多いんです。一つには、やっぱり TikTok みたいなものの勃興により、消費財は Alibaba(阿里巴巴)で売ればいいんじゃないのみたいなのが、最近そうじゃなくなってきました。プラットフォームが強すぎるとプレイヤーって出づらいんですよね。

例えば、中国の D2C スタートアップの最近の典型的なやり方は、デカいモールにショップをオープンする前に、自分たちが小っちゃいショップを作ってインフルエンサー(KOL)をひたすら訪ね歩いて、「うちの商品こんなんです」って紹介しながら売り歩くみたいなのがあります。そういう売り方だったら日本企業もできるんじゃないかということで、スタートアップ的なやり方で中国展開を支援するケースは結構多いですね。

中国って言うと、「規制は大丈夫なの?」ってよく聞かれるんですけども、特にネット・デジタル領域で言うと、一番懸念されるのはプラットフォーマーを外資がやるっていうのは政府は許さないような思想らしいですが、プレーヤーとして Tencent(微博)のプラットフォームで WeChat のミニプログラムを出すようなことはかなりフレキシブルにやれます。

変化が激しいことは、スタートアップにとってチャンスがその変化の都度あるということでいいことだ思うので、私は新規事業にとってはこれが最大の魅力だと思います。KOL が物を売るとか、そこから買うものが増えるとかみたいな流れは、もう確実に世界中で来ると思うんですよね。欧米は日本より先に少し進んでいると思いますが、中国は違うものに見えるんですけど、将来の日本なのかもしれない体験に触れられる意味でも、大変やりがいがあると思います。

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