高まる気候テックへの関心、ビジネスモデル変容の後押し材料にも【Canvas 11月号(10月30日〜11月5日)】

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高まる気候テックへの関心、ビジネスモデル変容の後押し材料にも

今週の話題(10月30日〜11月5日):CO₂排出量可視化クラウド「zeroboard」運営、DNX VらからプレシリーズA資金を調達——累積調達額は3億円に

先週は、イギリス・グラスゴーで COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催されました。ニュースでは反対デモの様子ばかり映っていましたが、クライメートテック(気候テック)のスタートアップのアクションが、こうした会議周辺で繰り広げられるようになってほしいものです。偶然か必然か、日本からは今週 zeroboard、先週は Sustineri が資金調達を発表しました。

zeroboard は元々、先週のホバーバイク「XTURISMO」の発表で世界的に知られることとなったドローンスタートアップ A.L.I. Technologies の一事業としてスタートしました。A.L.I. の事業内容は非常に面白く、以前、ディープラーニング向け GPU クラウドを運営する Pegara への出資のニュースで触れましたが、コンピューティングパワープール事業なども展開しています。

「zeroboard(ゼロボード)」
Image credit: Zeroboard
  • 今週、2年ぶりに in-person(対面形式)で開催された世界的スタートアップカンファレンスのピッチコンペティションでも、地元ポルトガルの Smartex という衣料ロスを抑制する技術を開発するスタートアップが優勝しました、改めて考えてみると、食糧ロスと衣料ロスは、問題が生じてしまう根本的構造が非常に似ているように思います。
  • 需給バランスが取れればムダが生じないはずですが、どちらも供給が過多になっています。オンラインであれオフラインであれ、店ではお客が何を欲しいと思ってやって来るかは事前に予想できないため、幅広の選択肢を十分な量用意することで欠品を防ごうという、大量生産・消費社会の発想が前提にあります。プリオーダー・カスタムフィット商品は、既製品よりもまだまだ高価です。
  • 嗜好性や環境要因などのデータが揃えば、人それぞれの行動はより高い確率で AI 予測できるようになるので、需要を見越した商品供給が、食料や衣料の分野で実現できる日が来るように思えます。そうなると、「あの人が持っているものを私も欲しい」という概念は少数派となり、ブランドというものはデザインや作風より、社会課題に対する姿勢が重視されるようになるのではないでしょうか。

注目の数字とトレンド

今月特に注目を集めた数字やキーワードをお伝えします。

Photo by Pixabay from Pexels

インドのスタートアップ界、今年は211もの新ファンドが参入

  • CB Insights と Tracxn がまとめたデータによると、インドのスタートアップは、今年のこれまでに VC ファンド597社から2,284件の調達を実施した。2021年1~9月の投資総額は過去最高の195億米ドルを記録したが、そのうち95億米ドルは7~9月に実施された。出資金は519の案件に分配されており、今年上半期に比べて平均的なラウンド調達規模は大型化している。インドの公開株指数 SENSEX は、年初から25%上昇。一方で、Paytm の上場時には株価が27%下落し、次の取引日にはさらに13%下落した。
  • このスピードが実現できた裏には、インドのスタートアップ界に211もの新規ファンドが参入したことが上げられる。また、アメリカからは、Andreessen Horowitz、TCV、Vitruvian Partners、GSV Ventures などが進出しているほか、2014年に一度撤退した Kleiner Perkins もインド市場に戻った。Refinitivによると、今年1月〜9月で900億ドル相当の M&A が成立し、前年同期比35%増となった。また、インドの赤字スタートアップ35社が評価額10億米ドルを突破し、ユニコーンとなった。

どんな投資家がデカコーンに投資しているのか?

  • Crunchbase のデータによると、Sequoia Capital はデカコーン(時価総額100億米ドル以上)に投資する VC の中でトップの存在だ。デカコーン19社に合計78件の投資を行っており、デカコーン全体の20%以上に出資していることになる。また、各デカコーンに平均4.1件の投資を行っていることになる。これまでに84社のデカコーンが誕生し、そのうち33社が IPO した。一方、香港の PE 企業 DST Global は、投資先に含まれるデカコーンの数が最も多く、24社となっている。
  • Khosla Ventures は、デカコーンへの投資は21件にとどまっているが、1社あたりの平均投資額は5.3億円でトップ。一般的に、こうしたファンドはデカコーンに2~3回投資する。例外は SV Angel で、14社に出資しているが、SV Angel から大きなフォローオン投資はあまりない。Kleiner Perkins は、シリーズ C+ に出資する傾向が強い。GIC はデカコーン1社あたりの平均投資額が最も高く、約60億ドルとなっている。ソフトバンクの平均ポジションは20億米ドルである。

中国における IPO での資金調達額、7年ぶりに減少へ

  • Dealogic のデータによると、中国のテック企業の IPO 資金調達額は7年ぶりに減少すると予測されている。2021年に中国のテック企業が調達した資金は140億米ドルで、2020年に比べて23億米ドルの減少となった。11月や12月は中国では伝統的に閑散期であることから、この残りの2ヶ月で昨年との差を埋めることはほとんど期待できない。
  • この低迷は、明らかに中国政府による規制圧力が増したことによるものだ。一部業界では株価が暴落し、企業は中国内外での IPO に消極的になっている。株価指数の CSI300 は今年に入り約6%下落。AIスタートアップの Megvii(昿視)など、注目を集めた多くの企業の IPO が無期限延期された。また、中国政府は香港市場に上場する企業にサイバーセキュリティ対策を求めると発表した。

メタバース分野への出資総額、100億米ドルを突破

  • メタバース分野には104億米ドルが出資され、大企業が積極参入していると Crunchbase が伝えた。これまではメタバースの中でもゲームへの出資が多かったが、最近では、オンラインゲーム、AR(拡張現実)、バーチャルワールドへの出資も増えた。Facebook 改め Meta を除けば、Roblox が最大のメタバース事業者だ。Roblox 上では、Chipotle がバーチャルレストランを開店、Lil Nas X がバーチャルコンサートを開催するなど異業種の参入も盛んだ。
  • この分野では、The Sandbox や Mythical Gaming が大型資金を調達したのは記憶に新しい。メタバースの発展に関連し、その周辺を支援する、決済、ハードウェア、ネットワーク分野のプレーヤーの資金調達が活発化する可能性がある。ブロックチェーン技術は、ユーザにデジタルアイデンティティを提供し、仮想経済を促進することで、メタバースにおいて大きな役割を果たすことが期待される。この動きは、e コマースの発展と共に、それを支える決済や物流系の周辺プレーヤーが発展してきたのと似ている。

今年の米 IPO した企業の時価総額合計が1兆米ドルを突破、新興EVメーカー Rivian の大型 IPO が貢献

  • Pitchbook のデータによると、2021年のアメリカでの IPO はこれまでに981件に達し、公開企業の時価総額合計が1兆米ドルを超えた。この記録達成の最後の追い風となったのは、EV メーカー Rivian の超大型 IPO で、これだけでイグジットバリューベースで時価総額560億米ドルが最終的に追加された。Rivian の IPO 規模は119億米ドルで、これまでのところ今年最大規模。
  • Rivian の上場時の時価総額は、Coinbase の上場時の時価総額858億米ドルに及ばなかった。Coinbase の現在の時価総額は710億ドル弱で、Rivian の時価総額は取引初日に株価が29%上昇したことで約1,050億米ドルだ。また、最近上場したスタートアップで時価総額上位には、450億米ドルの Roblox、300億米ドルの Robinhood、277億米ドルの UiPath などがいる。

インドの今年のスタートアップシーン、ベンチャー投資額は過去最高でユニコーン17社を輩出

  • Crunchbase によると、インドの今年のベンチャー投資額は、年末をまだ迎えていないこれまでの段階で350億米ドルに達する勢いで、過去最高を記録した2020年の338億米ドルをすでに上回った。今年はこれまでに、過去最多となる17社のインドのユニコーンが誕生している。インドの今年のスタートアップ資金調達総額は、これまでに267億ドルに達した。
  • このブームの背景には、インドの株式公開市場に対する信頼の高まり、政府規制の強化で中国を嫌気した資金の流入などがある。Goldman Sachs は最近、インドの株式公開市場が5兆米ドル以上に成長すると予測した。これは世界第5位の規模となる。ベンチャー資金の大半は外国人投資家からによるものだ。

世界のエドテックタートアップ、今年の調達額は138億米ドルを突破——IPOを続出が追い風に

  • Pitchbook によると、エドテックスタートアップは、2021年のこれまでの時点で、世界全体で138億米ドルの新規投資を受けた。この数字は、2020年にエドテックスタートアップに投じられた137億米ドルをすでに上回っている。アメリカでは、Coursera が3月下旬にニューヨーク証券取引所で40億ドルの評価を受け、Duolingo がその数カ月後に NASDAQ で37億米ドルの評価を受けた。
  • アメリカ以外では、インドの Byju’s の時価総額はすでに180億米ドルを超えており、400〜500億米ドル規模での上場を目指している。子供向け教育アプリ「Badanamu」を運営する韓国の KidsLpp は時価総額が100億米ドル(デカコーン)に達している。オンラインアカデミーの Udemy は5日、37億米ドルの時価総額で上場したが、上場価格から7%下げての取引開始となった。

国民一人当たりスタートアップ投資額が最も高いのはシンガポール

  • Crunchbase によると、国民一人当たりスタートアップ投資額が最も高いのはシンガポールで1,398米ドルだった。次いでイスラエルの959米ドル、エストニアの915米ドル、アメリカの808米ドルと続いた。中国とインドには巨大な VC 市場が存在するが、国民一人当たり投資額は大きなものにならなかった。アメリカを除き、人口の多い国ほど国民一人当たりスタートアップ投資額は低くなる。
  • 昨年、世界人口第4位のインドネシアの国民一人当たりスタートアップ投資額は14米ドル、世界人口第5位のパキスタンの国民一人当たりスタートアップ投資額は1米ドルだった。Crunchbase の資料にはないが、日本の昨年の国民一人当たりスタートアップ投資額は34米ドルで中国に続き世界22位。また、特筆すべき国として、ブラジルが20位の50米ドルに急上昇した。

今週の調達ニュース

今月の国内スタートアップの主要な資金調達ニュースをお届けします。

不整地作業向けサービスロボット開発のCuboRex、プレシリーズAで7,500万円を調達——累計調達額は1.3億円に(11月5日)

  • CuboRex は、プレシリーズ A ラウンドで約7,500万円を調達したと発表した。このラウンドには、Open Network Lab、DRONE FUND、名前非開示の個人投資家2名が参加した。同社は時期を明らかにしていないが、プレシリーズ A ラウンドに先立ちシードラウンドを実施しており、シードラウンドとプレシリーズ A ラウンドを合わせた累計調達額は1.3億円に達した。

シェア買い「KAUCHE(カウシェ)」、デライトVとSBIから8.1億円を調達——辞めた社員にもSO行使できる制度導入へ(11月4日)

  • カウシェは、直近のラウンドで8.1億円を調達したと発表した。デライト・ベンチャーズと SBI インベストメントが参加したこのラウンドは、昨年11月に実施した1.8億円の調達に続くものだ。同社では一定のマーケットフィット完了を確信し、資金をエンジニア、マーケッター、バイヤーの拡充に充てる計画だ。

東京でアパートメントホテルを運営するSection L、シードラウンドで100万米ドルを調達(11月1日)

  • Section L は、シードラウンドで Feedback Ventures や名前非開示のエンジェル投資家から100万米ドルを調達した。

東大発・衛星推進機開発のPale Blue、4ファンドから4.7億円をシリーズA調達——デットを含む累積調達額は10億円に(10月30日)

  • Pale Blue は、シリーズ A ラウンドで4.7億円を調達したと発表した。このラウンドには、インキュベイトファンド、三井住友海上キャピタル、スパークス・イノベーション・フォー・フューチャー、KURONEKO Innovation Fund(ヤマトホールディングスとグローバル・ブレインが運営)が参加した。

アジアのニュース

今月のアジアのニュースをお届けします。

インドのオンライン決済大手Paytm、IPOアンカーラウンドで820億ルピー(約1,250億円)を調達(11月5日)

  • Ant Group(螞蟻集団)が支援するインドのオンライン決済大手 Paytm は、1,830億ルピー(約2.800億円)を調達する IPO の一環として、アンカー投資家から820億ルピー(約1,250億円)を調達したと、消息筋の話を引用して The Economic Times が報じた。
  • このアンカーラウンドは、BlackRock、Canada Pension Plan Investment Board、GIC がリードインベスターを務め、彼らは合計で250億ルピー(約380億円)を投資した。このラウンドは予定調達額の10倍のオーバースクライブとなり、122のファンドがPaytm の IPO に入札を行ったと関係者は述べている。

Binance(幣安)からの資金調達で、メタバース企業SecondLiveの時価総額が3,000万米ドルに(11月4日)

代替肉、介護DX、バーチャルヒューマン制作元などが資金調達——韓国スタートアップシーン週間振り返り(11月4日)

NFTメタバース「The Sandbox」運営、シリーズBで9,300万米ドルを調達——ソフトバンクがリード(11月3日)

  • The Sandbox は、ソフトバンクがリードした資金調達ラウンドで9,300万米ドルを調達し、非代替トークン(NFT)をベースにした仮想世界の成長を支援している。今回調達した資金は、世界最大級の企業による推定300億米ドルのソフトバンク・ビジョン・ファンド2からのものだ。
  • このラウンドには他に、Animoca Brands、True Global Ventures、Liberty City Ventures、Galaxy Interactive、Kingsway Capital、Blue Pool Capital、LG Technology Ventures、Alpaca VC、Graticule Asset Management Asia、Com2uS、GoldenTree Asset Management の役員、Nokota、Sun Hung Kai & Co、Sound Ventures、Red Beard Ventures、SCB 10X、Polygon Studios、Samsung Next、Double Down Partners、StakeFish、SterlingVC、HodlCo が出資している。

中国テック大手各社、NFTの自主規制で政府と合意など——中国ブロックチェーン界週間振り返り(11月3日)

  • 中国のテック大手各社は、非代替トークン(NFT)に対する取引や投機に反対する姿勢を示した。江西省東部の経済開発区で、地元当局が仮想通貨関連の活動を探索した。中国の最高裁判所がブロックチェーン技術が増えることを支持した。中国工業情報化部(工業和信息化部、日本の経済産業省に相当)は、ブロックチェーン標準が増えるよう推進している。

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