タッチポイントが増える理由ーーメルカリのオフライン戦略「メルロジ」を考える(2)

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メルカリポスト

タッチポイントの先行事例

(前回からのつづき)EC躍進を背景とした「集荷」タッチポイントの事業はもちろんメルカリだけではありません。先行しているひとつに三菱商事が展開する「SMARI(スマリ)」があります。EC事業者の「返品」に着目したタッチポイントで、例えばファッションレンタルのエアークローゼットは使い終わった商品をここの集荷ボックスに返却することができます。同じ系列のローソンに3,000カ所設置されており、見かけた方もいるかもしれません。

最近では日本郵便の「e発送」サービスがこのSMARIでも使えるようになり、メルカリも「ゆうゆうメルカリ便」で発送する場合はこのタッチポイントから発送が可能になっています。メルカリポスト同様、コンビニのレジを塞ぐことはありません。

またヤフオク!を運営するヤフーとヤマト運輸も10月から1カ月間、タッチポイントを活用した実証実験を実施していました。ヤマト運輸が提供する宅配ロッカー「PUDO(プドー)」を使ったもので、ヤフオク!ユーザーはここに商品を入れるだけで梱包をヤマト運輸側で実施し、発送してくれるというものです。あくまで実験レベルですが、面倒な梱包という作業を代行してくれるメリットはわかりやすいです。

宅配ロッカー「PUDO(プドー)」を使った梱包サービスの実証実験

日本郵便が開始したゆうパケットポストも特徴的なタッチポイントです。e発送サービスで個人間取引の商品を発送できるポストですが、専用資材に印刷されている二次元コードをメルカリなどのアプリで読み込むだけで、送り状すら貼り付けずに投函することができます。

店舗型のメルカリステーションでは体験教室など啓蒙活動を可能にし、一次流通と連携するきっかけを作ろうとしています。メルカリポストやPUDO、SMARIといったタッチポイントは時間によらない集荷や返品にまつわるサービスを提供します。また、これらの拠点ではすべてデータを取ることが可能です。

「集荷という変化に対してデータを駆使することで新しいサービスの展開が可能になります。従来物流では夕方に出荷するのが通例だったりしますが、(個人間売買の)お客様の購買行動は必ずしもそうではありません。夜遅くなど余暇の時間に購入しているし、出荷も集中したセンターでまとめてやるわけではありません。朝に持ち込みが多いなど、いつどこでというデータが取れるので、例えば朝に荷物を取りに行くことができれば、もっと効率化できるかもしれませんし、それを還元することができるかもしれないのです」(進藤さん)。

メルカリポストについては2024年に現在の1,000カ所から8,000カ所へ設置場所を広げるという計画も発表されています。地域についてはやはり生活導線上に置かないと無駄になるため、自然と現在利用の多い一定地域に集中して展開たすることになるだろうとの見込みをお話されていました。また、梱包レス発送やクリーニング、リペアのような付加価値サービスについては来年春から提供する予定だそうです。

垂直統合型のメリット

ローソン設置のSMARIはすでに3000カ所に拡大

またメルカリポストは垂直統合型という隠れたメリットもあります。実は筆者、この取材に先立ってひとつメルカリで手持ちの道具を他人にお譲りし、メルカリポストを使ってみることにしました。しかし、近所には設置店がなく、ローソンにあったSMARIを見つけてこれはと使ってみることにしたのです。

しかし、SMARIは日本郵便の「e発送」に対応したサービスです。らくらくメルカリ便(ヤマト運輸)を選択した後では、こちらを使うことができず、もっと言うと、らくらくメルカリ便とゆうゆうメルカリ便でこういった違いが発生すると分かっていなかったのです。

発送の体験を向上させる、という意味において複雑な工程はマイナスにしかなりません。結果としていつも使い慣れてるファミリーマートの店舗端末から店頭レジで発送することに。この辺りは様々な事業者に水平展開しているプラットフォームよりも、(一般論ですが)自社のサービスに融合した垂直統合型のモデルの方がやはり使い勝手はよくなるはずです。

ビジネスはどうなる?

ここまでの考察で分かる通り、メルロジは領域こそ物流ですが、従来型の物流企業とはやはりことなるユニットになることは明らかです。実際、進藤さんも現在20名ほどのチームで新たに求めるのは、データサイエンティストや3PLの現場やサプライチェーンを理解したコマース経験者といった人物像を挙げていて、例えば自社で配送トラックを所有するような想定はないとしていました。一方、具体的な売上などについてはこれからと、まだ構成自体を検討しているというお話です。

PUDOやSMARIといった既存事業について、各社の決算を見てみたのですがまだ事業として言及している情報は見当たらず、前述の梱包サービスなどもまだまだ実証段階という状況は各社変わらないようです。またコンビニなどで集荷によって得られる手数料も筆者が調べた限りでは数円から数十円程度だそうで、コンビニ側にしてみれば集客の一環として捉えていることが想像できます。

とは言いつつ、そもそもメルロジには本体となるメルカリがあります。前述した3600万人の潜在ユーザーを掘り起こすだけで本業へのインパクトは相当です。かつ、明確に梱包などの付帯サービスも見えてきています。そして大きな資産になるのがやはりデータです。例えば無人コンビニを展開する600(ろっぴゃく)は自社で得た配送ルートをAIで最適化したサービス「Vending Hero」として切り出し、大手清涼飲料水メーカーに採用されています。

メルロジとしては付帯サービスがついたタッチポイントを他社のECに展開することも可能ですし、こういったデータを活用した物流ソリューションを新たに提供することも視野に入れることができるわけです。

ということで、メルカリが発表した物流戦略、メルロジについて整理をしてみました。タッチポイントが増えるに従い、これまでコンビニが担ってきたオフラインでの場所の体験がどのように変わり、潜在するという3600万人がどう動くのか、その他のメルカリShopsやメルコインといった新しい動きと合わせて引き続き考察を続けてみたいと思います。

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