サブスク×空間デザインで、遊休スペースから新事業を生み出す——東急とsubsclifeの協業

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

消費者ニーズの変化に伴って、さまざまな企業がサービス形態の変更を余儀なくされています。変化に柔軟に対応することができれば、難しい局面は新たなビジネスチャンスとして捉えることができます。元来、不動産や空間を提供するインフラビジネスは、大掛かりで物理的な制約を伴うため、コストをかけずに素早くサービス提供の形態を変更することは難しいとされてきました。

しかし、インフラビジネスの代表プレーヤーでもある東急は、サブスクビジネスの新旗手である subsclife と協業。使われなくなっていたスペースを、コロナ禍にある今のニーズに合った事業へと生き返らせることに成功しました。大企業が持つ不動産というアセットと、スタートアップが持つ柔軟なサービスが、新たな価値を生み出した現場を、関係者の裏話から紐解いてみたいと思います。

サブスクの活用で、暫定的用途での運用が可能に

鉄道会社には数多くの駅があり、そのいくつかには定期券売り場があります。コロナ禍で通勤需要が減ったことに加え、自動券売機の活用やスマートフォンによるモバイル定期券などの普及から、近年は定期券売り場の閉鎖に踏み切る鉄道会社が増えています。東京と神奈川という大都市でサービスを展開する東急電鉄もこの例に漏れず、この春には主要駅6駅にある定期券売り場を廃止しました。

東急では空いたスペースを転用する予定ですが、具体的に新たな用途が決まるまでの間、未使用スペースとして置いておくのはもったいない。空き地に新たなビルが立つまでの間、時間貸しの駐車場として運用されると同じように、暫定的な活用方法を模索していたところ、シェアオフィス化が決まり、subsclife から空間デザインやオフィス家具をサブスク提供する提案が寄せられました。

シェアオフィスの開設に、サブスクを導入した理由

TSO エキスル長津田

今回、定期券売り場からシェアオフィスへ転換を図る舞台となったのは、東急東横線の武蔵小杉駅と東急田園都市線の長津田駅です。どちらも東京郊外に位置し、東京都内へ向かう通勤・通学客の玄関口であるため、コロナ禍でリモートワークやオンライン学習が中心となったことは、鉄道需要の変化に大きなインパクトを与えました。また、沿線各駅の自動券売機が高機能化が進み、定期券売り場に出向かなくても定期が購入できるようになったことも影響しています。

東急は全国で「NewWork」という企業向けシェアオフィスを100カ所ほど展開していますが、今回、取り上げるシェアオフィスは NewWork とは性質の異なるものです。定期券売り場の廃止で空いた場所=遊休資産を次の本格的用途が決まるまでの間スピーディーに活用すること、また、あくまで暫定活用のため低投資でそれを実現できることがポイントでした。一般的なシェアオフィスは什器などの初期投資を回収する期間が必要ですが、サブスクで調達すればその期間を意識せずにすみます。

TSO エキ de work Kosugi

subsclife では、空きスペース活用、ニューノーマルな働き方を促進する空間スペースをお客様の課題に応じて理想の形を提案しています。今回はの拠点はどちらも共通して東急電鉄さまの新しい空間への試みでしたため、サブスク形態で「モノの所有ではなく利用」の形で空間をご支援しています。また、当社は家具の選択のみならず、場所のコンセプト、内装提案からご支援しており、東急電鉄様の拠点特徴から、お客様に受け入れられる場所のご提案を差し上げました。(subsclife 野田さん)

武蔵小杉駅の拠点(TSO エキ de work Kosugi)周辺は、共働き世帯が多く、多くの企業がテレワークに切り替えたことから働く場所のニーズが急増。駅周辺のカフェやコワーキングスペースがにぎわっていたことや、駅周辺の再開発からデザインも重視し「職住近接で働くこともできるカフェ」を目指しました。対照的に、長津田駅の拠点(TSO エキスル長津田)周辺はファミリー層が多く、移動の合間や帰宅前の短時間利用時にくつろげる「ゆとりのあるオープンスペース」をテーマにしました。(subsclife 水野さん)

家具の提供だけでなく、空間提案が採用のきっかけに

東急アクセラレートプログラムで最優秀賞を獲得した、subsclife 代表の町野健氏(右)

subsclife は、2019〜2020年にかけて実施された東急のスタートアップアクセラレータ「TOKYU ACCELERATE PROGRAM(当時)」に参加、東急モールズデベロップメントが運営する商業施設に入居するテナントに対し、サブスクでのインテリアや家具調達を踏まえた空間づくりの提案を行い、デモデイで最優秀賞を獲得しました。家具の提供だけでなく、空間づくりの提案まで行えることのメリットは大きく、この時の評価がきっかけとなって、協業先候補として声がかかったそうです。

subsclife が協業する形で展開したシェアオフィスは、前出の武蔵小杉と長津田に加えて、田園都市線宮崎台駅前にある「電車とバスの博物館」内のスペースにも採用され、合計で3店舗にまで広がりました。東急の〝本業〟の現場社員が企画から参加、構想から実装まで2ヶ月半という短期間でプロジェクトが進められ、どの店舗も手作り感溢れる仕上がりとなった。世の中の変化に呼応した柔軟な動きが求められる中、現場社員が事業のピボットを体現する好機となりました。

構想段階から参画していた乗務員や駅係員が「ニーズを組みとり、スピーディーに検討、そして実施」という一連の 流れを体感し、また運営(商売)の難しさを肌で感じる事で新たな働き方への一歩を踏み出していると感じていますし、意識変革にも繋がっていると考えます。また、コロナ禍で先行き不透明な中で新たな事業を始めるという事を実施することで、わずかながら部門活性化にも寄与できたのではと考えています。(東急電鉄 澤口さん

2ヶ月半というスピード感、現場社員のプロジェクト参画、サブスクを利用した遊休資産の活用といった文脈で注目を集め、7月のオープンからこれまでの3ヶ月間、このシェアオフィスは数多くのメディアに取り上げられました。東急ではユーザの満足度向上に向け、今後もスピーディーな改善を続けたいと言います。一方、subsclife はこれまでにもオフィスの空間づくり支援の実績はありましたが、全くの異分野に関われたことを機に、新たな事業拡大の可能性を期待しているとのことでした。

空間に付加価値をもたらすsubsclife

水野さんがデザインした、エキスル長津田のレイアウト

突貫作業で進められたシェアオフィスの開設プロジェクトに関わったこと、東急と協業したことが実績となって、subsclife には他社からも多くの相談が舞い込んでいます。コロナ禍で宿泊予約が入りにくくなったホテルがロビーを改造して仕事できる空間にしたいという相談のほか、オフィスビルが建設ラッシュの東京では、デベロッパ各社がテナント獲得に激しい競争を強いられる中、空きの出たフロアに subsclife が家具をつけた形で賃貸に出すなど、不動産をより借りてもらいやすくする価値創造にも一役買っています。

シェアオフィスのプロジェクトは、タイトなスケジュールでしたが、夜遅い時間帯まで連絡をやり取りさせていただくなど、プロジェクト実現のために同じ方向を向いて、熱意を持ってご一緒させていただくことができ、楽しい経験をさせていただきました。(subsclife 野田さん)

東急さんは、街を作ったり都市を作ったり、多くの領域で事業を展開されているので、オフィス以外の空間作りでも、またご一緒させていただける機会があるとうれしいです。(subsclife 水野さん)

ビルや不動産のライフサイクルは数十年単位とされ、一方で人々や社会のニーズはもっと短い年月で変化を繰り返しています。スピードが強みのスタートアップが経済の中心で活躍するようになってきていることもあって、オフィスやワークスタイルの変化速度は加速の一途をたどっています。需要と供給の間のギャップを柔軟なサービスで埋めてくれる存在として、subsclife の今後の事業展開に大いに注目していきたいと思います。

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