JR東日本、協業プログラム第5期デモデイを開催——ドップラーライダーで自動運転側面支援「メトロウェザー」が優勝

SHARE:

JR 東日本スタートアップは8日、インキュベーション/アクセラレーション・プログラム「JR EAST STARTUP PROGRAM」の第5期デモデイを開催した。これは JR 東日本とスタートアップのオープンイノベーションを促進するためのプログラムだ。応募のあったスタートアップ154社のうち13社が採択され、約半年間におよぶプログラムに参加、この日のデモデイを迎えた。

今回は、「地域共創」「デジタル共創(DX)」「地球共創(SDGs)」という3つの提案テーマが設定された。本稿ではデモデイでのピッチの結果、審査により入賞した5社を紹介する。

デモデイで審査員を務めたのは、以下の6人の皆さん。提案内容の「新規性」「ビジネス性」「JR 東日本のリソースをいかに活用しているか」の3つの指標によって評価された。

  • グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 仮屋薗聡一氏
  • 守屋実事務所 代表 守屋実氏
  • コラボラボ(女性社長.net 運営)代表取締役 横田響子氏
  • JR 東日本 代表取締役副社長 事業創造本部長 喜㔟陽一氏
  • JR 東日本 代表取締役副社長 技術イノベーション推進本部長 伊勢勝巳氏
  • JR 東日本 常務取締役 総合企画本部長 坂井究氏

(文中写真は、いずれも当日のライブ配信から)

【スタートアップ大賞】メトロウェザー

副賞:100万円

メトロウェザーは、超小型のドップラーライダーを開発するスタートアップだ。ドップラーライダーとは、ドップラー効果による周波数の変移を観測することで、風向や風速を赤外線レーザー光による計測から解析できる装置だ。風向計や風速計と違い、設置した場所より離れた地域の風の状態が把握できるため空港などで多用される。メトロウェザーは京都大学での大型レーダーの開発に携わった経験から、ドップラーライダーの超小型化に成功。観測距離は競合の2倍、従来他社の20分の1から2分の1程度の価格を実現した。

メトロウェザーではこのドップラーライダーを使って、線路内における障害物の検知に応用ができると提案。特に、安全確保が最重視される営業線と隣接する区域での工事やメンテナンス時の安全確保、作業終了後に線路内で工具などの支障物が無いかどうかの確認を目視に頼っていることから、ドップライダーの導入で安全確認作業の効率化に寄与できるとした。休止中の大汐線(東海道貨物支線)の一部を使って、観測できる距離や物体の大きさなどを検証する。ホーム転落検知システムなどへの応用の可能性も期待される。

【優秀賞】カミナシ

副賞:50万円

カミナシは、デスクレスワーカーのための現場管理アプリをノーコードで作成できるプラットフォームだ。これまで主に紙で管理していた工程をタブレットに置き換えることができる。紙と違い、入力内容に逸脱や違反があればアラートを出して修正を促すため、現場担当者は管理者がいない状態でも、作業ミスを減らすことができる。管理者も紙を見てハンコを押す行為が必要なくなり、1作業あたり3クリックだけで確認を完了できるほか、一覧化するためのスプレッドシートへの転記作業も省けるようになる。

JR 東日本では、全国に1万台を超える車両を有し、1車両工場あたり1,000名以上の社員がメンテナンス業務に携わっている。メンテナンス作業では、部品を外し、修繕し、帳票に記録し、原状復帰するというフローを取るが、以前、JR 東日本では帳票の電子化に取り組んだもの失敗に終わった。一車両に600もの工程があり、前工程一つが遅れると複数の後工程のリスケを余儀なくされるなど複雑だからだ。結果的に、計画には予め多くのバッファが設けられ残業増にもつながっていた。カミナシ導入でこれらの是正を目指す。

【優秀賞】207

副賞:50万円

物流におけるラストワンマイルの課題を2つのサービスで解決する207。「TODOCU サポーター」は、全国に20万人いる個人事業主の荷物配送員の作業効率化を支援する。あらゆる会社の異なるフォーマットの配送伝票をスキャンするだけで、AI-OCR とオペレータにより自動デジタル化。最適な配送ルート、受取人への事前問合せで在宅時間を確認し、再配達を減らして配達効率を9割改善する。また、ギグワーカーでも荷物配送ができる「スキマ便」を提供。配送拠点を増やすことで、更なる配送効率の底上げにつなげる。

コロナ禍で鉄道会社は収入が激減し、駅利用は7〜8割まで回復したものの、駅ナカの小売飲食は2019年度比で6割程度にとどまっている。207 では、駅の中に配送拠点を配置し、ギグワーカーによるスキマ便でのラストマイル配送で新幹線配送や宅配荷物の共同配送による効率化、駅ナカ商品を原状維持した状態での配送を行う。すでに、品川駅で駅ナカ施設のケーキ、当時朝に新潟で水揚げされた鮮魚4件の高輪エリアへのテスト販売・配送に成功。ジェイアール東日本物流の品川拠点を活用し、1月15日から2月28日まで本格的 PoC を実施する計画で、2,500件の配送を KPI に設定している。

【審査員特別賞】ミーチュー

副賞:10万円

ミーチューは、オンラインでファンコミュニティを運営するためのプラットフォームを開発・提供。コロナ禍で多くのエンターテイメント産業がオンラインにシフトしたが、一般的に決済手数料が30%、プラットフォーム手数料が50%ほどかかるため、ファンが支払った会費や参加費から、コミュニティオーナーの元に届く収益は小さいものとなる。ミーチューではプラットフォーム手数料を徴収せず、オンラインであるため決済手数料を5%に抑えることができ、収益の多くをコミュニティオーナーに還元できるようにした。

JR 東日本とは、11月10日に「撮り鉄コミュニティ」を開始した。月額1,000円でコミュニティ限定の撮影会などを提供したところ、オープンから13日でメンバー数539人、有料メンバー数224人に達した。JR 東日本グループ内の副業認可制度を活用することで、同社内のさまざまな人がコミュニティの運営にあたることが可能となった。このコミュニティの開催する撮影会が JR 東日本公式であることから、鉄道撮影における安全啓蒙にも一役買う。次回はローカル線コミュニティを開設し、線ごとの NFT を発行する予定。

【審査員特別賞】ARK

副賞:10万円

食糧問題や環境問題に由来するタンパク源の危機、海洋環境の危機の解決のため、ARK は小型の水産養殖 IoT ハードウェアを開発している。9.99平方メートルと駐車場1台分のスペースで済むため建築法に基づく申請の必要がなく、設置や移動が簡単に行える。また、太陽電池などを電源とした再生可能エネルギーで稼働するため、電源設備が無いところでも動作させることができ場所の制約が少ない。IoT による自動化で誰でも養殖できる。このハードウェアを、稚魚・水・餌・管理アプリとあわせ、サブスク提供する。

JR 東日本とは、地方を豊かにするという同社の経営ビジョンに沿って、鉄道の有休施設を使った水産物の地産地消を提案。最近、9年をかけて全線開通した常磐線の、福島県浜通り地区の無人駅に IoT ハードウェアを設置し実証実験を行う。将来的に、漁師が陸上で安定的に養殖業で収益を生み出す手段にもつなげたい考えで、無人駅で養殖された水産物は地元で消費されることを想定している。JR 東日本管内には600の無人駅があり、福島での実証実験と地域連携の結果を見て、他地域への横展開を検討する計画だ。

BRIDGE Members

BRIDGEでは会員制度の「Members」を運営しています。登録いただくと会員限定の記事が毎月3本まで読めるほか、Discordの招待リンクをお送りしています。登録は無料で、有料会員の方は会員限定記事が全て読めるようになります(初回登録時1週間無料)。
  • 会員限定記事・毎月3本
  • コミュニティDiscord招待
無料メンバー登録