Duolingoに学ぶ〝Employee Experience〟のベストプラクティス(2/3)

本稿は独立系ベンチャーキャピタル、ジェネシア・ベンチャーズのインベストメントマネージャー水谷航己氏によるもの。原文はこちらから、また、その他の記事はこちらから読める。Twitterアカウントは@KokiMizutani。ジェネシア・ベンチャーズの最新イベントなどの情報を必要とする方は「TEAM by Genesia.から

前回からの続き)

③グロースフェーズにおけるEmployee Experience

EliseさんがDuolingo社に入社した当時、30人ほどだった従業員数は、10倍の350人以上に増えています。その中で、Employee Experienceを司るEliseさんの仕事はどのように変化していきているのでしょうか。

従業員数が増えたことで自分が入社した時と全く異なる会社になりました。それにつれて、Employee ExperienceやEmployee Engagementに関しての自身の仕事や考え方も変化してきています。

最も大きな違いは、かつては会社の全メンバーを知り、ラポール(信頼関係)を形成できていたことです。ランチで話をしていれば、みんなの考えはある程度わかるので、意思決定はもっと楽でした。しかし、350人を超える規模の組織ではそうはいかず、より戦略的に動いていく必要があります。

Duolingo社は、2名のソフトウェアエンジニアによって創設され、創業初日からデータドリブンに動いてきた会社です。自分の属するPeople Teamも、エンジニア部隊と同様にデータドリブンに取り組んでいます。

Employee Experienceや人間関係に拘わるメンバーの情緒をデジタル化していくことはとても難しいですが、サーベイを通じて、データドリブンな取り組みを進めています。

Eliseさんのコメントからは、Duolingo社が持つデータドリブンに仮説検証を進める行動規範のカルチャーがしみ出してきており、適切な組織施策に取り組んでいく上でのExperimentalな姿勢はとても印象的です。

腹を割って話せる関係性があれば、同僚との直接の対話の中で正直な状態を観察することができますが、サーベイを通じた状態把握を進めるに当たってメンバーから正直な回答を得るためにどのような仕組みを設けているのか、聞いてみました。

サーベイを通じてメンバーから率直で正直なフィードバックを得るために、アンケートは匿名にしています。私とデータの間にバリアを設けることで、自信を持ってメンバーは率直なフィードバックをすることができるようになります。匿名性はとても大切なことです。

回答はとてもシンプルでした。正直な回答を得るために、Peopleチームでもサーベイの生データが見れないように匿名性を持つ仕組みにしている、とのことでした。自身の回答結果が直接知られてしまうことが気になり、正直に回答できない人事サーベイをしたという経験は多くの人があると思います。

(なお、サーベイのツールとしては、2021年7月にユニコーン・ラウンドが報じられた Culture Amp を活用しているとのことでした)

さて、このような匿名性を確保したサーベイで、Duolingo社ではどのような質問を行い、それを通じてなにを測っているのか聞いてみました。

サーベイの大目標は、メンバーがDuolingo社に対してどれほどの結びつき(connected)や献身性(committed)、意欲(motivated)を感じているかについて把握することです。

この3つの観点からメンバーの想いを理解することは重要です。なぜなら、それは各メンバーが職場における生産性をどれほど感じているのか、また、Duolingo社の退職可能性があるメンバーのリテンションリスクについて、示しているからです。

つまり、サーベイを行うに当たって事業上の観点から最も重要なことは、各メンバーの働き方と退職リスクを理解することとなります。

Eliseさんへのインタビューを通じて一貫して印象的な点は、各施策について事業上重要である理由がとてもクリアに整理されていることです。事業上の重要目標が各部署にミッションとしてしっかりと浸透・理解され、その達成に向けた手段として各施策がじっくりと検討・実行されてこない限り、このようなクリアな回答が瞬発的に出てくることはありません。

そして肝心のサーベイでは、結びつきや献身性、意欲といった従業員の会社に対する情緒的な指標を追っており、”Employee Engagement”の度合いを把握しようとしていることがわかります。

“Employee Experience”と”Employee Engagement”。

この2つについての整理をするのであれば、良い(悪い)体験の結果としてエンゲージメントが向上(低下)する、と捉えることができると思います。すなわち、”Employee Engagement”は、”Employee Experience”の結果指標として、EliseさんはEXにまつわる施策の成果を見るために、エンゲージメントを測っているということと考えられます。

メンバーのエンゲージメントが上がれば生産性は向上し、逆に下がれば退職リスクは上がります。そして、エンゲージメントを高めていく方法として、良質なEmployee Experienceを通じてメンバーの企業への感情をポジティブなものにしていくことが必要となるわけです。

そんなEmployee Engagementですが、個人的にはDuolingo社でメンバーのエンゲージメントを測る上でのファクターとして、一貫して結びつき(connected)が第一に挙げられていることがとても興味深く、重要視している背景について、Eliseさんにお伺いしてみました。

関係構築を通じて究極的に目指していることは、全てのメンバーに帰属意識を持ってもらうことです。

その理由はいくつかありますが、国際的企業において多様な人々や考え方が存在している中で、私たちは全ての人を受け入れ、繋がりや帰属意識を持つ機会を意図的に提供していく必要があります。

帰属意識が高まることで、職場に来るのが楽しみになりますし、最高の仕事ができるようになります。メンバーのDuolingo社での体験を考えていく上で、とても重要となるポイントです。

メンバー同士が結びつきを強くしていくことで生まれる会社への帰属意識(Belonging)を強調されています。帰属意識をここまで強調される背景として、日本以上に社会構成が多様なUSを拠点としているためかと最初は推察しましたが、Duolingo社ならではの背景があるようです。

シリコンバレーではジョブホッパーも多く、複数のスタートアップを転々とする人も少なくありません。しかし、私たちのCEOであるLuisは、シリコンバレーではなく、ペンシルバニア州ピッツバーグに拠点を置いています。(※注:CEOのLuisさんは、カーネギーメロン大学の研究者でもあります)

CEOにとっては、Duolingo社に対してメンバーが長期間にわたるコミットメントと結びつきを感じてもらうことがとても重要で、全メンバーに自信を持ってピッツバーグに引っ越してきてもらいたいと考えています。

そのために、Duolingo社への帰属意識を醸成していくことで、メンバーにはできるだけ長く身を置いてもらいたい考えているのです。

ピッツバーグはアメリカ北東部ペンシルベニア州の都市で、シリコンバレーからははるか遠くに位置しています。そんな都市に拠点を置くDuolingo社にとっては、参画してくれたメンバーに長くコミットし続けてもらうことは、企業経営上、とても重要となります。

Image credit: Google

ある意味で必要に迫られたからこそ、良いメンバーを惹きつけ続けるための帰属意識の醸成に注意を払い、投資を続けているということです。先に紹介したカンクンへの社員旅行も、”Authentic Connection”を養うことが目的で、帰属意識を高めていくための取り組みの一つですね。

メンバーが長く会社にコミットして活躍し続けてもらうことは、多くの企業にとって経営上の大きなテーマです。企業への結びつきや帰属意識を健全な形でメンバーに持ってもらえるようにする取り組みは、持続可能な企業成長に向けてますます重要になってくると感じます。

■EX Points③

メンバー数が増えていく過程では、正確な状況把握のために匿名サーベイを活用してエンゲージメントを定量化。メンバーに長期的なコミットメントをしてもらうために、メンバー同士が結びつきを強くしていくことで生まれる組織への帰属意識(Belonging)を高めていくことが重要なポイントとなる。

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次回へ続く)

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