
Image credit: Masaru Ikeda
醸造所や料飲店向けに、クラフトビール流通に関わるデジタルトランスフォーメーション(DX)サービスを提供する Best Beer Japan(以下、BBJ)は1日、シードラウンドで7,000万円を調達したことを明らかにした。同社にとっては、2018年7月のエンジェルラウンド、2021年2月のプレシードラウンドに続くものだ。
このラウンドに参加した投資家は、
- Headline Asia
- PE&HR
- 事業創造キャピタル
- 南章行氏(ココナラ 代表取締役会長)
- 小林泰平氏(Sun* CEO)
- オリザリア
- デジタルハリウッド大学
- 森本千賀子氏(morich 代表取締役)
- 曽我健氏(SGcapital 代表取締役)
・・・と、名前非開示の個人投資家2名。
BBJ は、2014年に英語学習サービス「Eigooo!」を立ち上げた後、スタートアップメディア「Tech in Asia(TiA)」の日本版編集長に転身した Peter Rothenberg 氏が2018年7月に創業。大手ブランドビールと違って中間流通が整備されていないクラフトビール業界を DX し活性化すべく、まもなく、ビール樽レンタルサービス「レン樽」をローンチした。
2021年2月からは、小規模経営ながら煩雑な事務作業に追われる醸造所の業務効率化を狙って ERP 事業に参入した。この ERP は、醸造所の客側のインターフェースが EC サイトになっており、クラフトビールを扱う料飲店がこれまでは醸造所への電話や FAX に頼っていた注文をオンラインで完結できるようになっている。
品種が多く、頻繁に製品が入れ替わるクラフトビールの業界では、元来、品番管理や在庫管理はおぼつかない。しかし、EC サイトという売り場のインターフェースを持った ERP があることで、醸造所は能動的に商品情報を登録し、商品の装丁やラベルの写真をアップロードしてくれるようになっているという。
Airbnb も当初、利用が少なかったのは写真が少なかったからだと聞く。実際、建物の外観や部屋の雰囲気がわかる写真が増えたことで利用が増えた。
醸造所の EC サイトでも写真があることで商品のイメージが伝えられるようになるので、これまでクラフトビールを扱っていなかった、新しい飲食店の「扱ってみようかな」というモチベーションにつながるだろう。今回の資金調達には、醸造所へのフォトグラファーの派遣の費用なども含んでいる。(Rothenberg 氏)

Imagge credit: IVS
クラフトビール醸造所の栄枯は昨今、二極化している。1990年代の第一次クラフトビールブームの際は、醸造技術を習得した人が少なく、美味しいビールが少なかったことで程なく下火になってしまったが、現在を第二次ブームの最中にあるとすれば、長い経験から醸造経験を持った人が増えたこともあって、毎年50社以上の新しい醸造所が出てきているという。
一方で、コロナ禍で客足が伸び悩むのは、クラフトビール業界も例外ではない。販路拡大など強気の営業展開にアクセルを踏んだ醸造所が生き残る一方、バックオフィス業務に忙殺された醸造所に限って、本来の仕事に集中できず、結果的に廃業や倒産に追い込まれたところが少なくないようだ。DX 実装の是非が、事業の生死に関わる現場がそこにある。
BBJ がこれまでに実現してきたのは、醸造所の DX が主なパートだと言えるだろう。今後は、料飲店がアカウント1つで、複数の異なる醸造所の異なるクラフトビールをワンストップで発注できるプラットフォームを目指す。醸造所は、どの地域、どういった種類の料飲店で、どういったクラフトビールが売れているかを把握できるようになり、データドリブンな経営につながる。
料飲店以外での需要開拓も期待できるだろう。生産量や流通システムの関係から、クラフトビールが買える場所は、これまで一部の酒販店や高級スーパーなどに限られていたが、売れ筋データの把握や分析、JAN コードの設定などが容易に実現できれば、コンビニやキオスクでクラフトビールが買える時代が来るかもしれない。
Rothenberg 氏は、料飲店向けの業務プラットフォームとして浸透した暁には、得られた販路やデータをもとに、BBJ 独自ブランドのクラフトビール開発にも着手してみたい、と展望を語った。壮大な計画実現に向けて、今回調達した資金を使い、ビール好きのエンジニア、営業責任者、カスタマーサクセスといった人員体制も強化する。
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