【連載】メタバース・ビジネス / 仮想空間で稼ぐ人と企業たち(Mirrativ、Synamon)

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

メタバースにおけるビジネスで最も分かりやすいケース、それがゲームではないだろうか。アプリストア、スマートフォンインフラは誰のものかという独占にまつわる問題で、AppleやGoogleと派手にやり合ったのが人気のメタバース・ゲーム「Fortnite」を世に送り出したEpic Gamesだった。特にAppleとの訴訟では彼らの売上が実に2年で90億ドルにも拡大していることが判明している

売上の多くはスキン——つまり、メタバース内での「個性」を示すものがもたらしている。彼らの発明はゲームアイテムを「パラメーター」ではなく、この個性に置いたことにある。高額課金が強いアイテムと比例すると、いつかどこかでインフレが起こり「金持ち=強いもの」という図式が成立してしまう。Fortniteはいくら高額なスキンを買っても強さは変わらない。

メタバースにおける個性やつながりに対する欲求にはこれだけの市場性があるーー。それを証明したのがFortniteやRobloxだろう。そしてその形はただ、単にアイテムを消費して個性を表現するだけでなく、表現やゲームプレイによって配信者が「稼げる」クリエイター経済に発展しつつある。

これを国内で今、実現しようとしているのがミラティブだ。

拡大するクリエイターエコノミー

スマホゲーム配信「Mirrativ」(Image Credit : ミラティブ)

ミラティブが提供するスマホゲーム配信「Mirrativ」は国内スマホ・メタバースの先駆けとも言える存在。スマートフォンアプリ(主にゲーム)の画面をそのままライブキャストして配信者と視聴者をつなぐ、コミュニケーションサービスとして2015年にデビューした。当時はAmazonがゲーム実況サービス「Twitch」を10億ドル規模で買収するなど、ゲーム実況市場が拡大する入り口にあった時期だ。

ディー・エヌ・エーのプロジェクトとして公開され、その後、2018年の簡易吸収分割の方式で独立。グロービスキャピタルパートナーズ(GCP)などから10億円超を調達した後の2019年、JAFCO、グローバル・ブレイン、YJキャピタル、 GCP、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRIから35億円の大型調達に成功している。

その彼らが先ごろゲームとライブ配信を融合させた「ライブゲーミング」を発表した。開発するオリジナルタイトル「エモモバトルドロップ」はイベント開催期間中の9日間で売上が5,000万円を記録しており、これを機会に大きく事業拡大を狙うという。

ではこのライブゲーミングとは何か。これを理解する上で必要なキーワード、それが「クリエイターエコノミー」だろう。

ゲームのデジタルアイテムをユーザーが作り、さらにそれを還元させるモデルの草分けとして有名なのがRobloxだ。2013年頃から開始した「Developer Exchange」プログラムに参加するクリエイターの数は感染症拡大を機に拡大したと言われ、2021年には1,250人以上の開発者がRobloxゲームの仮想販売を通じて少なくとも1万ドルを稼いでいる。このような例はRobloxに留まらず、ManticoreやThe Sandbox、Rec Room、CREY Games、Playerstate、TraplightGamesなどのタイトルが追従している。

また国内でもVR Chatのアバターを制作するクリエイターがPixiv FANBOXなどのマーケットプレイスで販売をするなど、その範囲はゲーム内から外に広がりつつあるし、さらにここ1、2年のNFTに関する盛り上がりを受け、Axie Infinityに代表される「Play to earn」のような「ゲームで稼ぐ方法」の多様化が進んでいる状況もある。

これまでTwitchなどのゲーム配信で稼げるユーザーは一部のタレントなど一握りだった。クリエイターエコノミーやPlay to earnといった動きはその裾野を大きく広げたことで、このムーブメントを一気に世界的なものにしたと言われている。そして今回のMirrativが力を入れるライブゲーミングもまた、独自のクリエイターエコノミーの世界観で大きく羽ばたこうとしているのだ。

ライブゲーミングに感じる初期スマホゲーム市場の立ち上がり

ライブゲーミングの立ち上がりは黎明期のスマホゲーム市場を彷彿とさせる(プレスリリースより)

「モバゲーがどんと盛り上がった当時はエンジニアが1人に企画が1人のような、小さなチームで月商1億円ぐらいを狙えるという期待値があり、いろんな産業からどんどん人が流れ込んできて、あっという間にゼロから1兆円産業に成長する、そんな地殻変動を間近で見ていた」ーーこう語るのはミラティブ代表取締役の赤川隼一氏だ。現在、スマホゲームのタイトルは開発費やマーケティング費用の高騰が進み「数十億円は当たり前」(赤川氏)という世界になっている。さらに巨額を投じたとしてもヒットの保証はない。

一方のライブゲーミングは開発が軽い。エモモバトルドロップは10名足らずの開発チームで仕上げた。このヒットの裏側にあるのが「全員が参加できる仕組み」作りにある。

まず、エモモバトルドロップでは配信者がつながっているユーザーとチームを組み、バトルロワイヤル方式で生き残りをかけてチーム戦を戦いぬく。これだけでも離れた友人たちとオンラインで遊ぶ楽しさがあるが、ここにライブゲーミングは視聴者を巻き込む仕組みを提供している。これまでもMirrativでは実況中継や「ざつだん」を通じて視聴者とつながっていたが、さらに視聴者は配信者に「ゲームに関連した」アイテムギフトを送ることができるのだ。

あるチームが負けそうになった時、それを応援するアイテムをギフトとして送って逆転ができる、そういった「ゲームに埋め込まれた」ギフト体験、それこそがライブゲーミングの醍醐味だ。そしてこの熱狂は数字となってあらわれ、9日間のキャンペーンで5,000万円という売上を叩き出した。

ライブゲーミングイメージ(プレスリリースより)

視聴者と配信者が一体となって楽しんだ結果、これらのギフトの売上の一部は配信者の手元に還元(※手数料率は非公開)される。ブロックチェーンゲームのようにアイテムをゲーム外のマーケットプレイスで売買することはできないが、Mirrativならではの「Play to earn/クリエイターエコノミー」を実現している。なお、赤川氏の話によれば、配信者はこれを実際の現金として下ろすよりも、Mirrativ内で使う「アプリ内流通」の方が多いと話していた。このことからも、ユーザーは稼ぐというよりこのスマホメタバースに居場所を見つけている様子が伺える。

ミラティブでは今後、この市場を牽引すべく、協力して開発に挑むエンジニアやクリエイター、開発会社を募るという。

最終的にはミラティブがAPI、SDKを提供して誰もが参加できるオープンプラットフォームにしたいと考えています。その前段階として現在はいろんなゲームを一緒に作りましょう、ということをやっています。いろんなことを試したいので私たちから開発費をサポートさせてもらい、うまくいったらレベニューシェアするようなモデルを提案させてもらっている。かつてソーシャルゲームも早く参入した人が学びを得て飛び立っていきました。また、既存のゲームをライブゲームっぽくすることも可能です。いくつかのパターンで最終的に『これぞライブゲーム!』というゲーム体験やエコシステムを作りたい(赤川氏)。

現実世界を拡張する企業たち

イベントやマーケティング、そしてゲームと国内でメタバースビジネスに取り組む事例を取り上げてきた。最後は仮想世界におけるエンタープライズ・ソリューションの話題だ。

元々、メタバースはリアルでは難しい問題、特に遠距離や危険な場所を避けることのできる技術としても発展してきた経緯がある。例えば米ウォルマートでは100万人という規模の社員研修にVRを活用しており、移動コストや時間の効率化に貢献している。

Nvidiaの「Omniverse」上で仮想的な工場を作りシミュレーションを繰り返す(Image Credit : BMW・VentureBeat)

この中にあってやはりNvidiaが昨年から打ち出している「Omniverse」は特別な存在と言えるだろう。仮想的にもうひとつの「現実世界」を作り出し、そこでクリエイティブやシミュレーションをする、総合的な開発環境だ。例えばBMWでは、自動車の生産工場をそのままOmniverseによって仮想的に作り出し、実際の人の流れや動き、生産の状況をリアルタイムに予想することで現実世界の「予想」をしている。

同時にこれらの処理にはものすごい力の演算能力が必要になる。Meta(旧・Facebook)は先ごろ、このNvidiaとチームを組み、世界最速のスーパーコンピューターの開発に乗り出したと発表した。現実世界を拡張してビジネスを下支えする。この流れを国内で牽引するスタートアップ、それがSynamonだ。

時空を超えたビジネス

「現在、メタバースに対する関心がマーケティングやブランディング、特に若いZ世代やミレニアル世代の方々へのひとつのチャンネルとして興味を持つ企業さまが増えてきていて、お問い合わせが増えている状況です。ただ、やはり何から手をつけたらよいか分からないということで、空間構築から企画までお手伝いしている感じですね」。こう語るのはSynamonで執行役員・COOを務める武井勇樹氏だ。現在、Synamonには企業からメタバースに関するスクラッチでの開発相談が舞い込んでいる。

例えば感染症拡大によって非接触を余儀なくされた大型展示会では、その会場をバーチャルに移動させる動きが目立つ。国内で2020年に開催された最先端映像の見本市「INTER BEE IGNITION」もメタバースでの開催を決断したひとつだ。Synamonが提供するメタバース構築ソリューションの中にバーチャルイベント会場を構築し、合計4つのセッションを開催した。スピーカーや関係者はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着してメタバースに没入し、参加者はウェブブラウザから視聴をするというスタイルを取った結果、延べで2,500名以上の視聴参加に成功している。

SYNAMON、三井住友海上と「VR事故車損害調査研修」を共同開発(プレスリリースより)

ウォルマートのケースで出てきたような企業研修も事例が積み上がっている。同社が三井住友海上と共同開発している「VR事故車損害調査研修」は、仮想空間ならではのメリットが生かされた好例だろう。保険会社はこれまで車両が事故を起こした場合、どういう状況でどのような破損状況になるのか実際の車両を使っての研修を実施していた。しかもこの状況を再現するために多数の事故車両を用意する必要があり、広大なスペースに研修する人員を実際に集めて実施していた。そこでこの研修そのものを仮想化することで、距離や場所の問題を解決しようとしたのだ。

このように、イベントや研修などを中心にエンタープライズにおけるメタバース活用が広がっているのだが、ここでポイントになるのが「仮想空間における操作や体験」、つまりUIやUXの質になってくる。実際にHMDを被ったことがあれば、仮想空間における操作体験が独特であることをご理解いただけるだろう。さらに「VR酔い」という車酔いに似た現象も起こる。ここにはやはりそれ相応の開発経験が必要になってくる。

Synamonではこれまでこういったビジネス向けのソリューションとして共通基盤となる「NEUTRANS」を開発・提供してきた。ここで練られたUIは実際に体験してみると直感的で、武井氏の説明によれば研修などで導入した企業でのオンボーディングもケースバイケースながら平均的には数日で済むレベルになっているという。

こうした経験は開発費に跳ね返る。特にスクラッチで一から開発する場合、企画から開発まで全てをゼロベースで進行することになる。同社の開発費は平均的に1,000万円以上の予算のものがほとんどというが、中には競合の見積で10倍ほどの差がついた例もあるという話だった。基本的なUIまで全て開発するとコストに反映されるのは当然で、このあたりが同社の競合優位性につながっている。

今回、メタバースの国内におけるビジネス事例を探ってきた。仮想空間ビジネスは、デジタルアイテムを経済に引き込むブロックチェーン技術、特にNFTの登場で加熱気味だ。一方、この市場はここ1、2年で立ち上がったものでないことも明白である。

新しい世代への対応やクリエイター経済、ビジネスにおける効率化など、仮想空間の活用にはどのような背景や課題があり、それをどういったソリューションで解決させようとしているのか、この辺りを整理すると複雑なメタバースが少しずつ見えてくるようになるかもしれない。

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