
Image credit: Ac-Planta
<21日午後3時更新> 当初、参考文献とした論文のうち1本については無関係であったため削除。
理化学研究所のスピンオフスタートアップで、植物の高温・乾燥耐性を高めるバイオスティミュラント資材を開発するアクプランタは20日、プレシリーズ A ラウンドの 1st クローズで約1.5億円を調達したと発表した。このラウンドに参加したのは、農林中金イノベーションファンド、SMBC ベンチャーキャピタル、KH ネオケム(東証:4189)。
アクプランタはこれより前、創業まもない2018年5月に経営共創基盤から、2020年2月に Yosemite LLC、ヒトトキインキュベーター、エンジェル投資家から資金調達している。
アクプランタは2018年2月、バイオサイエンスやエピジェネティクス(DNA の配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステムおよびその学術分野)の研究者である金鍾明(キム・ジョンミョン)氏により設立。金氏は、「酢酸が植物の高温・乾燥耐性を強化する」というメカニズムを発見した。このメカニズムを説明した論文は、自然科学における有名学術誌「Nature」に二度にわたって掲載されている。
<参考文献>
Acetic-acid-induced jasmonate signaling in root enhances drought avoidance in rice(Nature)- Acetate-mediated novel survival strategy against drought in plants(Nature)
このメカニズムが画期的なのは、植物に対して高温と乾燥に対する耐性を同時に与えることだ。これまでも、植物に対して高温、または、乾燥のそれぞれに対して耐性を高める手法はあった。ただ、植物は高温になると、葉の気孔を開いて蒸散作用を高めることで気化熱により熱を下げようとし、乾燥に対しては気孔を閉じて水分が蒸発防止に努める。つまり、高温と乾燥の両方に対して同時に耐性を求めることは「二律背反的なアプローチだ」と金氏は語る。
金氏が発見したのは、植物に酢酸を与えることで、植物が本来持っている高温と乾燥に対して耐性を持つ DNA を発現させるというものだ。金氏はこの発現プロセスを「閉じ込められている遺伝子情報をほどいてやる(アセチル化によって染色体を緩ませる)」という表現で説明してくれた。遺伝子組み換えや化学物質を添加するものではないため、植物にとっても、それを食す人間にとっても危険は生じない。

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ただ、酢酸は強い酸性を持つため、そのまま摂取させたのでは植物は枯れてしまう。アクプランタでは酢酸のメカニズムをベースに、特殊な方法で加工した植物活性剤(バイオスティミュラント)「Skeepon(スキーポン)」を開発した。Skeepon は植物に根から吸収させることができ、生育にも周辺環境にも影響を与えない。仮に人間がそのまま飲んでも大丈夫だという。Skeepon を植物に投与することで、植物自身が乾燥・高温耐性を高め、過酷な環境下でも生育を維持し、植物のロスを減らすことができる。
アクプランタでは、Skeepon を2019年から日本国内で販売を開始し、現在までに累計10,000ℓ以上の販売を行い、全国の農家やゴルフ場などで利用されている。単子葉類、双子葉類の違いにかかわらず、あらゆる植物に応用が可能で、必要最小限の水と肥料で作物を育てることで作物の味を濃くするような農法との併用も可能だ。同社では今回調達した資金を使って、市場が大きく、干ばつなどの被害に悩む農家も少なくないアメリカや中国への事業進出する計画だ。
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