投資契約書テンプレ「J-KISS」がメジャーアップデート——アーリーラウンドの調達大型化・長期化に対応

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Image credit: Coral Capital

Coral Capital は、シード資金調達のための投資契約書テンプレート「J-KISS」をメジャーアップデートしたことを明らかにした。これまでのバージョンを Ver.1 系、新しく公開されるバージョンを Ver.2 系として、双方が混同して扱われないように配慮したという。J-KISS は、将来ラウンドの株式転換(コンバーチブルエクイティ)を想定し、有償で発行される新株予約権の対価として資金調達を行うスキームだ。アーリーステージのスタートアップの調達に多用されている。

J-KISS のベースとなったコンバーチブルノート「KISS」は、アメリカの 500 Startups(現在の 500 Global)が発表した。名前は、バリュエーション設定が難しいシードステージのスタートアップの資金調達に配慮した、「Keep It Simple Security」というコンセプトに由来する。その日本版 J-KISS は2016年4月、Coral Capital の前身の 500 Startups Japan が日本市場に最適化したコンバーチブルノートとして発表した。

今回の J-KISS のメジャーアップデートで変更されるのは、主に次の2点だ。

  1. バリュエーションキャップが、プレマネー基準ではなくポストマネー基準になること。
  2. 契約書テンプレートの改変の有無が明示されること。

1. については、J-KISS を使ってプレシリーズ A ラウンドで調達するときに、プレマネーではわかりにくくなる希薄化率をわかりやすくする意図がある。アーリーラウンドの長期化、調達金額の大型化などに対応したものだ。

Image credit: Coral Capital

2. については、投資側・スタートアップ側共に、元々のテンプレートから改変が無いことをリーガルチェックする手間が省けるメリットがある。J-KISS はスムーズな契約のために改変せずに使うことが推奨されているが、普及に伴って意図が不明瞭な修正をして使う人が一部で増え、Keep It Simple Security にそぐわない利用が散見されてきたため、この一文を入れることにしたという。

なお、偶然の一致かもしれないが、経団連が今年3月に公開した提言「スタートアップ躍進ビジョン」にも次のような一文がある。

より活用が進むよう、官民が連携して制度の周知に努めるとともに、民間においては、契約書雛型の変更など、円滑かつ迅速な資金調達の妨げとなる行為については、関係者の理解のもと、極力避けることが望ましい。

当初から J-KISS の開発や展開に関わる Coral Capital 創業パートナーの澤山陽平氏によれば、今回の 1. と 2. の2つの変更は、KISS と台頭するもう一つのコンバーチブルノートである Y Combinator 開発の「SAFE(名前は、Simple Agreement for Future Equity に由来)」の改変を参考にしたものだという。アーリーラウンドの大型化・長期化は日本のみならずアメリカのスタートアップシーンのトレンドでもあり、その先行事例を取り込んだというわけだ。

J-KISS は前述の通り2016年4月から公開されていて、これまでにダウンロードされた総数は約1,000件。Coral Capital では2021年7月以降についてはダウンロードした人のデモグラフィックを取得していて、それによると、スタートアップが51.4%、VC が8.2%、企業が6.4%、エンジェルやファミリーオフィスが3.7%、機関投資家が0.9%、政府系が0.9%、教育機関が0.7%、メディアが0.6%などとなっている。

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