「まだ市場がないプロダクト」をどう売るか——IoTソリューション「MODE」売上向上の舞台裏

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本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」掲載された記事からの転載

スタートアップの成長をどう支援するのか、ベンチャーキャピタル、スタートアップ・ファンドにとって大きなテーマのひとつです。グローバル・ブレイン(以下GB)では、この問いに対してここ数年、さまざまな角度から答えを見つけるべく、体制を整えてきました。

今回ご紹介するのはIoT(Internet of Things)ソリューションを提供するMODEです。企業や人が見えない情報をセンサーで可視化し、様々なソリューションを生み出すプラットフォームを提供しています。創業者の上田学さんは米国GoogleにてGoogle Mapsの開発に携わり、その後、Twitter本社にてグロース・ハックチームに在籍していた経験があります。現実世界もデータに基づく改善を施すことで世の中がよくなる、そう考えて同社を米国にて創業しました。

一方、センサーさえ使えればあらゆる事象をデータ化できるというのは、何に使えば効果的なのか特定が難しい、ということの裏返しでもあります。この難しい課題に対し、MODEとGBのBizDevチームは営業とPR戦略を練り直し、売上を拡大させることに成功します。

その過程についてMODEで事業開発にあたった上野聡志さんと、それを支援したGBのBizDevチームの泉浩之にその経緯と成果を語っていただきました。(太字の質問はすべてUniverse編集部)

上野聡志:ISPに入社後、コンシューマサービスの立ち上げや、クラウド事業の立ち上げ等、新規事業開発を推進。経営戦略室を経て、2015年7月にシリコンバレーの富士通アメリカに出向し、スタートアップへの投資や事業提携など事業開発を経て、センサープラットフォーム開発のMODE, Inc.日本代表に就任、米国在住。

泉浩之:2019年にGB参画。Deep Techおよび海外スタートアップの日本市場進出を支援するBizDevチームを立ち上げる。チームリーダーとして大企業への営業とコラボレーションを軸とした事業開発を実施。

まず最初にMODEとして米国での成功事例を日本に展開していくに当たってどのような壁があったのか。このあたりの課題感からお話いただいてもよろしいですか?

上野:日本法人のMODE Japanを立ち上げたのは2017年に僕がアメリカから帰国した際でしたが、その時の課題はMODEが誰にも知られていないことでした。信用も構築できてないのでコツコツと小さい事例を積み上げていたのが2020年までです。GBさんに投資をしてもらったのが2020年12月なんですが、そこから泉さんに協力してもらい、事例をうまく使ってレバレッジをかけて大きい案件を取りにいくための体制ができました。

協力してもらったことは大きく2つあって、GBさんのネットワークを活用して大企業にアプローチするのが1つ。もう1つはやっぱりGBさんのブランドです。日本でGBを知らない会社って少ないと思うんですけど、MODEを知らない会社は9割5分ぐらいなんですよね(笑。スタートアップの一番の課題ってやっぱりブランドや信頼なので、そこに対してレバレッジをかけていただいたのが一番大きいです。

それまでの案件単価だと大体年間で300万円程度でしたが、1,000万円〜3,000万円ほどの大きなディールが一気に増えてスケールアップができました。

初期の頃の小さい積み上げは具体的にどのようにされていたのですか?

上野:ほぼ9割は「わらしべ長者」みたいな動きをしていて、知り合い経由でいろんな会社さんに連れ回していただいていました。ただスクリーニングができてないので、ミスマッチも多かったように思います。それがGBさんだと(紹介する前に)お客さんの課題にマッチさせてくれるんです。泉さんと去年に実施した紹介案件が15件以上あるんですが、そのうち5割から7割ぐらい受注してる、残りも前向きにご検討いただいている案件が多いです。

なるほど。すごい確率ですね。では泉さん視点で、まず最初の相談があったとき、どのように整理されましたか

:我々のチームはDeep Techや海外スタートアップの日本進出支援をやってるんですけれども、Deep Tech系って技術はあるもののまだ市場が確立されてなかったり、売り方が分からないみたいなケースがあるので、サポートがすごく難しいんですよね。

アプローチとしては2つあって、1つはスタートアップ側と一緒に対象となる業界や企業を洗い出してコンタクトしていくという方法で、もう1つが既存のネットワークからアプローチする方法です。我々のチームは様々な支援先があるので、多くの大企業さんとお会いする機会があるんですね。特にイノベーション部門の方などにお会いする中で、逆に私が支援している会社がフィットするところにご提案するようにしています。

大企業さん側でも新しい事業をやれと言われたものの、すぐに思いつかないのでなかなか手が出せないことも多いです。Deep Techとなると特にですね。そこで我々としては最初に大企業さん側の中期経営計画や注力分野をしっかり把握しつつ、MODEさんの最新の事例やその業界で使えそうな事例もできる限り聞いておいて、それをいつでも話せるようにしておくのが大事だと考えています。

大企業が新しい事業をやりたい時、「よいIoT企業があります」と言うだけだと興味を持たれません。先方もどのようなイメージで事業を作っていくのかが分からないんです。そのため「この分野のこういうことに使えるんじゃないですか」と、小さな事例をアイデアとして出して初めて次に進むことができるようになります。

あとはIoTであれば、どの業界でも苦労しているポイントは同じなので、そういった点を話しながら、MODEだったらそこが簡単にできると伝える。そうすると興味を持ってもらえるんです。その段階に進んでから、上野さんにうまく繋げていっています。そういう意味ではいかにMODEの人になるというか、支援先のファンになるかがすごく重要だと思いますね。

MODEが市場に受け入れられるポイントとしてマーケットの解像度を上げるという点を挙げていただきました。このプロセスについて具体的にお話いただけますか

上野:これにはゴールデンストーリーがありまして。2021年の頭ごろ、GBさんとビジョンやメッセージを作るためのPRワークショップを実施いただきました。MODEがどういうコンセプトで、どういうサービスを提供しているかについてディスカッションしたんですが、そこで決めたのは「Unknownをなくす」ということでした。

この「Unknown」をたくさん持っているお客さんがターゲットだよね、という形で営業戦略に落としていったんです。

具体的には建設業や鉄道会社。あとロボットが世界各国の様々な場所で実施している裏側のメンテナンスみたいな場所。こういった色々な場所で「見えないものを見えるようにする(=Unknownをなくす)」ことが僕らのソリューションだという、ビジョンを一緒に定義できたのは大きかったです。

広域にサポート、カバーしなきゃいけないお客さんが見えてきたことで、例えば鉄道会社に可能性がありそうとなれば、泉さんに紹介していただくという流れに繋がりました。具体的にはJR東日本スタートアップ様のプログラムに採用されて、今では様々な取り組みをご一緒させていただいております。

同様に、例えばコールドチェーン(※冷凍保存の必要なサプライチェーン)のお客さんは多くの倉庫を持っています。その見えないところを可視化するという課題に対して僕らは答えが出せるので、このビジョンからGBさんと一緒に入っていくわけです。

泉さんからも対象となりうるお客さんを紹介してくれますし、現在は営業として、建設・鉄道・ロボットにフォーカスできたところが大きいです。それはなぜかと言うとさっきのUnknownが多いところだからという、すごくいい論法ができたんじゃないかなと思っています。

ありがとうございます。では泉さん、大企業側との温度感や期待値はどのように調整してるんですか?

:上野さんもおっしゃったように業界が合えば何でも紹介してるわけではなく、注力領域やその中でMODEがどのように使えるかを考えた上で大企業にお話ししています。予算の有無に関して具体的な金額をお聞きすることも結構ありますし、案件化までのプロセスや投資実績、これまでのスタートアップとの取り組みなどもお聞きしています。

例えばイノベーション部門から始まり、事業部門に紹介されて承認が取れれば実証実験が始まるなど、そのようなプロセスもしっかりと確認します。やっぱりスピード感も含めて権限持って進められてるところは非常に進めやすいですね。

そうでないところは現時点の悩みを聞いた上で、他の会社がどのようにうまく決めてるかを議論しつつ、次までに温めておくよう関係値を保っています。また、とにかく何でもかんでもやってくれみたいなケースもあるので、そこはできる・できないを話すようにしていますね。

MODEさんはIoTの基盤は持ってるけども、要件にAIでのデータ解析があればAI会社とも組まないといけません。その場合はこちらからも紹介できますし、MODEさんが組んでる会社もあります。ただ、やれることと・やれないことも全てお話しした上で、他社ではMODEさんがどのように事業展開しているかをご説明し、過度な期待にはならないように注意しています。

「Unknownをなくす」というビジョンが見えてからの、具体的にどのような取り組みをされたんでしょうか

上野:JR東日本さんのスタートアッププログラムを泉さんにご紹介いただいて、アクセラレーションプログラムに採用されることになりました。駅の工事は浜松町駅などで多く行われていますが、夜間にしかできない問題があります。電車が動いてない3〜4時間、その時間をとにかく短縮する。

駅の工事をひとつやるのに5年がかり、6年がかりというケースは多いです。それを1日30分短くすることができたら、工期が5年から4年になったり、そのコストも5分の4になったりするわけです。そこで工期を短くするためのシミュレーションができる「デジタルツイン(仮想上のデジタルコピー世界)」を作ろうという取り組みを、JR東日本さんと去年の年末から今年の3月まで一緒にやらせていただいてました。

建設工事部の方々も非常に協力的にやってくださいました。現場の効率をいかによくするかについて一緒にディスカッションしながら、様々な取り組みをご一緒させていただきました。今はそこでできた知見を鉄道工事向けのソリューションの形にして、鉄道会社さんや工事現場の会社さんにも提供しています。

泉さんはどのような経緯でこのプログラムをご紹介されたのですか?

:JR東日本さんはアセットをものすごく持っていますが、まだ「見える化」できてないことも多く、そういう意味ではどのIoTの企業とも相性がいいのかなと思います。

ただ、最終的にスタートアッププログラムに採択されるケースというのは、具体的に案件化につながらないと意味がありません。そういう点ではやはりMODEさん、特に上野さんの「持っていく力」がないとなかなか進まないのではと思っていました。

また、個人的にはコールドチェーン企業への導入、これは物流会社さんという括り方の方がよいかもしれませんが、そこが結構良い成功パターンだと思っています。

そこで大きな基盤にいきなり取り組むのではなく、ひとつの倉庫をまず見える化する。そこから横展開し、MODEで収集できる環境データだけでなく、人や物のデータを追加し、どんどん基盤を大きくしていくという基盤的な利用になっています。さらにこういった事例ができる中、MODEとしても今、「BizStack」という統合管理ツール、全体を俯瞰的にドリルダウンできるツールを開発しています。

小さく導入して大きく使ってもらい、なるべくそのままずっとLTVを最大化していく、といったことが一番できるシナリオじゃないかなと思います。

「Unknownをなくす」というビジョンが言語化できたからこそだと思いますが、今までもこのような言語化の作業はされていたのでしょうか

上野:いや、全く何もしてないので相談をさせていただきました。今まで僕らのやってるPRは何かと言うとPR TIMESなどにプレスリリースを掲載することだったんです(笑。これが僕らの全てだったんですけど、やはりそこから会社として何をやっていくのかとか、GBさんに資金を入れていただいて、採用のために人やお客さんを惹きつけるためのメッセージを作らなきゃいけないという課題意識があったんです。

それで泉さんに相談したらPR支援チームを紹介していただいて、まずはメッセージをきっちり作ろうと、去年の年始にディスカッションができました。採用でもこれまでは「IoT」というと「スマートホームですか」みたいな人たちが結構いらっしゃるので、そういった贅肉を削ぎ落としてメッセージができたのはすごく大きいですね。

最後にサポート全体についてお伺いしたいのですが、時に出資者からのアドバイスは距離感を誤ると経営に悪影響を与える可能性があります。外部支援者だからこそできると考える点はどこにあるでしょうか

上野:まずすごくありがたかったのは、お客さんとのミーティングでも、イントロミーティングして紹介して終わりじゃなく、泉さんは何度も入ってくれるんですよね。例えば昨日もたぶん2つぐらいのミーティングで一緒でしたし。3rdミーティング、4thミーティングにも泉さんには出ていただいてます。

僕らから言うとどうしてもセールストークになっちゃうところを、中立的な立場で整理してくれる人がいるって実はものすごく心強いです。僕が「こう進めるべきです」って言っても営業トークと捉えられがちです。第三者としてミーティングで違う会社の人が喋ってくれるのはすごく大きいと思いますね。

出資者やその支援チームなどとの協働に関して、線引きや留意点などがあれば教えていただけますか

上野:投資家の人にお金の話や案件の話って隠したくなるのがたぶんスタートアップの性だと思うんですけど、僕はなるべくオープンにするようにしています。

正直うまくいってないことについても、会社の先輩のように泉さんに普通に相談できる。もう、1つのチームなんですよね。ここが困ってるって包み隠さず全部共有することが一番大事なことなのかなと思っています。

ありがちな話として、出資を受けた相手から詳細な情報を厳しく求められ、思わず隠してしまうみたいなことがありますが、それってすごく嫌な関係だと思うんですよね。GBさんにはそれがなく、うまくいかないことに対しても一緒に考えてもらえるところが一番大きいです。VCとのつき合い方という意味では、そういう関係を作り上げるのが最優先なんじゃないかなっていう気がします。

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