バンダイナムコのCVC、立役者に聞いたスタートアップとの共創で目指すもの(後編)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

バンダイナムコエンターテインメントは2022年4月、メタバース および エンターテインメント領域を対象としたCVC「Bandai Namco Entertainment 021 Fund(021 Fund)」 を設立したと発表した。「IP(キャラクターなどの知的財産)メタバース」の構築、新たなエンターテインメントの創出を目指し、この領域のスタートアップに3年間で30億円(毎年10億円)を出資する。

新ファンドがどのようなものなのか、ファンド設立に至った背景などについて、同ファンドのインベストメントマネージャーの池田一樹氏(写真左)とインベストメントリーダーの松原真倫氏(写真右)に話を聞いた。

(前編からの続き)

KDDI の CVC「KDDI Open Innovation Fund」の場合は、グローバル・ブレインさんとの「二人組合(事業会社とVCで CVC ファンドを共同設立する形態。VC が GP、事業会社が LP を務め、2社しかいないのでこう呼ばれる)」という形を取っていますが、貴社の場合は内製で単独運用されています。
そのために新たな人員やキャピタリストは採用されたのですか?

池田:我々も館林さん(KDDIビジネスインキュベーション推進部 部長 舘林 俊平氏)からご紹介いただいて、いくつかのVCと二人組合は考えたのですが、CVC設立の目的の一つでもあるネットワークやノウハウの蓄積のためには、大変だけれども単独でやった方が良いのではないかという判断になりました。

CVCの立ち上げは僕が初め提案したのですが、提案しながら立ち上げに備えて採用もして、その中で事業開発では松原が加わってくれました。今もキャピタリスト的なスキルをもった人材を募集しています。

また、大手企業のCVCのサポートを多く手掛けるバリュークリエイトさんにもソーシングや投資判断のサポートに入っていただいています。バリュークリエイトからは起業家であり投資家でもあるBarry O’Neill(バリー・オニール)さんや、著名なキャピタリストである宮坂さん(Capital T CEO の宮坂友大氏)にチームに入っていただき、ノウハウを存分に吸収しています。

決裁者として宮河社長がいらっしゃるというのもかなり大きいですよね。意思決定のスピードが相当早いのではないかと思いますが、意思決定プロセスについてもお伺いできますか?

松原:そうですね。投資委員は宮河と現取締役から2名の計3名です。一般的なフローだと思うのですが、我々がソーシングをして、競合分析や投資仮説を作って投資委員会に上げていきます。その前に投資委員会と同じメンバーで案件検討会議を実施しており、そこから本格的な DD(デューデリジェンス)ですね。GO が出たものについては大体1ヶ月から2ヶ月ぐらいかけて DD をして、最終的に投資委員会に諮ります。

池田:本体から投資していた時は取締役会の周期を待たねばならず、また、事前説明が必要な範囲が広かったこともあり、根回しや資料準備に時間を要していましたが、ファンドにしてからは結果報告がメインになったので、おっしゃる通り、速やかな決裁ができるようになっていると感じています。

投資先との連携や共創事例はいかがでしょうか?

池田:Gaudiy さんや double jump.tokyoさんは我々のチームが主たる窓口となり、事業部との連携を進めています。

松原:double jump.tokyoさんは、我々は協業仮説が弱い段階だったのですが、事業内容や経営メンバーの方々のポテンシャルに大いに可能性を感じたこと、また、タイミングよく出資検討の時期に徐々にNFTやブロックチェーンというキーワードがエンタメ業界でも広まってきたことも踏まえ、トップ層が「やってみよう!」という形で出資が決まりました。

投資段階では協業仮説が弱かったけれども、時流が上手く繋がってきたという非常にいい事例だったなと思っています。そういう形で事業としてその領域の可能性が見えない段階でも、我々が先行して張っていって、そこに事業のニーズが高まったときに一気に事業創出につなげていくという事例を、double jump.tokyoさんをはじめとして、今後も作っていきたいと思っています。

池田:それと正反対なのがソフトギア さんでした。

松原:ソフトギアさんは一緒のタイミングで、KDDIさんはフォローオンという形で入られていると思います。ソフトギアさんは、事業部が昔からお付き合いのある開発会社さんで、オンラインゲームのネットワークインフラ開発に強みを持っておられ、出資を通じてさらに関係性を強化し、技術面のノウハウ共有などを進めています。

このような既存事業の基盤強化と、double jump.tokyoさんのような新しいビジネスが生まれ得る領域に張っていくという2つの軸で出資を進めています。

この2軸のバランスには気をつけてやっていきたいなと思っています。既存事業の強化の部分は、事業部としては助かったといったニュアンスを感じてくれるので、投資価値を体感しやすく社内的に通りやすいんです。ただ、それは今の延長線上にある力を強化していくっていうところになっていくので、我々としてはリニアな成長じゃなく、急激な成長みたいなものも生み出せるよう狙っていきたいという意味で、現状の仮説が弱くても、将来的なかけ算で爆発的に伸びていくような会社さんや技術・ビジネス領域にも注視していきたいと思っています。

メタバース領域というのは、もう国内に閉じている場合ではないというか、むしろ海外の方が圧倒的に進んでいたりしますが、国内外同じぐらいのバランスでやっていこうという方針ですか?

池田:我々の理念としては同じバランスでやっていきたいと考えているのですが、現状ではチームがジャパンエンタメ中心というところもあるので、目線としては国内に向きがちではあります。ですが、当グループ会社の海外メンバーにもソーシングをサポートしてもらっているので、海外の案件も面談ベースで、何件もやらせていただいています。

海外のスタートアップからすれば、日本のIPは喉から手が出るほど欲しいはずですね。我々も海外のスタートアップに「投資するので、日本に進出しませんか」という話はするのですが、日本市場が小さいと見られているのか、あまり響かないことがあります。その点、貴社は海外に出せるものを多くお持ちなので、彼らの目には魅力的に映っているように思います。

松原:そうですね。メタバースに関する発表をさせていただいた後は、ガンダム関係での引き合いは多いです。Web3 関係の会社さんの中でもプラットフォームに近いサービスを展開されているところは、ライセンスアウトで NFT のコラボ商品出してみませんか?とか、そういう引き合いは本当にありがたいと思うくらいたくさんいただいています。

ただ我々としてもやっていきたいなという思いはありますが、ファンにとってより良い出し方をかなり慎重に議論しながら、提携するのか、独自に展開するのかというところを議論しています。

池田:021 Fundは出資を通じてブロックチェーン関連のスタートアップとのネットワークが出来てきたこともあり、事業部の定例会などにも出席しているのですが、事業部が「技術力はよくわからないけど、この会社と組むのはどう思う?」と判断するところから我々のチームにも声をかけてくれて、一緒に検討するような体制になっています。これはCVCとして目指す姿でもあったので大変嬉しい反応です。

松原:当初は、ブロックチェーンと事業部を繋ぐことができなかったのですが、我々が double jump.tokyoさんなどとずっと定期的にミーティングさせてもらっていたので、少しだけ先行して業界事情や技術的なバックグラウンドが身に付いていたと思っています。エンタメ業界全体への追い風を感じています。

今回、メタバースをど真ん中に持ってきた点については、新型コロナウイルスの影響で、エンタメのあり方が根底から変わったというような影響がありますか?

松原:メタバース構想に関しては、新型コロナウイルスの影響というよりは、IPを軸に世界中のファンとより深く広く複雑につながるための仕組みとして弊社の宮河が構想したと聞いています。

我々が重要なKPIとしているのが「ファンの方々の熱量を上げる」ということです。熱量というものを定量的に把握するのは難しいのですが、売上を増やすというよりも、ファンの方々の期待を超えるものを創っていくことを目指すことで、最終的に売上や利益に繋がっていくという考え方です。ファンドチームの活動もこれと同様で、ファンの方々の喜びとか楽しみを生み出すために、いま投資すべきものは何かを徹底的に考えていきたいと思っています。

非常によくわかりました。良い話を聞けてよかったです。お忙しいところ、お時間をいただき、ありがとうございました。

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