不妊治療にイノベーション、iPS細胞由来卵子を開発するDioseve(ディオシーヴ)が4億円をシード調達

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Dioseve  のチーム。左から3人目が、代表取締役の岸田和真氏。
Image credit:  Dioseve

iPS 細胞については、山中伸弥氏(現在、京都大学 iPS 細胞研究所長・教授)が2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことを契機に、我々も日常的に耳にするようになった。iPS 細胞の日本語での正式名称は人工多能性幹細胞、つまり、そこからヒト(ヒトに限らず、あらゆる生物に適用可能だが)のあらゆる身体部位の細胞に変化させられる細胞のことだ。事故や病気などで損傷や摘出した臓器や組織の再生医療の分野で注目を集めている。

倫理的課題はあるものの、この iPS 細胞から卵子(卵細胞)を作製することができれば、妊娠や生殖にまつわる多くの問題を解決することができるだろう。まず、卵子の老化・閉経・排卵障害といった問題を回避できるため、女性は何歳でも妊娠できるようになる。子宮に問題があっても、受精卵を預かってくれる代理母を見つけられれば、生まれてくる子供は自分の遺伝子を受け継ぐことになる。男性からも卵子を作製できるから、男性同士のカップルも子供の biological parents になれるのだ。

東京・本郷に拠点を置く Dioseve(ディオシーヴ)は、米系投資銀行の Houlihan Lokey 出身の岸田和真氏(Dioseve 代表取締役)と、ワシントン大学/HHMI(ハワード・ヒューズ医学研究所)特別研究員の浜崎伸彦氏(Dioseve 共同創業者兼取締役)により2021年6月に創業。同社は18日、シードラウンドで ANRI と Coral Capital から4億円を調達したと発表した。同社のチームは13名で多くはサイエンティストで構成されているが、今後、卵子作成技術の確立に向けた研究開発や人材採用の加速させる。

iPS 細胞から卵子を作製するのは、現在のところ、技術的にはまだかなり難しい。難しいというのは、不可能ではないものの、不確定因子が多いために、うまくいかないケースがそれなりにあったり、コストや時間がかなりかかったりする、ということだ。浜崎氏によれば、この工程にマウスの場合で1ヶ月、ヒトの場合でおそらく半年から1年を要するという。専門的な技術詳細は論文などに委ねるが、浜崎氏らが発明した DIOLs(Directly Induced Oocyte-like cells)では、この工程を5日間で実現できたという。

この分野では、SOSV のバイオサイエンス特化アクセラレータ Indie Bio が支援する Ivy Natal や、Y Combinator のリサーチ部門出身の CEO が牽引する Conception といったスタートアップが存在する。Dioseve が iPS 細胞から受精可能な卵子を誘導し、マウス卵子での受精を実現できているのに対し、Ivy Natal は始原生殖細胞(卵細胞の前駆細胞)の生成、Conception は高額かつ高度な手技を要する卵子の培養技術を元にしているのに比べると、Dioseve の優位性は高い、と岸田氏は言う。

この技術が安全かつコストパフォーマンスの良い状態で確立できたとしても、日本では社会観や倫理制度の性質から、実用化されるのはかなり先のことになるだろう。Dioseve では欧米の方が受け入れられるのは早いと考えている。それでも、臨床や規制当局の承認を経て、一般の人々が目にすることができるようなものになるのは2030年以降だろう。これまでさまざまな理由で子供を諦めなければならなかった人々にとって、画期的な技術が身近になる日はそう遠いものではないかもしれない。

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