favy、マンションを救う(2)成功の鍵握る3,700戸の「仮想レストラン」

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favyが入居した地域貢献施設のある東京建物のマンション

前半ではfavyがマンションのテナントとして入居、OMOカフェをオープンさせた件をお伝えしました。一方、彼らは飲食店を出店し、コーヒーを売って利益を得ることがメインの企業ではありません。あくまで飲食店向けにデジタルインフラを提供し、例えばモバイルオーダーに対応したり、サブスクリプションを開始して顧客管理をデジタル化する、そういう支援をするスタートアップです。

なぜ彼らは人通りの限られた、他の大手チェーンが入居を拒否したマンションのテナントに入居したのでしょうか?

この鍵を握るのがデータドリブンの飲食店経営モデルとゴーストキッチンのアイデアです。少し背景含めて解説してみます。

地域貢献施設のハードル

赤いピンが立っているのがfavyの入居した地域貢献施設(Image Credit : Google)

アイデアの解説をする前に、彼らが入居したテナントに住人としても住んでいる身なので、周辺環境についても軽く記載しておきます。東京都の江東区にある有明地区はここ10年ほど開発が進んでいる住宅区で、観光客を多く集めるお台場に隣接しています。コミックマーケットに参加している人であれば、会場となる東京ビッグサイトのある場所、と言った方が分かるかもしれません。東京オリンピックで堀米雄斗選手が金メダルに輝いたスケートボードの会場もここでした。

favyが入居したマンションは東京建物がこの地区で展開しているブリリアというブランドの四棟目にあたる建物で、最初の一棟目となる「ブリリアマーレ有明」ができたのは2008年12月です。四棟すべての戸数を合計すると3,700戸ほどで、子供のいるファミリー層や若いカップルなどが目立つ、といった感じです。改めて戸数を数えると大きいなと思う一方、マンション族ならではの横つながりの希薄さみたいなものはやはり感じます。新興住宅地というのも大きいかもしれません。

さて、今回、favyが入居したテナント箇所は江東区が指定する「地域貢献施設」という場所になっています。これは一定の戸数を持つ建築物を建てる場合に指定される条件のようなもので、江東区では2018年に 改訂されました。 要は地域に役立つ場所を作ってください、というものです。

テナントのオープニングで東京建物の浅沼正樹さんが近隣住民にアンケートした結果を披露していましたが、リクエストとしては圧倒的にカフェが多かったそうです。3,700戸に住んでいる世帯が徒歩5分圏内にあって住民の要望も多い。競合となるカフェも存在しない。それでも大手のカフェチェーンは入居を見送ったわけです。ここの条件の厳しさが垣間見えるのではないでしょうか。

データドリブンに姿を変える

近隣地域の要望はコミュニケーションが取れる場所の存在

favyの勝ち筋のひとつ、それがデータです。favyではキャッシュレスやモバイルオーダー、サブスクリプションなどの利便性を提供する代わり、来店ユーザーをできるだけデジタルデータに落とし込みます。来店傾向や店員によるメモ情報などを共有することで、利用客をできるだけ可視化します。

このデータに基づいた最適化がひとつ目の打ち手です。前回の記事にも記載しましたが、彼らはレストラン向けのデジタルインフラを提供するために、自分たちでこれまで飲食店を出店してきました。今回のテナントとなるcoffee mafiaもそのひとつですが、これ以外にも焼肉や寿司など、13種類の飲食店を用意することができるそうです。

favyが手がけるシェア型キッチン事業「re:Dine GINZA(リダイン銀座)」には、彼らが提供できるメニューの一部が掲載されているのですが、ここで販売されている屋久島1000年コーラも、今回のcoffee mafia有明店に並んでいました。

屋久島1000年コーラ

今回のテナントの奥にはセントラル型のキッチンが整備されています。カフェという形態は地域貢献施設という縛りがあるので変わらないかもしれませんが、来店客に合わせて出すメニューに幅を持たせることは可能になる、というわけです。

ゴーストキッチンが住居をレストランに変える

ただそれでも決め手に欠けます。それを補ってあまりある期待値がマンションを「仮想レストラン」化するアイデアです。

Uberがデリバリーサービス「Uber Eats」に本格的に取り組んだ 2015年あたりから 話題になったのが「ゴーストレストラン(キッチン)」というモデルでした。自前で店舗や店員を持たず、食事を作って配達はこういったデリバリーに依頼するという手法はコロナ禍を契機に拡大の道を辿ることになりました。米国ではちょうど、感染症拡大が猛威を振るっていた2020年の末頃、消費者の6割が週に一度、配達またはテイクアウトを 利用していたそうです。

この波を受けて米フードデリバリー大手のGrubhubは今年6月、配達専用レストランとして「MasterChef Table」の立ち上げを 発表しています。 これはレストランなど既存のキッチンを持っている事業者が人気シェフの作るメニュー「MasterChef Table」のライセンスを取得してゴーストレストランの事業運営ができる、というものです。

favyがシェア型キッチン事業で提供するメニュー(一部)

日本でもほぼ同時期の今年5月、デリバリー大手の「出前館」がオリジナルブランドの料理を提供するゴーストレストラン事業 「DeKitchens」を発表しました。 出前館が食品メーカーなどと開発したメニューを参加している施設や店舗にライセンスし、調理を委託、配達するというものです。GrubhubのMasterChef Tableも、出前館のDeKitchensも、メニュー開発や食材確保、梱包といったオペレーションが不要になるのがメリットです。ちなみにICT総研が昨年4月に発表した調査によれば、日本国内のフードデリバリーの利用経験は3割程度に留まるものの、非利用者の意向については7割が利用してみたいと 回答しているそうです。

さて、では話をfavyに戻します。

今回、favyでは店舗内にセントラルキッチンを設けるのですが、ここをゴーストキッチン化する計画があるというのです。これが実施されると、彼らは来店客とは異なる、別の需要を期待することができます。つまり、地域のデリバリー需要です。先に書いた通り彼らは複数のメニューを持っていますし、データが蓄積されれば地域住民が欲しいと思っているメニューを開発することもできます。

周辺地域の「ゴーストキッチン化」が実現すれば、3700戸・世帯は彼らの仮装的なレストランの客席になる

ここからは予想ですが、近隣地域であれば配達することもできます。通常、デリバリー事業者を使った配達でデメリットとされるのが高い配達手数料です。ICT総研の調査でも使わない理由の不満の大多数が 料金の高さにありました。 もし、ゴーストキッチンがマンションについていれば、配達にサードパーティーを使う必要はありません。住人が取りに行くこともできます。

そしてもうひとつ、大きなメリットとしてセキュリティの話もあります。ゴーストキッチンのモデルは場所や料理人、配達する人がすべてバラバラになるケースがあるため、責任の所在が不明瞭になりがちです。一方、favyのケースでは店舗自体もあるため、顔が見えるという点で安心感があります。

つまり高梨さんたちは、この人通りが限られるマンションのテナントに小さなコーヒー店を出店したのではなく、徒歩5分圏内にある3,700戸以上の世帯を仮想的なレストランにしようと考えた、というわけです。この視点の転換はブランドやオペレーションが決まっている事業者にはなかなか難しい判断だったかもしれません。

オープンから2週間。フードデリバリーなどの展開はまだこれからですが、favyの描くストーリーがこの通りになれば出店に苦しんだ建設計画を救うだけでなく、地域住民に新しい料理のサービスや、地域住民が待ち望んでいたコミュニケーションの機会を提供するものになると予想しています。

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