認知変化と採用に大きな成果、Gaudiyは「Web3モメンタム」をどうPRに活かした【 #スタートアップPR Dayレポ】

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7月からBRIDGEではスタートアップPRをテーマにしたミートアップ「スタートアップPR Day」を開催しています。本稿では7月8日の準備回と8月5日に実施した初回レポートを前後編に分けてお送りします。

2度目のブロックチェーン・トレンド

Googleトレンドで過去5年間の比較(赤:NFT、黄:メタバース、青:Web3、緑:ICO)

2021年の初旬あたりから急速に立ち上がってきたウェブトレンド、それが「Web3」です。Googleトレンドでも赤いラインのNFT、黄色ラインのメタバースに引っ張られる形で青線のWeb3が持ち上がっているのがわかります。この言葉自体は2014年にPolcadotのGavinwood氏が提唱した「Dapps: What Web 3.0 Looks Like」に記述されているWeb3.0を起点に考える方が多いと思いますが、指し示す世界観が「インターネット」同様に幅が広く、輪郭はぼんやりしています。

Web3の定義については本筋から離れるので一度置いておきますが、こういったトレンドワードはPR活動にとって重要なモメンタムを作り出す一方、使い方を誤るとバズ化し、炎上の対象になりかねません。実際、インプレスが発行した関連書籍は回収騒ぎに発展しました。

このPR広報ビッグウェーブを乗り切ったのがGaudiyです。2018年創業で、ブロックチェーン技術を応用したプロトコルやアプリケーション開発、コンサルティングなどを手がけながら、独自のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を開発し、これを主力事業として伸ばそうというスタートアップです。6月に25億円という大型の資金調達を発表しました。

少し背景を補足しておきます。

ブロックチェーン技術はビットコインの価格高騰や、スマートコントラクトが乗っかるイーサリアムの登場、そして国内でもICO(イニシャル・コイン・オファリング)という新たな資金調達手法が投機マネーを引き込んだことで、2017年から2018年にかけて大きく話題(Googleトレンドの緑ライン)になりました。Gaudiyの創業もこの辺りです。しかし、GoogleトレンドにあるようにICOバブルが弾けた2018年の夏頃から2021年の初旬まで、このトレンドは長らく「冬の時代」を迎えることになります。つまりGaudiyは世界的なトレンドになった時期と、2021年から再開した大きな波の両方を経験しているのです。

その前提で彼らが今回の資金調達を機にどのようなPR戦略を取ったのかをセッションでお聞きしました。

なお、詳しい振り返りは今回、セッションにも登壇してくれたこのプロジェクトのリーダー、Gaudiyの山本花香さんがnoteに記述されているので詳細はそちらに譲るとして、本稿では特に気になった経営者の役割やKPI・導線設計、モメンタム維持のための方法についてお話いただいた内容をレポートします。

PRプロジェクト、それぞれの役割

写真左から:Gaudiy代表取締役の石川裕也さん、PRチームの山本花香さん、PR支援に入ったSTRIVEの田原朋恵さん

スタートアップにとって大きな成長の節目になるのが増資です。種類株のような特殊な新株発行を実施「できる」ためには、銀行などの金融機関融資とは異なる評価が必要だからです。通常、スタートアップ投資(※種類株などを使った急成長を目指した出資)は株式公開をひとつの節目とするため、足元の収支とは違い、将来価値を最大化させる「高い成長率」を見込んでもらう必要があります。

ベンチャーキャピタルが数多くなりましたが、彼らはこの目利きのプロであり、スタートアップの増資はその成長を第三者が認めたイベントとも言い換えられるわけです。逆にスタートアップの資金調達で「銀行融資」のニュースが少ないのはそういう理由です。

さて、大型の増資が決定した舞台裏はどのようなものだったのでしょうか。Gaudiyの山本さんはタイムスケジュールに沿って次のように説明してくれました。

「今年の3月末頃からそろそろ資金調達だねという話をしていて、4月中にまず石川さんと私の方で目的設定について今回は採用に全振りするということと、どういった認知を得たいのかというところを議論していきました。資金調達がクローズするのが4月末頃だったので、そこから6月1日のリリースに向けて色々仕込むことをやっていましたね。全体として大きく2つやったかなと思っていて、ひとつはプレスリリースが出る日のパブリシティを最大化して瞬間風速を獲得すること、もうひとつは初日の風速を一時的に終わらせず、いかに継続していくかというところです」。

気になるのはこういうプロジェクトをキックオフする際、「経営者」は何をすべきか、という点です。往々にして彼らはPRのプロではありません。石川さんは代表として目的の設定と旗を立ててチームに伝えることの大切さを語ります。

「資金調達というイベントはスタートアップが採用などにおいて『無双モード』になるタイミングなので、これを逃すとほぼ無理なんです。なので、その手前から業務的には完全にそれに集中して欲しいという意思決定をしました。会社としても、例えば山本さん大変そうなんで人事のここ巻き取ってください、みたいなそういうバックアップを意識しました。会社としてこれだけ大事なことであるということを明言することだと思います。資金調達だけであれば、同じタイミングで僕たちより金額が多い人たちもいましたし、疑問を持つ方もいらっしゃいましたけど、GaudiyのPRがうまくいった理由は、そのプロジェクトが会社にとってどれだけ大事かっていう『旗を立てた』ことだったと思います。これで優秀な人たちが入ってくることで、よりプロダクトはグロースするよねという意味をしっかり会社の中で浸透させることだと思います」。

もう一人、このプロジェクトにおいて重要な存在が投資家です。国内におけるスタートアップ投資専業のベンチャーキャピタルは、もはやリスクマネーを投じるだけの存在ではありません。その企業の成長と適正な株価、将来価値、そしてそこから割り戻した現在のあるべき姿を経営陣と共に考えて、必要な人・モノ・資金を集める役割が求められています。

このプロジェクトにおける伴走者としてのSTRIVEの強みは、長期かつ幅広い企業にまたがった知見の共有です。その上でSTRIVEの田原さんは中長期的な視点と活動が成功の鍵を握ったと語ります。

「私は会社の中にいる人間ではないので、あくまでもVCという客観的な立場でアドバイスをさせていただきました。まず、メディアリレーションの部分で意識したところとしては、一緒に関わってもう2年ぐらいが経ってるので、どういった『PRの山』を作るべきかみたいなところがありましたね。ちょうどWeb3という波があったのでそこを使う手はないというのと、もちろん調達金額自体も大きいので、ニュースバリュー自体も高いかなと。ただ、最近では調達をするというだけではニュースバリューにならないというのがどの会社でも言われていることなので、更にここからどういったバリュー出していくかっていうところは常に山本さんと考えていました。実際、今回の支援はスポットでやったわけではなく、去年1年間もずっとPRが動いていて、小さい波を色んなメディアさんと一緒に作ってきた中で、これを爆発させたみたいな流れがあるんです。やはり短期的ではなく、中長期でPR戦略を考えながら一緒に動けたことはよかったかなと思ってます」。

ちなみに山本さんも田原さんも元々、前職ではメディアの編集を経験した人物です。今回のPRストーリーを作るにあたり、この「編集する力」が役に立ったとお話されていました。このように経営者、PRチームの責任者、そしてVCがそれぞれの視点で役割を担い、Gaudiyの25億円増資・PRプロジェクトは当日を迎えるわけです。

結果のあり方

定性的な「雰囲気」を扱うことの多いPR戦略において、結果のあり方を正しく総合的に計測するのは容易なことではありません。戦略PRでお馴染み、本田哲也氏の著書に詳しいですが、PRの醍醐味は「空気が変わる」ことにあると思います。いわゆるパーセプションチェンジ(認知変化)が起こり、その後、人々の行動が変わる、ビヘイビアチェンジへと繋がる一連の流れです。Uberが誕生して以来、電話での配車はアプリに変わり、移動はオンデマンドに使える「サービス」へと認知を変えました。

一方、この認知・行動変化を「定量的に」かつ、一定期間の間に正しく計測するにはプロジェクト毎の設計が必要です。その点について山本さんたちは明確に「採用決定者数」をプロジェクトの指標に置いたそうです。中間指標としてのPVなどはありつつ、ここをプロジェクトとして関わる全ての社員と握れるかどうか、これはリソースやPRに関する経験値に乏しいスタートアップにとって大変重要です。ものすごく大切。

ただ、同時に露出がなければ当然これらの結果も生まれません。山本さんも田原さんもこの露出が生み出す「モメンタム」を気にしていました。今回のプロジェクトでは山本さんはWeb3という世界的なモメンタム、25億円というインパクトのある数字を背景に、露出を最大化させる工夫をしました。しっかりと考えられているなと思ったのはそこからの導線設計です。この大量の注目を「採用決定者数」に繋げるために山本さんたちは何をしたのか。

「資金調達のPRをやるとなった時、私も初めてのことなので田原さんに相談しながらも。 他社さんのPRの仕方とかを一通りリサーチしてたんです。それで私自身が感じたことが、調達に合わせたイベントやコンテンツがたくさん出てくるんですけれども、一度に出してしまうと、その企業に関心ない限りは見にいかないのかなという考えが個人的な目線としてありました。そこでまず、プレスリリースを出した日に最大瞬間風速を出す件については、一番注目を集める場所は1カ所に定めた方が結果的に見られるかなと思っていました。

実際にやったこととしては、プレスリリースをまず拡散させる中で、着く先を1カ所に集めるという意味で特設サイトを設計しました。 石川さんのnoteであるとか、特別イベントであるとか、いろんなコンテンツを仕込んではいたんですけれども、それをバラバラに拡散させるのではなく、まずプレスリリースそこからの特設サイトという導線をひとつにしたんです。

もうひとつプラスで考えたこととしては、初日はプレスリリースで盛り上がって見られるけれども、やはり翌日以降って見られないかなと思っていました。そこで翌日以降も事前にメディアリレーションした記事は出てくるので、Gaudiy(ガウディ)という検索からコーポレートにたどり着いた人たちに対して、そこから特設サイトに移ってもらえるような導線も設計しました」。

結果、それらはしっかりと中間指標の数値に紐づいたのです。石川さんは代表として「認知変化」が採用の現場に起こったと語ります。

「結論から言うと本当にものすごく変わりました。

Gaudiyの認知はすごく良くなりましたし、やはり採用に絞ってやっていたので本当に自分が知っていた人とか、すごいなと思う人たちが入ってきたんです。今回のPRプロセスで「カネくさいWeb3」というメッセージも戦略的にやったんですが、僕たちがやらなきゃいけないことは『Web3ってなんとなく言葉は聞いてるんだけどなんかこう金臭いよな、違和感あるよな』っていう人たちがちょっと見てもらえるような、広さを取ることをやったんです。面白かったのはWeb3界隈の人たちはほぼソーシャルで拡散していないんですよ。こういう結果になったのはすごい戦略的だったなと思いますね。Gaudiyがどう見られるのかを相談しながら進めていきました」。

モメンタムをどう継続させる

スタートアップのPRを伝える側として感じるのは、各社の目的が徐々に採用へ一本化しつつあるという流れです。スタートアップの本質はやはり人です。その多くは工場などの生産効率を上げて利益を生み出すモデルと異なり、テクノロジーを使って会社の資産を積み上げ、将来の期待値を短期間で作り上げるため、それを担うことのできる人材を確保することが命題になってきます。

Gaudiyが今回のPRプロジェクトで成功したのは、Gaudiyという会社の見え方を変えたことです。それは石川さんが話しているように彼らの会社の扉を叩く人々の顔ぶれが変わったことで結果として現れています。一方、この流れは瞬間最大風速で終わらせてはいけません。会社の認知が変わった今、これを継続して定着させることでカルチャーの一部に昇華していきます。継続のためにどのような施策を打ったのか、山本さんに尋ねたところ次のように答えてくれました。

「継続のために実際にやった施策としては3週連続でのイベント実施と、組織作りに関するnote、そして社員みんなの入社エントリーを出しましたね。イベントに関しての目線としてはまだGaudiyの認知が弱いと思っていたので、自社の事業とかチームを伝えるのではなく、世の中が関心を持ちそうなテーマを用意して、他社さんと一緒に登壇するという形のイベントを実施をしました。ではなぜ採用というゴールを置いたのにも関わらず、そういった企画にしたかいうと、まずはこのモメンタムを維持していくにあたって注目を定期的に集め続けるっていうところが大事だと思ったんです。

ちゃんと注目を集められるようなイベントの企画を3本立てでやって、私はそのコンテンツを出していく順序とタイミングがすごく重要だなと思っていました。まずGaudiyというWeb3のスタートアップで今ちょっと勢いがあるんだ、という認知がだんだん取れてきたなというタイミングでより組織のことだったりとか、人に関するコンテンツを出していくところを敢えてちょっと遅らせたっていう感じです」。

スタートアップのPR・広報は少ないリソースで取り組むため、どうしてもプライオリティが下がりがちです。必要とは思いつつ、いい人が採用できないからと間違った戦略のまま「お金」で露出だけを購入するという悪手もまま見られます。その点、Gaudiyさんのケースでは山本さんの存在はもちろんのことながら、長年伴走しているベンチャーキャピタルの存在も大きいと感じました。

彼らは幅広い支援先を長期に渡ってみているため、俯瞰したアイデアを提供してくれます。最近ではVC各社にコミュニケーションやPRのアドバイザーが常駐することも当たり前になりつつありますので、困っている人は後回しにせず、また、一緒に戦略を考えるのも一手かなと思います。後半では8月5日に開催したセッションの模様をお送りします。

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