台湾から93カ国に展開、ハンドメイドマーケットプレイス「Pinkoi」——特異なユーザ属性が生み出した独自戦略を探る

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Pinkoi の共同創業者兼 CEO Peter Yen(顔君庭)氏
Image credit: Pinkoi

独立系デザイナーのオリジナルデザイン製品を扱う台湾の e コマースプラットフォーム「Pinkoi」は、ギフトを選ぶための第一候補のオンラインマーケットプレイスであることは確かだ。Pinkoi に商品を掲載したいブランドはすべて厳しい審査を受けなければならず、その通過率はわずか10%である。このプロセスにより、Pinkoi の商品の品質が保たれ、ポジティブな口コミが生まれるのだ。

台湾の国家発展委員会は昨年、Pinkoi を台湾のスタートアップシーンを次のレベルへと導く「NEXT BIG」の代表的なスタートアップの1つに選出した。

Pinkoi の共同創業者兼 CEO Peter Yen(顔君庭)氏は、Pinkoi の勝利の方程式を次のように説明している。

オリジナリティとイノベーションが、Pinkoi の成功の鍵だ。我々は、Pinkoi の商品を多様化するために、世界中のオリジナルデザインブランドを採用し、新しいビジネスモデルを生み出すために AI システムを更新している。

台湾総統のTsai Ing-wen(蔡英文)氏、国家発展委員会主任委員の Kung Ming-hsin(龔明鑫)氏、「NEXT BIG」に採択された Pinkoi を含む9社の代表。
Image credit: Startup Island Taiwan

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Pinkoi の進化

2011年8月の創業以来、Pinkoiは1,200万以上のオリジナルデザイン商品を販売し、世界93カ国に展開、32,000ブランドを取り扱い、500万人以上のアクティブ会員を有している。また、Pinkoi の受注量と会員数は2011年以降、2桁の成長を続けている。

Pinkoi は2015年、Sequoia Capitalから900万米ドルの出資を受け、その後、グローバル市場でオリジナルデザインのブランドを採用し、海外に拠点を設け、現地に合わせたマーケティングプランを提供することにより、香港、タイ、日本などの海外市場への展開を開始した。Pinkoi の販売実績によると、65%以上のブランドが越境受注をしたことがあるという。

さらに、ミッフィーやスヌーピーなどの海外IPとのコラボレーション企画もスタートした。

AI による独自のレコメンドシステムの実装

Pinkoi は2020年、新たな有料機能「Pinkoi Ads」を開始した。これは、Pinkoi のすべての出品者が利用できる AI レコメンデーションサービスだ。この機能により、出品者にはパフォーマンスレポートを自動生成・提供され、出品者はキャンペーンごとにどれだけの効果が得られるかを分析できるようになった。この新しい SaaS ビジネスモデルは、わずか2年で Pinkoi の売上高の20%以上に貢献している。Pinkoi は、この数字が今後5年間で40%まで上昇すると見込んでいる。

Pinkoi は2016年以降、Pinkoi は新しい AI 技術の研究に数千万米ドルの資金を投じ、「ノンリニアレコメンデーションモデル」を開発した。このユニークなモデルは、商品とユーザの情報をスタイル、色など数百の要素に分け、ユーザの好みを特定する。このモデルの導入後、Pinkoi のレコメンデーションのクリック率は50%上昇し、リーチだけでなくコンバージョン率も向上している。

Pinkoi は2016年以降、数千万米ドルを投じて新しい AI 技術を研究し、「ノンリニアレコメンデーションモデル」を開発した。
Image credit: 蔡仁譯

AI を使ったレコメンデーションモデルは、EC プラットフォームにとって必要かつ一般的な機能になっていたにもかかわらず、Pinkoi はモデル開発中にエネルギーを消耗してしまったのである。

Pinkoi の顧客属性は特異だ。(Yen 氏)

例えば、Pinkoi のユーザ1人当たりの平均ページビューは10ページ以上で、他の EC プラットフォームの4~5倍にもなる。この現象は、Pinkoi のユーザが、自分の予想を超えたクリエイティブで新しい商品を探求するために、より多くの時間をオンラインショッピングに費やしていることを示している。

そのため、Pinkoi のための AI レコメンデーションモデルは、ユーザが興味を持ちそうなカテゴリ横断的な商品を推奨し、Pinkoi でのオンラインショッピング中にユーザに驚きを与えることができるよう、ノンリニアである必要がある。しかし、このPinkoi 用のノンリニアモデルを開発するのは簡単なことではない。Yen 氏は、暫定結果として、クリック率が低く、アルゴリズム効率も低いものであることを認めた。具体的には、100人中3人しかレコメンドを受け取らなかった。

Pinkoi の特殊なノンリニアレコメンデーションモデル

最適化を重ね、4年後、ついに Pinkoi でこの独自の「ノンリニアレコメンデーションモデル」が稼動した。この新システムにより、Pinkoi はユーザの嗜好を的確に分析し、カテゴリを超えた商品をレコメンドすることで、ユーザが多様な商品にリーチできるようになった。例えば、マグカップを買った後に、キャンプ用品が Pinkoi のレコメンドに表示されるかもしれない。

しかし、この新しいビジネスモデルでは、マーケティング予算が少ない小規模ブランドの露出度を下げ、一方、大規模ブランドは Pinkoi のこの新サービスに多く投資することで露出度を上げることになるのだろうか。答えは、大きな NO だ。

Pinkoi の AI レコメンデーションモデルは、各ブランドが投資する予算にだけが依存しているわけではない(Yen 氏)

前述の通り、システムには色やスタイルなど何百もの要素が含まれており、高品質でオリジナルである限り、各製品がレコメンドされるチャンスは同じであることを保証しているのだ。

Pinkoi の国際戦略

新しいビジネスモデルの開発と同時に、国際的な展開も Pinkoi にとって重要である。現在、Pinkoi の注文のうち、国境を越えた注文は40%を占めている。世界5大市場のうち、台湾、香港、マカオ、日本は、Pinkoi にとって最も重要な市場であり、現地オリジナルブランドの採用と現地消費市場でのマーケティングの両方に、より多くの投資を行う必要がある。一方、Pinkoi は2019年からタイと中国のローカル消費者市場には他のマーケティング予算を使わないことを決定し、既存の資本、人材、時間をオリジナルデザイン製品の需要が高い市場に集中させることにした。

また、国ごとの消費者の違いも、Pinkoi が国際戦略を変更した理由の一つである。例えば、タイや中国の消費者は、高価格のオリジナルデザイン商品を歓迎しないが、この2カ国のデザイナーは、 Pinkoi に限りなくクリエイティブで新鮮な商品を提供してくれる。そのため、Pinkoi は現地でのマーケティングに予算を割かず、現地のオリジナルデザインのブランドを採用することに重点を置いている。

日本の消費者は、商品の品質やデザインに対する基準が高く、フォントや色使いなど、細部に至るまで消費者の期待に応えなければならない。韓国と中国のいくつかの都市は検討中だ。でも、さまざまな状況次第だ。(Yen 氏)

興味深いことに、ヨーロッパやアメリカはPinkoiの計画には入っていない。

欧米ではデザイン産業は100年以上の歴史があり、アジアではまだ初期段階であり、ポテンシャルがある。(Yen 氏)

しかし、国際市場で安定した地位を築く上で、同じくハンドメイドやヴィンテージに特化したアメリカの e コマース企業 Etsy など、他のプラットフォームと比較して消費者に選ばれる Pinkoi の特徴とは何だろうか。まず、Pinkoi はブランド審査があり、商品の品質とオリジナリティを保証している。さらに、Pinkoi は独自の AI レコメンデーションモデルを備えており、ユーザはさまざまなカテゴリの多様な商品にアクセスすることができる。

新しいビジネスモデルの展開に加え、国際的な展開も Pinkoi にとって重要なポイントだ。現在、Pinkoi の注文のうち、越境注文は40%を占めている。
Image credit: Pinkoi

次のステップ

Pinkoi は2022年後半、Facebook でいうところのニュースフィードのような機能である「フィード」をリリース予定、ただし、今年リリースするバージョンはベータ版となる予定だ。この機能の次の目標は、ブランドが投稿を共有し、KOL(インフルエンサー)との関係を維持する Pinkoi エコシステムを構築することだ。長期的には、Pinkoi は、他のブランドの公式サイトが AI アルゴリズムを実装するのを支援したり、直接 MarTech サービスを提供するために、エコシステムの外で新しい SaaS ビジネスモデルを開発することを期待している。この計画は、早ければ3年後にキックオフする予定だ。

オンラインプラットフォームと海外市場の両方が軌道に乗った後、IPO が次のステップとなる。Yen 氏は、Pinkoi が3〜4年後に正式に上場する計画で、香港、アメリカ、台湾での上場が検討されていることを明らかにした。しかし、IPO は Pinkoi の目的地ではなく、チェックポイントである。

IPO の10年後には、さまざまなサービスやグローバル市場に進出し、持続可能な開発型企業になりたいと考えている。(Yen 氏)

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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