エネルギー問題には原子力が不可欠ーービル・ゲイツ氏率いるTerraPowerに韓国大手ら7.5億ドル出資

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Image credit:TerraPower

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ニュースサマリ:原子力開発を推進する「TerraPower」は8月15日、7億5,000万ドルの資金調達を公表している。このラウンドは同社の共同創業者でもあるビル・ゲイツ氏と韓国大手エネルギープロバイダ、SK Inc.とSK Innovationが共同でリードした。SKグループはこのラウンドで2億5,000万ドルを出資しており、それ以外の投資家はリリースにて開示していない。

同社の創業は2006年。エネルギ−問題を掲げるビル・ゲイツ氏らのグループによって設立された同社は安全かつ適正な価格のカーボンフリー・エネルギーの供給を目指している。

話題のポイント:脱炭素の文脈で「再生可能エネルギー」「核融合」など、クリーンで安全なエネルギー源の創出が期待されるようになりました。しかし実証段階に徐々に進んでいるものの、今後実用化までどの程度時間がかかるのか、本当に技術的な課題をクリアできるのか、超えなければいけない壁はまだまだたくさんある状況です。

この次世代エネルギー源の座を既存技術の改良で目指す企業もあります。今回取り上げたビル・ゲイツ氏が共同創業し、現在もボードメンバーのひとりとして会長を務めるTerraPowerもその内の一つです。

原子力のイノベーションカンパニーを謳い、もちろん発電自体にも着手していますが、応用として放射科学研究所を設立し、がん治療機器の開発もサポートしています。

色々プロジェクトが存在する中でもとりわけ着々駒が進んでいるのが、Molten Chloride Fast Reactor (MCFR) プロジェクトでしょう。安全性・信頼性、経済性、持続可能性(核廃棄物の最小化、高い燃料利用効率)、核拡散抵抗性の確保などの達成を目的とした第4世代原子炉で、2030年までの実用化を目指す技術として挙げられている「溶融塩炉」を軸とした開発を進めています。

溶融塩炉の技術開発の歴史は古く、1950年代から1970年代にかけてオークリッジ国立研究所で実験が行われていた技術です。日本で主流の原子炉である「軽水炉」では、固体の燃料を用いて核分裂で発生させて熱エネルギーを生み出し、これらを取り出す冷却材の役割を普通の水に任せる方式を採用しています。

これに対し、ウランやトリウムなどの核燃料物質を溶融塩に溶解させて燃料と冷却材の2つの役割を持つ液体燃料を用いる方式を溶融炉と呼びます。

液体である点と使用できる核燃料物質がウラン238からトリウム232に変わる点が大きいなメリットとなり、本来必要な燃料成形加工が不要、燃料交換不要であるため連続運転による稼働率を向上、液体の自重落下を利用した安全設計可能など第4世代原子炉として求められる性能を満たすことが期待されています。

Image credit:TerraPower

TerraPowerでは溶融塩炉をベースにした溶融塩高速炉を開発中です。ここで採用されている高速中性子スペクトルは、核分裂汚染副産物による影響を最小限に抑え、溶融塩炉でこれまで必要だったオンライン再処理が不要となりより経済性が増しているモデルになっています。

概念設計は2016年1月にアメリカのエネルギー省(DOE)のコストシェアリングを授与されており、統合効果試験(IET)が今年からワシントン州エバレットの施設で試運転が開始される予定となっています。

冒頭でも記述した通り、脱炭素に向けて再生可能エネルギーは世界で増え続ける電力需要に答える能力をまだ持っていません。

徐々に目標に近付くにはエネルギーミックスの概念を念頭に置く必要があります。日本人はこれまで不幸なことが続いたため、原子力にネガティブなイメージが強いのは事実です。しかし、環境保全と持続可能な社会を現在の資本主義の中で達成を望むとき、原子力発電を無視して通るのは最善ではないという報告があります。

エネルギー問題が注目を集める今、原子力とは一体どんな技術で、何が危険で、どんな恩恵があるのか、見直す良いタイミングが近づきつつあると感じています。

TerraPowerでは溶融塩高速炉に加えて、ナトリウム原子炉と統合型エネルギー貯蔵システムの実証実験、進行波リアクター技術の開発、医療アイソトープの開発など、先進的な技術の実用化に幅広くリソースを注ぐ会社で影響力は増しています。

次の機会には他の脱炭素エネルギープロジェクトもご紹介していく予定です。

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